上 下
5 / 12

魔術師は嫉妬する

しおりを挟む
なんか、全部書けてるものを毎日小出しにするのもな~と思い、数時間置きに全部出しちゃうことにしました。

よ、読んでもらえるかな?ブクマ、評価して下さった方々、ほんっとにありがとうございます!!めっちゃくちゃ嬉しいです。゜(゜´Д`゜)゜。

**********





マイロと並んで歩いていると、マイロがさりげなくトレミアの肩に手を触れたり、手に触れたりすることがあったが、トレミアはたまたま当たったくらいにしか思わなかった。

騎士団にいれば、多少の体の接触など日常だ。

植物公園に着くと、見渡す限りベルベットレッドやフューシャピンク、バイオレットの薔薇が咲き乱れていて、さしものトレミアも感嘆の声をあげた。

「うわあ、すっごく綺麗ですね!私、あんまりこの辺来たことなかったので初めて見ました」
「そうなんだ。じゃあトレミアちゃん連れて来れて良かったな。花畑の中に散歩道があるから歩いてみようよ」

言って、マイロは自然にトレミアの手を取って歩き出した。

「わぁー、すごくいい匂いがしますね」

いつもは食い気優先のトレミアもさすがに、この圧倒的な薔薇の美の前では、普通の女の子のようにうっとりとしていた。

「向こうに噴水があるんだ」

マイロが手を引くので、トレミアもそのまま付いていく。噴水はかなり大きく、真ん中の大きな水柱の周りに小さな水柱がいくつも噴き出しているものだった。

「なんかすごいですね」

「でしょ。意外に静かだし雰囲気もいいから、俺はここけっこう好きなんだ」


マイロが噴水の前のベンチに座り、トレミアをそのまま横に座らせる。

そうして少し他愛無い話をしていると、マイロの手がトレミアの方に伸びてきて肩を抱かれた。


「ん?」


トレミアもさすがに疑問に思いマイロを見ると、微笑みながらマイロもトレミアを見た。


「トレミアちゃんは可愛いね」

「……ん?」


そしてマイロの顔が何だか近くなってくる。


(これは……なんか、ちょっと怪しい雰囲気なのでは……?)


遅ればせながらやっと、トレミアもこれはまずいと思い始めた。マイロのことを職場の世話焼きの、いい先輩としか思っていなかったので、まさかこんな風になるとは思ってなかったのだ。

ユアンはいつもそっけないし、こんな風に迫られた経験はゼロだ。

とにかく、このままマイロの顔の接近を許すわけにいかない。さりげなく、距離を取って顔をそむけようとしたが、肩を掴む手の力が意外に強く、身体を離すことが出来ず焦る。

いや、剣聖の身体能力を以てすれば、本気で拒絶しようと思えば簡単に出来る。
しかしマイロにはいつも世話になっていて可愛がってもらっている自覚はあった為、急に本気で突き飛ばすのも憚られて躊躇してしまった。


何とか、言葉で説得しようとしてトレミアは焦りながら言った。

「あ、あのマイロ先輩っ、その、顔がなんだか近いと思うのですがっ」
「ん?だってキスしようとしてるから」

事も無げに言うマイロに、トレミアはびっくりして声を上げた。

「え、えええっ!なっ、なんでですかっ!だめですよ!」
「なんで?こんなに可愛いトレミアちゃんを前にしたら、キスしたくならない男はいないよ?」

たぶん、こういう顔をされたら大抵の女の子は蕩けてしまうだろう。
そんな甘い顔でマイロはトレミアから視線を外さず、見つめ続ける。

「いや、そういうのは好きな人にしないとだめですっ!」

必死で説得しようと焦るトレミアに、マイロは妙に真面目な顔で言う。

「俺はトレミアちゃんのこと好きだけど?」
「えええっ冗談ですよね?からかってますよね?」
「冗談でもなんでもないけど。本当に好きなんだけど」
「い、いやいやいや、だめです、それに私はユアンが、好きな人がいますっ」

必死にマイロの顔を両手で押しやりながらトレミアが言うと、マイロはちょっと興を削がれたような顔をしたが、すぐ不敵に笑って言った。

「ああ、ユアンてこの前の魔術師くんだよね?あの子はやめた方がいいんじゃない?せっかくトレミアちゃんに好意を向けてもらってるのに、ぜんぜんそれに応える気がないみたいじゃん。愛想もないしさ。俺ならもっと君をたっぷり可愛がってあげるし、優しくするよ?君だってちゃんと愛を返してくれる相手の方がいいんじゃない?」

痛いところを突かれ、トレミアは全身の血が冷えていく気がして、抵抗する力が抜けた。

それはずっとトレミアが気が付かないふりをしていたことだ。
あんなにはっきりユアンのことが好きだと表し続けているのに、ユアンの冷たい態度はもうずっと変わらない。

(ユアンはやっぱりもうとっくに、私のことなんて嫌いになってるのかもしれない……。)

