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二章 スキル進化の悪趣味な条件と異世界転移者ロシュヴァルド=フォン=アーデルハイド
葛藤 sideヒューゴ
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ユキトがスキルの事を言いにくそうにしてたから、俺はユキトが俺にしたように
「それなら俺達の事、『鑑定』して見てくれ。喋るより早いしな」
とロシュに言ってやった。
スキルの特性を知ったロシュは驚いてた。そりゃそうだ。俺だって最初知った時はめちゃくちゃ驚いたからな。
ロシュは意外にユキトを気遣って、無理に事を進めようとはしなかったから、そこはちょっと安心した。それに、ロシュに自分とするのは嫌か、って聞かれたユキトが、俺のことをちゃんと「恋人」だって言ってくれた時は、嬉しくて、照れてそっぽを向くユキトに思わず抱き着いちまった。
ユキトにそんな風に言って貰えるなんて全然思ってなかったから、胸がじんとした。
やっぱり俺、ユキトの事が好きだ。照れてそっけない態度も、最初は恥ずかしそうにしながらも、いざそういう雰囲気になると急にエロくなって乱れてくれるのも、全部、可愛い。
……本当は、そんな可愛い姿を見るのは、俺だけでいい。俺だけのものでいて欲しい。
だけど、ユキトのスキルの特性上、そういう訳に行かねえ……
魔王を倒さないとこの世界から、あいつから自由になる事は出来ない。だけど現状、魔王を倒せるかもしれない手段は、ユキトのスキルを進化させてダメージ量を増やす事しかねえ。
……もう、魔王なんて倒さなくてもいいんじゃねえか?
今だって充分幸せなんだ。ユキトと一緒なら、この世界にずっといる事になったって俺は、それでもいい。
この世界の事だって、元々気に入ってる。自然は綺麗だし、飯も美味いし。
だから思わずユキトに、「俺は、お前と一緒ならずっとこの世界で暮らしてもいいんだからな?」って言っちまった。それは勿論本心だ。
だけど、本当の本音は、ユキトに俺以外の男、ロシュや他の転移者として欲しくない。
……そんな、つまんねえ嫉妬心だ。
ユキトはいつも俺のこと、器がでかいとか、芯があって揺るがない所が凄いなんて言ってくれるけど、俺は本当はこんな、くだらねえやきもちなんか焼く、ただのガキなんだよ。
でもそれを知られるのは、何だか怖かった。
ユキトに落胆されるんじゃないか。呆れられるんじゃないか。
そう思うと、こんな事言えやしねえ。
そんな事を考えてしまってる俺を知られたくなくて、ただ、ぎゅっとユキトを抱き締めた。
ユキトは俺の言葉に、感動したように目を潤ませてたけど、しばらくして首を振った。
「ヒューゴ。俺は、そんな風に言って貰えるだけで充分だよ。それに俺は、ヒューゴのその気持ちに甘えて、寄りかかってるだけなんて、俺自身が嫌なんだ。だから」
あ、あ……頼む、その先を、言わないでくれ……
俺の馬鹿な願いも虚しく、ユキトは、言った。
「ロシュ、俺はお前とセックスしてスキルをコピーさせて貰うよ。そして魔王を倒して、ヒューゴもロシュも元の世界に戻れるようにする」
ユキトの気持ちは嬉しい。だけど……辛い。
おまけにロシュは、俺が何となく感じてたように、ユキトに惹かれてるとはっきり言った。
それに、性急に事を進めようともせず、ちゃんと優しい気遣いを見せた。
「数日、僕と一緒に過ごしてくれないか?その間に僕の事を好きにさせてみせるから」
