14 / 25
やっぱこいつクソクズだわ
しおりを挟む
堀越との爛れた関係に悩んでいた、ある日のことだった。
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
「そう。お前仕事中で悪いけどさ、雰囲気だけでも楽しめよ」
学食でカツカレーを食ってたら、透夜が隣に座って来てそう言った。
「え~、お前ら騒いで店に迷惑掛けんなよな。あといっぱい注文して店に貢献しといて」
「大丈夫大丈夫、任せといて」
そんなことを言って笑い合っていたら、俺の肩をポン、と叩くやつがいた。
振り返ると人のいい笑顔で堀越が立っていた。
「げっ!?ほ、堀越・・・」
「へ~?今日璃央クンのバ先で飲み会あんの?松原くん、俺も行きたいんだけど、いいよね?」
そう言われて透夜はぎこちない笑顔で頷いた。
「う、うん、もちろん!あ、会費3000円ね」
「分かった」
そう言って堀越は俺を振り返ると、ニコリと笑った。
「楽しみだな~。働いてる璃央クン見んの。一緒に働いてる先輩も今日いるんだよね?」
ドッと冷や汗が出て、心臓がドキドキして来た。
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
とぼけた顔でそんなことを言う堀越に、透夜はもちろん訳が分からないって顔をしてぽかんとしている。
俺は焦ってガタン、と席を立つと、
「ちょっと来い!」
堀越の腕を掴んで学食の端に移動した。大人しく付いて来た堀越は無表情で、何を考えているのか分からない
「おい、お前どういうつもりなんだよ?波風立てるようなことするつもりじゃねーだろうな?」
声を潜めながらも強く言うと、
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
堀越のやつはそんなことを言い出した。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
思わず叫んでしまったら周りのやつらに驚いた目で見られて、俺は仕方なく途中で黙った。
けど、ホント、マジでこいつ、最低最悪な奴だ。ああ、あの時の俺に言ってやりたい。
こんな奴に相談なんかすんなよ!って。
堀越は俺の言ったことはスルーして、澄ました顔をしている。
「で?どうすんの?」
「う・・・」
俺は汗の滲む拳をぎゅっと握りしめた。
こいつ、絶対面白がってる。堀越が先輩を掴まえて『面白いこと教えてやろうか』なんて言いながら俺とのあれこれを暴露しているシーンが脳裏に過ぎって、絶望した。
「わ、分かったよ・・・!その代わり絶対、金輪際、先輩に俺とのこと、言うなよ!この前みたいに誤魔化さないでちゃんと約束しろ!」
「ああ、いいよ。何だったら録画でもする?」
堀越はあっさりとそう言って、「ほらスマホ出せよ」と戸惑っている俺からスマホを受け取ると、本当に録画しながら「璃央が俺んち泊まりに来てくれたら、俺は璃央とのことを先輩に言わないって約束する」と言った。
あまりに素直過ぎて、何か裏があるんじゃねーか?と逆に疑うくらいだった。
でも、録画したんだから何かあったらこれで乗り切ろう。
フォルダにしっかり残っている、堀越の動画を確認しながら思った。
「なぁ、今日バイト何時に終わるの?」
ふいにそう聞かれて、
「え?22時だけど」
怪訝に思いながら答えると堀越はニコッと笑った。
「じゃあさ、終わる頃迎えに行くから。それで俺んち行こうぜ」
「いきなりかよ!?」
ぎょっとしたけど、先延ばしにされてその間ずっと気になってんのも心臓に悪いから、さっさと済ませてしまった方がいいかもな、と思い直して、俺は渋々頷いた。
「・・・分かったよ。けど、絶対先輩に見つからないようにしろよな。店の前でなんか待つなよ。店出たらメッセージするから友達登録しといて」
「ん。おけ」
仕方なく堀越とメッセージアプリで友達になって、連絡が取れるようにすると、俺は「じゃあな!」と席に戻った。ああもう、せっかくのカレーが冷めちゃったじゃんかよ。
「璃央、大丈夫?堀越と何話してたん?なんか叫んでなかった?」
