異世界転移したら生前の素行のせいで最悪なスキルを貰ってしまった。男に抱かれてこの地獄から抜け出します

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二章 スキル進化の悪趣味な条件と異世界転移者ロシュヴァルド=フォン=アーデルハイド

お伽の国の王子様

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食事を食べ終えた後、アインに「サービスです!」と出して貰った、ほんのり甘くて暖かいハーブティーのような物を飲みながら話は続いた。

ロシュは、俺やヒューゴの世界の話を興味深く聞いていて、自分の世界にも何か取り入れられないかと考えているようだった。

「君たちの世界の『科学技術』っていうのは凄いね。それなら魔力がなかったり、少ない人間でも、皆と同じ事が出来るって事だろう?」
「まあ、そうなんだけど、技術は専門の人間が開発するから、俺みたいな一般人には仕組みはさっぱり分からないんだ。だからロシュに教えてやる事も出来ないんだよな」

ロシュの言葉に俺がそう言って肩をすくめると、ヒューゴも頷く。

「俺の世界の技術もそうだな。ラボで開発されて提供されるけど、仕組みは俺にはさっぱり分からねえ」

ロシュは残念そうに「そうなんだ」と小さく息を吐いた。

「俺からしてみたら、魔法の方が凄いと思うけどな。道具が何もなくても色んな事が出来るんだろう?」
「そうだけど、魔法は魔力を持ってないと発動しないし、大魔法ほど激しく魔力を消費するんだ。全員が同じように使える『技術』の方が有益だと僕は思う。まあ、作り方が分からないんじゃ、どうしようもないんだけどね」

俺とロシュの話を聞いていたヒューゴが、「両方組み合わせて使えればいいのになあ」と言ったあと、急に思いついたように声を上げた。

「そうだ、俺らにその魔法ってのは使えるかな?ちょっとやり方教えてくれよ」

ロシュは「うーん」と唸って俺とヒューゴを見つめたあと、口を開いた。

「どうだろう・・・今見たところ、君達には魔力が感じられないんだよね。だから使えるかは分からないけど・・・」

そう言いながら掌を上に向けて、小さな光の球を生み出す。

「これは魔力のほとんどない人でも使える、灯りの魔法だ。意識を集中して『光よ』と心の内で呟くだけ。やってみる?」
「おう、こうか?」

早速ヒューゴが掌を上にして、目を閉じる。けど、特に何も起こらない。

「っは~、やっぱダメかあ。ユキト、お前もやってみろよ」
「そうだな」

俺も同じようにしてみるけど、特に何か感じたりだとか、何か起こったり、なんて事はなかった。

「ダメか・・・」

ちょっと残念だ。

「やっぱり異世界人には、僕らの世界の魔法は使えないのかもしれないね。でも魔法よりもっと凄い『スキル』があるんだし、そっちの方がずっと役に立つよ。魔力も消費しないし、詠唱も要らない」

ロシュが慰めるように言って、魔法講座は終わった。

「また来て下さいね!」と手を振るアインに別れを告げて、俺達は神殿に戻った。
ロシュの事も色々知れたし、かなり打ち解けられたんじゃないだろうか。
ヒューゴの知らなかった話も聞けたしな。

「それじゃあね、ユキト。また夕食の時に」

そう言って微笑むと、ロシュはまた俺の手の甲にキスして、自分の部屋に戻って行った。
まるでお伽の国の王子様だな。
つい、そんな事を思ってしまった。

「ロシュのやつ、部屋になんて籠って何すんだろうな。退屈じゃねえのか?」

ヒューゴがそう言って不思議そうな顔をする。
ジルヴィアに居た時も、ヒューゴはしょっちゅう海で泳いだり、街に散策に出かけたり、部屋にじっとしている事がなかったもんな。

「さあ。本でも読んでるんじゃないか?」

一応、スキルでこの世界の文字も読める。

「ふーん。本かあ・・・こっちの世界にある、分厚い紙の束だよな。俺らの世界でも昔はあったらしいけど、今じゃ全部『パッド』になっちまったからなあ」

面白そうな話に俺は続きを促した。

「パッドって何なんだ?」
「ああ、このくらいの大きさの銀色の板なんだけどな、俺の世界全部の情報が入ってて、呼びかけると人工知能が答えてくれるんだ」

スマホとかタブレットみたいな物かと思って聞いたら、それよりもっと凄いものだった。ヒューゴが示したのは掌半分くらいの大きさだったから、スマホよりも小さい。
しかも、映像はすべて立体映像で、本物と寸分違わないくらい緻密らしい。