「ねえ……俺なら君のことずっと大事にするよ。そんな哀しい顔なんてさせたりしない。君がずっと笑ってられるように守るから、俺と付き合ってよ」

「わたし、私は……」

その時、人の気配がしてトレミアはふ、と目をあげた。すると、そこには顔を強張らせたユアンと、プラチナブロンドと紫の瞳のものすごく可愛い女の子がいた。

「ユ、ユアン!」

マイロはニヤッと口の端を上げて笑う。

「あれ~、君もデートだったのかな?でもちょーっと今いいところだから、見てないでどっかに行ってくれないかなー?」

「……ッ」

ユアンは唇を噛みしめてマイロを睨みつけた。



「ユアン、その人誰?本当にデートなの?」

思わずトレミアが聞くと、ユアンは弾かれたように声をあげた。

「お前だって、そんなやつとデートしてるくせにっ!」

びくっとトレミアが身体を震わせるとマイロがかばう様にトレミアを抱きしめた。

「あーらら。そんな大声出しちゃって、トレミアちゃんかわいそう。大丈夫だよ。俺が守ってあげるからね」
「ちょっ……お前!何してるんだ!トレミアを離せよ!」

思わず、ユアンは叫んだ。

「何言ってんだお前。お前にそんなこと言う権利あるわけ?」

マイロがユアンを睨み返す。



「俺はトレミアちゃんが好きだ。だから彼女が傷つくようなことは言わないし、やらない。何があっても守ってやるつもりだ。けどお前はどうなんだよ?あんなに彼女に好意向けられてんのに、まともに向き合ってもねえじゃん」

「ぐっ……」

「そのくせ、トレミアちゃんが誰かに取られそうになったら独占欲で嫉妬かよ?あまりにガキで呆れるぜ。いいか、お前にはそんな権利は一つもねえんだよ、ガキはおとなしく家に帰って一人でオ……」

少しばかりイラついたマイロは、ついいつもの調子でユアンを挑発しようとして、レディーの前で言うべきではないことまで言いそうになり、黙った。

そして何も言えずに唇を噛みしめて黙り込んだユアンを見てニヤリとすると、トレミアの顎にそっと手を添えてその唇に口付けした。

「……っ!!」

ユアンは踵を返すと、そのままその場を走り去ってしまった。

背景の一部になってしまっていたフィンリーは、それでようやく動けるようになったらしく、ちらっとトレミア達を見た後、ユアンを追って走っていった。

それを見送るとマイロは腕の中で呆然としているトレミアを見て言った。

「ごめんね、急にこんなことして。でも、俺がさっき言ったことは全部本気だから。君が好きなんだ。だからちゃんと考えて欲しい。すぐには答えを出さなくていいからさ」
「わっ、私、帰ります……」
「送っていくよ」
「いえ、いいです。一人で帰りたいです……」

分かったよ、心配だけど……と言いながら、マイロはその場に留まり、トレミアは少しふらつきながらも公園を出て宿舎まで戻った。

あまりにも色んなことが一気にあり過ぎて頭がパンクして、どこをどう歩いたのか全く分からなかった。

「トレミア!ずいぶん帰りが早いじゃない!どうだったの!?」
「マイロさまに送ってもらわなかったの?」
「トレミア。何かあった?」

宿舎の3人娘が帰って来たトレミアをわっと囲んだが、トレミアの青ざめて混乱しきった顔を見て、何かあったらしいと悟る。

「まさかないとは思うけど、マイロ様に何かされたの?」
「うそ、無理やりとか!?」
「もしそうならマイロのやつは私がやる。」

「ち、違うよ……。そんな酷いことはされてないよ。ただ、色々あってショックが大きくて、頭がぐるぐるしちゃってるだけ」

剣呑な雰囲気を醸し出した3人に、トレミアは我に返ってぶんぶんと首を振った。

「えっと……もうちょっと自分でいろいろ考えたいから、私、部屋に戻るね」

「トレミア、無理しないで!限界!ってなったら相談に来ていいんだからね」
「そうだよ!私たちだって少しは役に立つんだからね」
「うん。言ってくれたらいつでも私が天誅を下す」

「あははっ……」

ふんす、と胸を張る3人に、ようやくトレミアは弱々しいながらも笑顔を見せて部屋に戻っていった。


***********
マイロのセリフはほんと書きやすいです。この回は自分でも好きな回です(´ ω` )
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大好きな幼馴染と結婚した夜

clayclay
恋愛
架空の国、アーケディア国でのお話。幼馴染との初めての夜。 前作の両親から生まれたエイミーと、その幼馴染のお話です。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

大きな騎士は小さな私を小鳥として可愛がる

月下 雪華
恋愛
大きな魔獣戦を終えたベアトリスの夫が所属している戦闘部隊は王都へと無事帰還した。そうして忙しない日々が終わった彼女は思い出す。夫であるウォルターは自分を小動物のように可愛がること、弱いものとして扱うことを。 小動物扱いをやめて欲しい商家出身で小柄な娘ベアトリス・マードックと恋愛が上手くない騎士で大柄な男のウォルター・マードックの愛の話。

国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。 「陛下は、同性しか愛せないのでは?」 そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。 ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

大好きな義弟の匂いを嗅ぐのはダメらしい

入海月子
恋愛
アリステラは義弟のユーリスのことが大好き。いつもハグして、彼の匂いを嗅いでいたら、どうやら嫌われたらしい。 誰もが彼と結婚すると思っていたけど、ユーリスのために婚活をして、この家を出ることに決めたアリステラは――。 ※表紙はPicrewの「よりそいメーカー」からお借りしました。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

騎士団長の幼なじみ

入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。 あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。 ある日、マールに縁談が来て……。 歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。

処理中です...