席で待っていた透夜が心配そうに聞いてくる。
ああ、もうあいつマジでクソクズでさ、って言いたいところだけど、言ったら絶対理由聞かれるしな。
「ん、んん~?そっか?いやぁ~話してたら興奮してつい、声がデカくなっただけだよ。アハハ・・・」
「ふーん、そっか?」
我ながら苦しい、と思う言い訳で誤魔化したけど、透夜も訝しそうな顔しながらも、それ以上追及してこなかったから助かった。
*****
バイトに行くのにこんなに緊張したことあったっけ?ってほど緊張して、俺は店に入った。店内の様子が見えないのがよけい、心配なんだよな。俺はキッチンで、先輩はホールだからさ・・・
俺がいない時に堀越がよけいなこと言わないかハラハラする。一応証拠の動画もあるし、約束はしたけど、あいついまいち信用出来ねーし。
「田中君。今日、君の大学のサークルの子達、予約入れてたよね。その子達来たらホールに代わる?」
「え・・・いいんですか?」
俺の所属してるサークルが何度かここで飲み会やってるから、気を遣ってくれたんだろう。店長にそう言われて俺は少しホッとした。
これで先輩を堀越に近付けないで済む。
落ち着いた俺は、キッチンでいつものように鳥焼いたり食材を用意したり、忙しく動き回った。そして、透夜たちがやって来た。
「おー、働いてる働いてる~」
揶揄うように言う透夜に「うるせー。ほら、飲み物のオーダー取るから言えよ」と返しつつ、目を走らせるとこっちを見ている堀越と目が合った。
分かってるよな?の意味でじっと見てやったけど、外面なのかニコッと人のいい笑顔を返して来る。
そして堀越の横には最近サークルに入ったらしい、見慣れない女の子達がいて、きゃっきゃっと楽しそうに堀越に絡んでいた。
堀越も内心どう思ってるかは知らねーけど、表面上は優しく笑って話している。
何だやっぱ、普通に女の子にもモテるんじゃねーか、あいつ。
クソクズのくせに生意気な!と思いながらオーダーを受けて、陸人先輩にドリンクを作って貰う。
「楽しそうだね。璃央のサークルの子達。璃央も一緒に飲みたかっただろ」
陸人先輩に言われて俺は首を振る。
「別に。先輩知ってるでしょ、俺、酒そんな強くないんだって」
「はは、そうだったよね。酔っぱらった璃央可愛すぎるから、他の人の前じゃ飲まない方がいいな。はい、出来たやつから持って行って」
「はーい」
こそこそとそんなことを話して、透夜たちの所に出来たドリンクを持って行った。
「はーい、ウーロンハイと、ビール、レモンサワー、角ハイボールお待たせしましたー」
「来た来たー」
「それこっちね」
俺はドリンクをテーブルに置きながら、ちらっと堀越を見た。
さっきの女の子たちに両脇を固められて話しかけられてる。あの、俺に対するクズぶりがウソみたいに穏やかそうに笑ってて、こいつホントに堀越か?と疑うくらいだった。
ゲイだって言ってたけど、女の子もいけるバイなんじゃねーの?
・・・まあいいや。
まだまだドリンク運ばなきゃだしな。
俺はまた陸人先輩の所に戻って、出来たドリンクを片っ端から運んで行った。
「ウーロン茶と、オレンジジュースの方ー」
最後の方にソフトドリンクを持って行ったら、「それ、俺の」と堀越が手を伸ばして俺からウーロン茶を受け取った。
こいつ、そういえばいつも酒は飲まないよな。車で通学してるからか。まあそこはクズじゃなくて良かったよ。そんなことを思いながら立ち去ろうとしたら、堀越が手を掴んで来た。
「ちょ、お客様ぁ、何ですか?」
人目があるから邪険に出来ずに、顔が引き攣ったけど接客用の笑顔でそう言うと、堀越は「トイレどこかな?」と聞いて来た。
そんなん聞かなくても、店内表示でハッキリ分かんだろが!
と思いながら、
「ああ、トイレならあちらの奥になりますぅー」と手で指示してやった。
「え?ごめん、俺酔ってるみたいで一人で行けそうにないから、連れてってくれないかなあ?」
「お前っ、まだ一口も飲んでねーだろが!それにっもが!」
頼んだのもウーロン茶だろーが、と言おうとしたら堀越に口を塞がれた。
「いいから連れてけよ。先輩にこんなところ見られていいの?」
こっ、このクソ野郎が!