そう言ったあと、
「もちろん、夜はヒューゴと過ごしてくれていい。僕は君を無理やり抱いたりしない。ねえ、どうかな?ヒューゴもそれでいい?」
俺にまで、気を遣って来た。
ロシュがもっと嫌な奴なら、俺も堂々と反対してやれたのに、これじゃあ何も言えやしねえ。
そう提案するロシュにユキトは頷き、俺も、ユキトがいいならいい、と言うしかなかった。
そのあと3人で飯を食いに行ったが、ロシュのやつは気取ったところもないし、話しやすいし、普通にいい奴だと思った。
3人で色んな事話すのは意外に楽しくて、飯も進んだし、嫌な気持ちもいつの間にかどっか行ってた。
けど、神殿の部屋に戻る時、俺がふと思い出してロシュとの事、無理する事ねえんだからな、ってユキトに念押しするみたいに言った時、ユキトが言った、
「ロシュの事だって、さっき話して大分打ち解けられたし、ここに来る前に感じてた抵抗感も大分薄れたよ。俺だってもう初めてじゃないし、ロシュも悪い奴じゃなかったから、絶対に嫌だって思うほどじゃない。だからそんな心配しなくて大丈夫だよ」
その言葉に、もし、ユキトがロシュの方を好きになっちまったら、って怖くなった。
あんな、ユキトだって目を離せなかったくらい綺麗で、気遣いの出来る大人で、紳士的な態度のやつに本気で迫られたら、ユキトだって絆されてあいつのこと、好きになるかもしれない。
そんで、俺への気持ちが薄れてしまったら……
心は重く沈んで、そんな情けねえ自分も知られたくなくて。
俺の態度が妙な事に気付いた怪訝な顔のユキトにどうしたんだ、って言われたけど、今、一緒にいたら、これ以上黙ってられねえ。きっと、俺は情けない俺を全部ぶちまけちまう。
だからユキトと別れて俺は部屋に籠った。
自分に、こんな情けなくて、みっともない所があるなんて、俺は初めて知ったよ。
ああ、こんなのどうすりゃいいんだ。
戦う事しか知らなかった俺には、荷が重いよ。
******
2021/11/18新しく書いた話です。前バージョンだと、ヒューゴの内面を全然描写してなかったので、入れたいなと。初めて読んで下さる方、一度読んだけど改訂後もう一回読んで下さってる方、ありがとうございます。
「それなら俺達の事、『鑑定』して見てくれ。喋るより早いしな」
とロシュに言ってやった。
スキルの特性を知ったロシュは驚いてた。そりゃそうだ。俺だって最初知った時はめちゃくちゃ驚いたからな。
ロシュは意外にユキトを気遣って、無理に事を進めようとはしなかったから、そこはちょっと安心した。それに、ロシュに自分とするのは嫌か、って聞かれたユキトが、俺のことをちゃんと「恋人」だって言ってくれた時は、嬉しくて、照れてそっぽを向くユキトに思わず抱き着いちまった。
ユキトにそんな風に言って貰えるなんて全然思ってなかったから、胸がじんとした。
やっぱり俺、ユキトの事が好きだ。照れてそっけない態度も、最初は恥ずかしそうにしながらも、いざそういう雰囲気になると急にエロくなって乱れてくれるのも、全部、可愛い。
……本当は、そんな可愛い姿を見るのは、俺だけでいい。俺だけのものでいて欲しい。
だけど、ユキトのスキルの特性上、そういう訳に行かねえ……
魔王を倒さないとこの世界から、あいつから自由になる事は出来ない。だけど現状、魔王を倒せるかもしれない手段は、ユキトのスキルを進化させてダメージ量を増やす事しかねえ。
……もう、魔王なんて倒さなくてもいいんじゃねえか?