ヒューゴの世界エクシリアと地球は同じくらいの文明レベルだと思っていたが、これは、ヒューゴの世界の方が進んでいるかもしれない。

「面白そうだな。俺もヒューゴの世界に行ってみたい」

そう言うと、

「俺の世界なんて、ここみたいに綺麗じゃねえけどユキトと一緒ならいいかもな。魔王倒せたら、スキル使ってエクシリアをラプターから解放するから、一緒に行こうぜ」

ヒューゴは笑って言ったけど、あ、と思い出したように言い足した。

「でも、その為にロシュとやるとか、無理しなくていいんだからな?」
「ははっ、もうそれは大丈夫って言ったろ。ロシュの事だって、さっき話して大分打ち解けられたし、ここに来る前に感じてた抵抗感も大分薄れたよ。俺だってもう初めてじゃないし、ロシュも悪い奴じゃなかったから、絶対に嫌だって思うほどじゃない。だからそんな心配しなくて大丈夫だよ」

俺はヒューゴの心配を取り除いてやろうと思って、そう言った。
けど、ヒューゴは浮かない顔のまま「うん・・・そうだよな」と呟くだけだった。

何がそんなに心配なんだ?
聞いてみても、いや、別に、としか言わない。
俺は首を捻りながらも、部屋に戻るというヒューゴと別れて自室に入った。

部屋に戻ったものの、特に何もないし、やる事がない。
ジルヴィアにいた時は精神的にそれどころじゃなかったから、何も思わなかったけど、日常的に娯楽に溢れていた日本と違って、この世界では一人で手軽に楽しめる娯楽はなさそうだ。

部屋に本は置いてあったけど、神殿らしく神について書かれたものや、国の歴史みたいな話で読む気にならず、結局暇を持て余して神殿の外に広がる草原に出て来てしまった。

昼下がりで天気は良く、太陽は暖かくて風も心地いい。
地球のどこかです、と言われても信じられるくらい、目の前に広がる自然には地球との違いはなかった。

ふと、後ろに人の気配を感じて振り返ると、ロシュが微笑んで立っていた。

「君がいるのが見えたから」

そう言って、隣に座る。

「ヒューゴと一緒かと思っていたから遠慮したんだけど、一人でいるから話したいなと思って。迷惑じゃなかった?」
「・・・ああ、大丈夫」

ヒューゴの妙な態度を思い出して気になったけど、俺はそう、ロシュに答えた。

「良かった」

そう言って、風に靡くプラチナブルーの髪を耳に掛けて微笑むロシュの周りに、キラキラの特殊効果が見えるようで、俺は思わず「本当に王子様みたいだよな」と呟いていた。

ロシュはきょとんとしていたけど、焦った俺が慌てて、

「地球の子供が読む話に出て来る王子がさ、大抵美形でさ。髪の色とかロシュの仕種とかも相まって、余計にそういう感じがしてさ」

いい意味で言ったんだ、と伝えると、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「ふぅん、そうか。ユキトにそう思って貰えたなら嬉しいよ。僕の見た目は君の好みって事かな?」
「好みっていうか、単純に人間離れした物凄い美形だとは思うよ。今まで見た事がないくらいだ」

正直に思っている事を言うと、ロシュはくすくす笑った。

「僕はユキトの事もすごく綺麗だと思ってるよ。本当に、この艶やかな夜の空のような髪も、瞳も、とても美しいよ」
「そうか?俺の国なんて、みんなこの色だぞ」

飽き飽きする程見慣れた、黒髪黒目をそんな風に言うロシュに俺は新鮮な驚きを感じた。

「そうなの?ユキトの国の民はみんなユキトみたいな色なんだ。それは凄いね、圧巻だろうな。けど、そんなに沢山の黒髪の人がいても、きっと僕はユキトの事しか目に入らないだろうね」

そう言って俺の目をじっと見つめるロシュに、俺は気圧された。

「いつも、そんな事言って、口説いてるのか?」

思わずそう言うと、ロシュはふっと笑う。

「酷いな。僕はそんなに気が多くないよ。3年以上誰とも付き合ってないし、ここに来てからだって、誰ともそんな関係になったりもしていない。こんな事を言うのは君にだけだよ」

ものすごく意外だった。
これだけの美形なうえに、所作も貴族だけあって上品だ。ロシュが声を掛ければいくらでも相手はいそうだし、もっと、とっかえひっかえして遊んでいるかと思っていた。

「そう、なのか」

内心驚きながらそれだけ言って黙ると、ロシュは俺の目を見つめたまま柔らかく笑みを浮かべる。

「僕はこの世界に無理やり連れて来られて、魔王は倒せないし、うんざりしていたんだけど、ユキトに会えた事だけは良かったと思うな。こうして君を知れば知るほど、もっと君を好きになって行く」
「・・・・・・」

な、なんて甘い雰囲気だ。

言ってるセリフは、よくある口説き文句だし、ホストの常套句でもある。
なのにロシュが言うと、それが嘘臭くなく自然に聞こえる。

それはきっと、ロシュが本当にそう思って言っているからだろう。

まるでメロドラマみたいなシチュエーションに、俺は急にドキドキして来た。

言う側ではなく言われる側、というのは確かに初めての体験で、こんな美形に甘い声で心からそう思って言われると、こんなに衝撃なのか、と思ったのは確かだけど。

こんな事言われて簡単にドキドキする俺って、相当チョロくないか。
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