ムカついたけど、客席でごちゃごちゃやってるのは良くない。俺は「分かったよ!」と言うと、堀越の腕を強く掴んでトイレまで引っ張って行ってやった。
奥まっていて客席からは見えにくい場所だ。
小声で「お前何考えてんだ!」と言うと、堀越はハァ、と溜息を付いて言った。
「だってさ、女に絡まれてウザかったんだよ。だからヤなんだよな、こういう場って」
あれ、女の子に囲まれて喜んでると思ったのは気のせいだったのか。やっぱこいつ女の子は好きじゃねーのかな。
「だからってたかがトイレくらい、俺に案内させることねーだろ」
呆れてそう言ったけど、堀越はそれをスルーして、「それよりさ」と口を開いた。
「あいつなんだろ。お前が付き合ってんのって。俺には負けるけど、あの茶髪のイケメン」
堀越が指差してるのは、まさに陸人先輩だった。
「な、なんで分かったんだよ?」
思わず言ってしまってから、やべぇと口を押えた。
「あはは、ほんとアホ可愛いなぁ、璃央は。なるほどねぇ、あれが陸人先輩か。ふーん。あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
好奇心なのか、何なのか、じっと先輩を見つめる堀越に釘を刺す。
「おい、分かってるだろうな。約束」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
かるーく言う堀越に不安が募ったけど、早く仕事に戻らなきゃと焦って、俺は「大人しくしとけよ」と言い置いてドリンク運びに戻った。
それから怒涛のように忙しい時間が過ぎて、2時間くらいしたらサークルのやつらも飲み会を終えて帰って行った。
堀越は女の子がウゼーとか言ってたくせに、席に戻るとウソみたいに笑って話してて、こいつ二重人格かよと思った。
とりあえず約束は守られたみたいで、堀越が陸人先輩に話しかけたりすることもなくホッとした。
まあ、先輩も忙しくしてたから、声掛ける隙もなかっただろうけどな。
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
「そう。お前仕事中で悪いけどさ、雰囲気だけでも楽しめよ」
学食でカツカレーを食ってたら、透夜が隣に座って来てそう言った。
「え~、お前ら騒いで店に迷惑掛けんなよな。あといっぱい注文して店に貢献しといて」
「大丈夫大丈夫、任せといて」
そんなことを言って笑い合っていたら、俺の肩をポン、と叩くやつがいた。
振り返ると人のいい笑顔で堀越が立っていた。
「げっ!?ほ、堀越・・・」
「へ~?今日璃央クンのバ先で飲み会あんの?松原くん、俺も行きたいんだけど、いいよね?」
そう言われて透夜はぎこちない笑顔で頷いた。
「う、うん、もちろん!あ、会費3000円ね」
「分かった」
そう言って堀越は俺を振り返ると、ニコリと笑った。
「楽しみだな~。働いてる璃央クン見んの。一緒に働いてる先輩も今日いるんだよね?」
ドッと冷や汗が出て、心臓がドキドキして来た。
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
とぼけた顔でそんなことを言う堀越に、透夜はもちろん訳が分からないって顔をしてぽかんとしている。
俺は焦ってガタン、と席を立つと、
「ちょっと来い!」
堀越の腕を掴んで学食の端に移動した。大人しく付いて来た堀越は無表情で、何を考えているのか分からない
「おい、お前どういうつもりなんだよ?波風立てるようなことするつもりじゃねーだろうな?」
声を潜めながらも強く言うと、
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
堀越のやつはそんなことを言い出した。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
思わず叫んでしまったら周りのやつらに驚いた目で見られて、俺は仕方なく途中で黙った。
けど、ホント、マジでこいつ、最低最悪な奴だ。ああ、あの時の俺に言ってやりたい。
こんな奴に相談なんかすんなよ!って。
堀越は俺の言ったことはスルーして、澄ました顔をしている。
「で?どうすんの?」
「う・・・」
俺は汗の滲む拳をぎゅっと握りしめた。
こいつ、絶対面白がってる。堀越が先輩を掴まえて『面白いこと教えてやろうか』なんて言いながら俺とのあれこれを暴露しているシーンが脳裏に過ぎって、絶望した。