今だって充分幸せなんだ。ユキトと一緒なら、この世界にずっといる事になったって俺は、それでもいい。
この世界の事だって、元々気に入ってる。自然は綺麗だし、飯も美味いし。
だから思わずユキトに、「俺は、お前と一緒ならずっとこの世界で暮らしてもいいんだからな?」って言っちまった。それは勿論本心だ。
だけど、本当の本音は、ユキトに俺以外の男、ロシュや他の転移者として欲しくない。
……そんな、つまんねえ嫉妬心だ。
ユキトはいつも俺のこと、器がでかいとか、芯があって揺るがない所が凄いなんて言ってくれるけど、俺は本当はこんな、くだらねえやきもちなんか焼く、ただのガキなんだよ。
でもそれを知られるのは、何だか怖かった。
ユキトに落胆されるんじゃないか。呆れられるんじゃないか。
そう思うと、こんな事言えやしねえ。
そんな事を考えてしまってる俺を知られたくなくて、ただ、ぎゅっとユキトを抱き締めた。
ユキトは俺の言葉に、感動したように目を潤ませてたけど、しばらくして首を振った。
「ヒューゴ。俺は、そんな風に言って貰えるだけで充分だよ。それに俺は、ヒューゴのその気持ちに甘えて、寄りかかってるだけなんて、俺自身が嫌なんだ。だから」
あ、あ……頼む、その先を、言わないでくれ……
俺の馬鹿な願いも虚しく、ユキトは、言った。
「ロシュ、俺はお前とセックスしてスキルをコピーさせて貰うよ。そして魔王を倒して、ヒューゴもロシュも元の世界に戻れるようにする」
ユキトの気持ちは嬉しい。だけど……辛い。
おまけにロシュは、俺が何となく感じてたように、ユキトに惹かれてるとはっきり言った。
それに、性急に事を進めようともせず、ちゃんと優しい気遣いを見せた。
「数日、僕と一緒に過ごしてくれないか?その間に僕の事を好きにさせてみせるから」
そう言ったあと、
「もちろん、夜はヒューゴと過ごしてくれていい。僕は君を無理やり抱いたりしない。ねえ、どうかな?ヒューゴもそれでいい?」
俺にまで、気を遣って来た。
ロシュがもっと嫌な奴なら、俺も堂々と反対してやれたのに、これじゃあ何も言えやしねえ。
そう提案するロシュにユキトは頷き、俺も、ユキトがいいならいい、と言うしかなかった。
そのあと3人で飯を食いに行ったが、ロシュのやつは気取ったところもないし、話しやすいし、普通にいい奴だと思った。
3人で色んな事話すのは意外に楽しくて、飯も進んだし、嫌な気持ちもいつの間にかどっか行ってた。
けど、神殿の部屋に戻る時、俺がふと思い出してロシュとの事、無理する事ねえんだからな、ってユキトに念押しするみたいに言った時、ユキトが言った、
「ロシュの事だって、さっき話して大分打ち解けられたし、ここに来る前に感じてた抵抗感も大分薄れたよ。俺だってもう初めてじゃないし、ロシュも悪い奴じゃなかったから、絶対に嫌だって思うほどじゃない。だからそんな心配しなくて大丈夫だよ」
その言葉に、もし、ユキトがロシュの方を好きになっちまったら、って怖くなった。
あんな、ユキトだって目を離せなかったくらい綺麗で、気遣いの出来る大人で、紳士的な態度のやつに本気で迫られたら、ユキトだって絆されてあいつのこと、好きになるかもしれない。
そんで、俺への気持ちが薄れてしまったら……
心は重く沈んで、そんな情けねえ自分も知られたくなくて。
俺の態度が妙な事に気付いた怪訝な顔のユキトにどうしたんだ、って言われたけど、今、一緒にいたら、これ以上黙ってられねえ。きっと、俺は情けない俺を全部ぶちまけちまう。
だからユキトと別れて俺は部屋に籠った。
自分に、こんな情けなくて、みっともない所があるなんて、俺は初めて知ったよ。
ああ、こんなのどうすりゃいいんだ。
戦う事しか知らなかった俺には、荷が重いよ。
******
2021/11/18新しく書いた話です。前バージョンだと、ヒューゴの内面を全然描写してなかったので、入れたいなと。初めて読んで下さる方、一度読んだけど改訂後もう一回読んで下さってる方、ありがとうございます。
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