「わ、分かったよ・・・!その代わり絶対、金輪際、先輩に俺とのこと、言うなよ!この前みたいに誤魔化さないでちゃんと約束しろ!」
「ああ、いいよ。何だったら録画でもする?」
堀越はあっさりとそう言って、「ほらスマホ出せよ」と戸惑っている俺からスマホを受け取ると、本当に録画しながら「璃央が俺んち泊まりに来てくれたら、俺は璃央とのことを先輩に言わないって約束する」と言った。
あまりに素直過ぎて、何か裏があるんじゃねーか?と逆に疑うくらいだった。
でも、録画したんだから何かあったらこれで乗り切ろう。
フォルダにしっかり残っている、堀越の動画を確認しながら思った。
「なぁ、今日バイト何時に終わるの?」
ふいにそう聞かれて、
「え?22時だけど」
怪訝に思いながら答えると堀越はニコッと笑った。
「じゃあさ、終わる頃迎えに行くから。それで俺んち行こうぜ」
「いきなりかよ!?」
ぎょっとしたけど、先延ばしにされてその間ずっと気になってんのも心臓に悪いから、さっさと済ませてしまった方がいいかもな、と思い直して、俺は渋々頷いた。
「・・・分かったよ。けど、絶対先輩に見つからないようにしろよな。店の前でなんか待つなよ。店出たらメッセージするから友達登録しといて」
「ん。おけ」
仕方なく堀越とメッセージアプリで友達になって、連絡が取れるようにすると、俺は「じゃあな!」と席に戻った。ああもう、せっかくのカレーが冷めちゃったじゃんかよ。
「璃央、大丈夫?堀越と何話してたん?なんか叫んでなかった?」
席で待っていた透夜が心配そうに聞いてくる。
ああ、もうあいつマジでクソクズでさ、って言いたいところだけど、言ったら絶対理由聞かれるしな。
「ん、んん~?そっか?いやぁ~話してたら興奮してつい、声がデカくなっただけだよ。アハハ・・・」
「ふーん、そっか?」
我ながら苦しい、と思う言い訳で誤魔化したけど、透夜も訝しそうな顔しながらも、それ以上追及してこなかったから助かった。
*****
バイトに行くのにこんなに緊張したことあったっけ?ってほど緊張して、俺は店に入った。店内の様子が見えないのがよけい、心配なんだよな。俺はキッチンで、先輩はホールだからさ・・・
俺がいない時に堀越がよけいなこと言わないかハラハラする。一応証拠の動画もあるし、約束はしたけど、あいついまいち信用出来ねーし。
「田中君。今日、君の大学のサークルの子達、予約入れてたよね。その子達来たらホールに代わる?」
「え・・・いいんですか?」
俺の所属してるサークルが何度かここで飲み会やってるから、気を遣ってくれたんだろう。店長にそう言われて俺は少しホッとした。
これで先輩を堀越に近付けないで済む。
落ち着いた俺は、キッチンでいつものように鳥焼いたり食材を用意したり、忙しく動き回った。そして、透夜たちがやって来た。
「おー、働いてる働いてる~」
揶揄うように言う透夜に「うるせー。ほら、飲み物のオーダー取るから言えよ」と返しつつ、目を走らせるとこっちを見ている堀越と目が合った。
分かってるよな?の意味でじっと見てやったけど、外面なのかニコッと人のいい笑顔を返して来る。
そして堀越の横には最近サークルに入ったらしい、見慣れない女の子達がいて、きゃっきゃっと楽しそうに堀越に絡んでいた。
堀越も内心どう思ってるかは知らねーけど、表面上は優しく笑って話している。
何だやっぱ、普通に女の子にもモテるんじゃねーか、あいつ。
クソクズのくせに生意気な!と思いながらオーダーを受けて、陸人先輩にドリンクを作って貰う。
「楽しそうだね。璃央のサークルの子達。璃央も一緒に飲みたかっただろ」
陸人先輩に言われて俺は首を振る。
「別に。先輩知ってるでしょ、俺、酒そんな強くないんだって」
「はは、そうだったよね。酔っぱらった璃央可愛すぎるから、他の人の前じゃ飲まない方がいいな。はい、出来たやつから持って行って」
「はーい」
こそこそとそんなことを話して、透夜たちの所に出来たドリンクを持って行った。
「はーい、ウーロンハイと、ビール、レモンサワー、角ハイボールお待たせしましたー」
「来た来たー」
「それこっちね」
俺はドリンクをテーブルに置きながら、ちらっと堀越を見た。
さっきの女の子たちに両脇を固められて話しかけられてる。あの、俺に対するクズぶりがウソみたいに穏やかそうに笑ってて、こいつホントに堀越か?と疑うくらいだった。
ゲイだって言ってたけど、女の子もいけるバイなんじゃねーの?
・・・まあいいや。
まだまだドリンク運ばなきゃだしな。
俺はまた陸人先輩の所に戻って、出来たドリンクを片っ端から運んで行った。
「ウーロン茶と、オレンジジュースの方ー」
最後の方にソフトドリンクを持って行ったら、「それ、俺の」と堀越が手を伸ばして俺からウーロン茶を受け取った。
こいつ、そういえばいつも酒は飲まないよな。車で通学してるからか。まあそこはクズじゃなくて良かったよ。そんなことを思いながら立ち去ろうとしたら、堀越が手を掴んで来た。
「ちょ、お客様ぁ、何ですか?」
人目があるから邪険に出来ずに、顔が引き攣ったけど接客用の笑顔でそう言うと、堀越は「トイレどこかな?」と聞いて来た。
そんなん聞かなくても、店内表示でハッキリ分かんだろが!
と思いながら、
「ああ、トイレならあちらの奥になりますぅー」と手で指示してやった。
「え?ごめん、俺酔ってるみたいで一人で行けそうにないから、連れてってくれないかなあ?」
「お前っ、まだ一口も飲んでねーだろが!それにっもが!」
頼んだのもウーロン茶だろーが、と言おうとしたら堀越に口を塞がれた。
「いいから連れてけよ。先輩にこんなところ見られていいの?」
こっ、このクソ野郎が!
ムカついたけど、客席でごちゃごちゃやってるのは良くない。俺は「分かったよ!」と言うと、堀越の腕を強く掴んでトイレまで引っ張って行ってやった。
奥まっていて客席からは見えにくい場所だ。
小声で「お前何考えてんだ!」と言うと、堀越はハァ、と溜息を付いて言った。
「だってさ、女に絡まれてウザかったんだよ。だからヤなんだよな、こういう場って」
あれ、女の子に囲まれて喜んでると思ったのは気のせいだったのか。やっぱこいつ女の子は好きじゃねーのかな。
「だからってたかがトイレくらい、俺に案内させることねーだろ」
呆れてそう言ったけど、堀越はそれをスルーして、「それよりさ」と口を開いた。
「あいつなんだろ。お前が付き合ってんのって。俺には負けるけど、あの茶髪のイケメン」
堀越が指差してるのは、まさに陸人先輩だった。
「な、なんで分かったんだよ?」
思わず言ってしまってから、やべぇと口を押えた。
「あはは、ほんとアホ可愛いなぁ、璃央は。なるほどねぇ、あれが陸人先輩か。ふーん。あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
好奇心なのか、何なのか、じっと先輩を見つめる堀越に釘を刺す。
「おい、分かってるだろうな。約束」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
かるーく言う堀越に不安が募ったけど、早く仕事に戻らなきゃと焦って、俺は「大人しくしとけよ」と言い置いてドリンク運びに戻った。
それから怒涛のように忙しい時間が過ぎて、2時間くらいしたらサークルのやつらも飲み会を終えて帰って行った。
堀越は女の子がウゼーとか言ってたくせに、席に戻るとウソみたいに笑って話してて、こいつ二重人格かよと思った。
とりあえず約束は守られたみたいで、堀越が陸人先輩に話しかけたりすることもなくホッとした。
まあ、先輩も忙しくしてたから、声掛ける隙もなかっただろうけどな。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる