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三章 最後の一人 日本からの転移者アキラ
アキラへの伝言
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俺は夢を見ていた。
背の高い男が、俺に背を向けて窓の所に立っている。長い黒髪の先の方だけ銀灰色が残っていた。
……アキラ、か?
男が振り向いたが逆光で顔がよく見えない。その唇が動いて何かを俺に伝えて来たけど、何て言ってるのか聴こえなくて、近付こうとした所で顔が見えた。
けど、その顔は、俺のよく知っている人の顔だった。
あの時の、傷付いた表情のままの、あの人――――
あ、やっぱり夢だ、これ。
そう思ったところで、ふと目が覚めた。
何だったんだ、あの夢。やっぱりまだ俺の中に罪悪感が残ってるから、あんな夢を見てしまったんだろうか。
身動ぎしようとしたら、両側からロシュとヒューゴの二人にぴったりと挟まれていて、身動き出来なかった。
目、覚めたの、これのせいだろ。
昨日は流れるように3人でする事になって、あの時は例によって夢中でしてしまったけど、思い出すと恥ずかしい。
もう少しゆっくり寝たくて俺は狭い隙間から抜け出ると、隣の空のベッドに移動して裸の体に毛布を巻き付けて丸くなる。冷たかったベッドの敷布と毛布が温まって来て、そのまままた眠りに落ちて行った。
急に意識が浮上したのは、重たいものが床に落ちる音と「うびゃぁあ」という猫がどうにかなったような声のせいだった。
ぼんやり目を開けると見えたのは、「あはは……ごめん」とベッドに横になったままクスクス笑うロシュと、「な、なんて事すんだよぉ」と裸で床に尻もちをついたまま怯えるヒューゴの姿だった。
「……どぅしたんだ?」
寝ぼけ眼でぼそりと問うと、
「ユ、ユキトぉ」とヒューゴが立ち上がって俺の寝ているベッドに転がり込んで来た。
そして、俺を正面から抱き締めて髪に顔を埋める。
「ああ、ユキトお~。やっぱりお前の匂い落ち着くわ。うう、怖かった」
「……?」
ヒューゴは俺の頭に顔をぐりぐりと押し付けながら、
「ロシュの奴が、俺のことお前と間違えて、裸で抱きついて来やがったんだ!そ、そんで……あいつのモノが俺の尻に~!!ああ、まだ感触が残ってるー!」と情けない声を出した。
「ふふ、ごめんってば。大丈夫、まだ挿れてなかっただろう?当てただけだよ。何だかごついなとは思ったんだよね……ユキトったらいつの間に居なくなってたの」
そう言いながらロシュまで俺のベッドに入って来て、後ろからぴったり抱きついて来た。……そして固くて熱いものを俺の尻にグリグリと押し付けて来る。……これをヒューゴにやったのか。それは確かにびっくりしただろうな。
でも想像すると可笑しくて、俺は笑ってしまった。
「ん……やっぱりユキトは触り心地が最高だよ……すべすべしていて、いい匂いがして……」
「ぁっ、も、もう朝からダメだって」
後ろから密着しているロシュの手が怪しくなって来てほんの少し燃え上がりそうになってしまったけど、今朝見た夢が脳裏に過ぎって、何とかロシュの手を止めた。
「もう昨夜充分……したろ。それよりアキラを早く見つけよう」
今朝の夢は単なる夢だ。だけど俺の心に棘のように残って、気になる。アキラと会って、すっきりさせたい。
「あ~、まあそうだな。よし、起きるか」
ヒューゴが起き上がり、ベッドの下に放り投げていた服を身につけ始めた。
ロシュも名残惜しそうに俺を抱き締めると、ゆっくり離れながら、
「昨日はすごく可愛かったよ。また愛し合おうね」と耳元で囁いた。
そしてぺろりと耳を舐められ、思わずゾクッとしてしまう。
「んっ」
も、もう、ダメだろ。こんな事されたら、俺はすぐにその気になってしまうんだから。
ロシュは俺の反応に満足そうに笑うと、頬にキスした。
「それじゃ朝食を摂りに行こうか」
何もなかったように爽やかに微笑むロシュに、俺は恨めしい目を向けた。
完全に遊ばれてる。
ロシュはこんな風に、睦み事の時に俺をわざと焦らしたり、弄んだりして俺の反応を楽しむのが好きだ。普段の紳士的な態度は俺に対する誠意で、やっぱり元々はこういう気質なんだろうな。
……まぁ、それでも喜んで受け入れてしまう、俺も俺なんだけど。
「……はあ」
俺も気持ちを切り替えて、スキルで身体をさっぱりさせてから、服を着込む。そして扉を開けて階下の食堂へ行こうとした時、
「あ、ユキト」
後ろからヒューゴが俺を抱いて自分の方へ振り向かせ、唇にキスして来た。
「好きだよ。昨夜も可愛かった」
そう言って笑うヒューゴに俺は不意打ちを食らった気分で、ドキッと胸が高鳴った。
「――――俺も、好きだよ」
思わず微笑んでしまう。ああ、やっぱり今すごく、幸せだ。
食堂に降りると、他に泊まっていた客も何人かいて、朝陽の差し込むテーブルで見慣れない食べ物を食べていた。
米……に見えるな。
俺達も空いていたテーブルに座ると、宿の主人が食事を持って来てくれる。宿屋は朝食も込みなのが、この世界の慣習らしい。
テーブルに置かれたのは、どう見ても米を炊いたものと、卵と魚を焼いたもの、野菜と肉を炒めたもの、刻んだ野菜の入った、薄い黄色味のあるスープだった。
今までの街は洋風な食事だったが、これは和食に見える。
「ふーん、なんか変わった物があるな」
ヒューゴが言いながら米っぽいものをスプーンで口に入れて、
「ん、ちょっと甘みがあって美味いな」と頷いていた。俺も同じように食べてみると、やっぱりどう味わっても米だった。この世界にも米があるのか。
久しぶりの米に、何となく嬉しくなってしまった。
スープの方は豆の味がした。味噌汁だと嬉しかったんだけどな。まあ米があっただけでも良しとしよう。
ロシュは「魚か、久しぶりだな。僕の生まれた国クラウツェニアは海の側だったから、よくメニューに出て来たよ」と懐かしさを味わうように食べていた。
そういえばこの街は海の近くなんだっけ。食事にも魚が出て来るくらいだしな。
そう言われると空気にも海の匂いがするような気もする。
俺は食べながら、今朝から考えていた事を二人に言った。
「昨夜の家なんだけどさ、まず俺が一人で行って事情を話してみたいんだ。アキラは俺と同じ日本から来てるだろう。だから同じような見た目の俺が行った方が警戒されないと思うんだよ」
「うん、確かにそうかもね。ユキトが同郷と分かれば協力して貰いやすいだろうし、賛成だな」
ロシュが頷き、ヒューゴも「ああ、そうだな。その方がいい」と賛同した。
話も決まり、残りを掻き込むと俺達は昨夜の家に『転移』した。二人には離れた所に待機して貰って、俺一人で訪ねる。
ボロボロの柵を乗り越えて、玄関らしき所に近付くと、横の扉から昨日見た茶色の長い髪を一つに纏めた若い女が出て来た。これが殺されそうになった侍女なのか?
俺に気付いた女がびっくりしたように目を見開いたので、俺はすぐ口を開いた。
「あの、すみません。俺、日本からの転移者で桜庭幸人と言います。ここにこの世界に最初に転移して来た『アキラ』さんって方がいませんか?同じ世界から来たのでぜひ、会いたいんです」
警戒されずに分かって貰えるかどうか。なるべく丁寧に接したけど、どうだろうか。
「……え、まさか、アキラ様と同じ世界から……?本当に?でも、確かに同じような顔立ちだし、髪も黒いわ……あ、あの!ちょっと待ってて貰えませんか?」
「はい、分かりました」
侍女が慌てて家の中に入るのを俺は見守った。呼んで来て貰えるんだろうか?
動揺してはいたけど、疑っている感じはあまりなかった。
しばらくしてまた扉が開くと、今度は中年の男が一緒だった。
男は俺を見ると目を丸くして、「確かに、同じ色合い、似た顔立ちだ」と呟いた。
「本当に、アキラ様と同じ世界からいらしたのですか?もう一度お名前をお伺いしても?」
俺は頷いて、また名前を名乗った。そして、自分もこの世界の管理神にここに連れて来られた事、一番最初に連れて来られたアキラと同じ世界から来たので、会って話したい事があると、もう一度伝えた。
「なるほど……よく分かりました。しかし実は今、アキラ様はここにはおられないのです。しかし、連絡を取る事は出来ますので、貴方様の事をお伝えしましょう。そして会われる、となった時には私の方から貴方様にお伝えします。滞在されている宿は決まっておられますか?」
「はい、昨日泊まった宿はあります。名前は確か……黒馬亭だったと思います」
「分かりました、ではアキラ様から会いたいと言われましたら、そちらに伺います」
マシューと名乗った男は、最初の侍女の事も俺に紹介し、その娘はマチルダという名前だと分かった。
居場所を教えて貰うまでは出来なかったが、何とかアキラに繋いでもらう事は出来そうだ。
あ、そうだ。
俺は『無限収納』をサーチして、紙とペンを取り出した。
「ちょっと待って下さい。アキラさんならこれが読めると思います。俺の世界の言葉で書いたので、これを渡して欲しいんです」
メモにはこう書いた。
『アキラさん、俺はあなたと同じ日本から転移して来た桜庭幸人です。ぜひ会って色々と話をしたいです。よろしくお願いします』
マシューはそのメモを受け取ると、唸った。
「うーむ、確かに見た事のない文字で意味も全く分からない……しかしアキラ様なら読めるのでしょうな。分かりました。しっかりお渡しします。今日の所はこれで失礼いたします」
「はい、よろしくお願いします」
俺は礼をして、その場を後にした。
そして柵を越え、隠れている二人の所へ戻り、今のやり取りを話した。
「なるほどね、アキラに繋いでもらう事が出来たのは良かった。だけど万一アキラが会わないってなると困るね」
ロシュが言うと、ヒューゴが口を開いた。
「俺は敵の基地に潜入して工作するのが任務だったから、さっきのおっさんがアキラと会う所を追跡してアキラの居場所を確認しておく。今はスキルがあるからアキラに察知される事もない筈だ。それならどうだ?」
「ああ、そうだな。それがいいと思う」
ロシュも頷いて、ヒューゴはこの場に残る事になった。
「それじゃ、アキラの居場所が分かったら宿に戻るからな」
そう言うヒューゴに俺は「頼んだよ」と頷いて、ロシュと一旦宿に戻った。
背の高い男が、俺に背を向けて窓の所に立っている。長い黒髪の先の方だけ銀灰色が残っていた。
……アキラ、か?
男が振り向いたが逆光で顔がよく見えない。その唇が動いて何かを俺に伝えて来たけど、何て言ってるのか聴こえなくて、近付こうとした所で顔が見えた。
けど、その顔は、俺のよく知っている人の顔だった。
あの時の、傷付いた表情のままの、あの人――――
あ、やっぱり夢だ、これ。
そう思ったところで、ふと目が覚めた。
何だったんだ、あの夢。やっぱりまだ俺の中に罪悪感が残ってるから、あんな夢を見てしまったんだろうか。
身動ぎしようとしたら、両側からロシュとヒューゴの二人にぴったりと挟まれていて、身動き出来なかった。
目、覚めたの、これのせいだろ。
昨日は流れるように3人でする事になって、あの時は例によって夢中でしてしまったけど、思い出すと恥ずかしい。
もう少しゆっくり寝たくて俺は狭い隙間から抜け出ると、隣の空のベッドに移動して裸の体に毛布を巻き付けて丸くなる。冷たかったベッドの敷布と毛布が温まって来て、そのまままた眠りに落ちて行った。
急に意識が浮上したのは、重たいものが床に落ちる音と「うびゃぁあ」という猫がどうにかなったような声のせいだった。
ぼんやり目を開けると見えたのは、「あはは……ごめん」とベッドに横になったままクスクス笑うロシュと、「な、なんて事すんだよぉ」と裸で床に尻もちをついたまま怯えるヒューゴの姿だった。
「……どぅしたんだ?」
寝ぼけ眼でぼそりと問うと、
「ユ、ユキトぉ」とヒューゴが立ち上がって俺の寝ているベッドに転がり込んで来た。
そして、俺を正面から抱き締めて髪に顔を埋める。
「ああ、ユキトお~。やっぱりお前の匂い落ち着くわ。うう、怖かった」
「……?」
ヒューゴは俺の頭に顔をぐりぐりと押し付けながら、
「ロシュの奴が、俺のことお前と間違えて、裸で抱きついて来やがったんだ!そ、そんで……あいつのモノが俺の尻に~!!ああ、まだ感触が残ってるー!」と情けない声を出した。
「ふふ、ごめんってば。大丈夫、まだ挿れてなかっただろう?当てただけだよ。何だかごついなとは思ったんだよね……ユキトったらいつの間に居なくなってたの」
そう言いながらロシュまで俺のベッドに入って来て、後ろからぴったり抱きついて来た。……そして固くて熱いものを俺の尻にグリグリと押し付けて来る。……これをヒューゴにやったのか。それは確かにびっくりしただろうな。
でも想像すると可笑しくて、俺は笑ってしまった。
「ん……やっぱりユキトは触り心地が最高だよ……すべすべしていて、いい匂いがして……」
「ぁっ、も、もう朝からダメだって」
後ろから密着しているロシュの手が怪しくなって来てほんの少し燃え上がりそうになってしまったけど、今朝見た夢が脳裏に過ぎって、何とかロシュの手を止めた。
「もう昨夜充分……したろ。それよりアキラを早く見つけよう」
今朝の夢は単なる夢だ。だけど俺の心に棘のように残って、気になる。アキラと会って、すっきりさせたい。
「あ~、まあそうだな。よし、起きるか」
ヒューゴが起き上がり、ベッドの下に放り投げていた服を身につけ始めた。
ロシュも名残惜しそうに俺を抱き締めると、ゆっくり離れながら、
「昨日はすごく可愛かったよ。また愛し合おうね」と耳元で囁いた。
そしてぺろりと耳を舐められ、思わずゾクッとしてしまう。
「んっ」
も、もう、ダメだろ。こんな事されたら、俺はすぐにその気になってしまうんだから。
ロシュは俺の反応に満足そうに笑うと、頬にキスした。
「それじゃ朝食を摂りに行こうか」
何もなかったように爽やかに微笑むロシュに、俺は恨めしい目を向けた。
完全に遊ばれてる。
ロシュはこんな風に、睦み事の時に俺をわざと焦らしたり、弄んだりして俺の反応を楽しむのが好きだ。普段の紳士的な態度は俺に対する誠意で、やっぱり元々はこういう気質なんだろうな。
……まぁ、それでも喜んで受け入れてしまう、俺も俺なんだけど。
「……はあ」
俺も気持ちを切り替えて、スキルで身体をさっぱりさせてから、服を着込む。そして扉を開けて階下の食堂へ行こうとした時、
「あ、ユキト」
後ろからヒューゴが俺を抱いて自分の方へ振り向かせ、唇にキスして来た。
「好きだよ。昨夜も可愛かった」
そう言って笑うヒューゴに俺は不意打ちを食らった気分で、ドキッと胸が高鳴った。
「――――俺も、好きだよ」
思わず微笑んでしまう。ああ、やっぱり今すごく、幸せだ。
食堂に降りると、他に泊まっていた客も何人かいて、朝陽の差し込むテーブルで見慣れない食べ物を食べていた。
米……に見えるな。
俺達も空いていたテーブルに座ると、宿の主人が食事を持って来てくれる。宿屋は朝食も込みなのが、この世界の慣習らしい。
テーブルに置かれたのは、どう見ても米を炊いたものと、卵と魚を焼いたもの、野菜と肉を炒めたもの、刻んだ野菜の入った、薄い黄色味のあるスープだった。
今までの街は洋風な食事だったが、これは和食に見える。
「ふーん、なんか変わった物があるな」
ヒューゴが言いながら米っぽいものをスプーンで口に入れて、
「ん、ちょっと甘みがあって美味いな」と頷いていた。俺も同じように食べてみると、やっぱりどう味わっても米だった。この世界にも米があるのか。
久しぶりの米に、何となく嬉しくなってしまった。
スープの方は豆の味がした。味噌汁だと嬉しかったんだけどな。まあ米があっただけでも良しとしよう。
ロシュは「魚か、久しぶりだな。僕の生まれた国クラウツェニアは海の側だったから、よくメニューに出て来たよ」と懐かしさを味わうように食べていた。
そういえばこの街は海の近くなんだっけ。食事にも魚が出て来るくらいだしな。
そう言われると空気にも海の匂いがするような気もする。
俺は食べながら、今朝から考えていた事を二人に言った。
「昨夜の家なんだけどさ、まず俺が一人で行って事情を話してみたいんだ。アキラは俺と同じ日本から来てるだろう。だから同じような見た目の俺が行った方が警戒されないと思うんだよ」
「うん、確かにそうかもね。ユキトが同郷と分かれば協力して貰いやすいだろうし、賛成だな」
ロシュが頷き、ヒューゴも「ああ、そうだな。その方がいい」と賛同した。
話も決まり、残りを掻き込むと俺達は昨夜の家に『転移』した。二人には離れた所に待機して貰って、俺一人で訪ねる。
ボロボロの柵を乗り越えて、玄関らしき所に近付くと、横の扉から昨日見た茶色の長い髪を一つに纏めた若い女が出て来た。これが殺されそうになった侍女なのか?
俺に気付いた女がびっくりしたように目を見開いたので、俺はすぐ口を開いた。
「あの、すみません。俺、日本からの転移者で桜庭幸人と言います。ここにこの世界に最初に転移して来た『アキラ』さんって方がいませんか?同じ世界から来たのでぜひ、会いたいんです」
警戒されずに分かって貰えるかどうか。なるべく丁寧に接したけど、どうだろうか。
「……え、まさか、アキラ様と同じ世界から……?本当に?でも、確かに同じような顔立ちだし、髪も黒いわ……あ、あの!ちょっと待ってて貰えませんか?」
「はい、分かりました」
侍女が慌てて家の中に入るのを俺は見守った。呼んで来て貰えるんだろうか?
動揺してはいたけど、疑っている感じはあまりなかった。
しばらくしてまた扉が開くと、今度は中年の男が一緒だった。
男は俺を見ると目を丸くして、「確かに、同じ色合い、似た顔立ちだ」と呟いた。
「本当に、アキラ様と同じ世界からいらしたのですか?もう一度お名前をお伺いしても?」
俺は頷いて、また名前を名乗った。そして、自分もこの世界の管理神にここに連れて来られた事、一番最初に連れて来られたアキラと同じ世界から来たので、会って話したい事があると、もう一度伝えた。
「なるほど……よく分かりました。しかし実は今、アキラ様はここにはおられないのです。しかし、連絡を取る事は出来ますので、貴方様の事をお伝えしましょう。そして会われる、となった時には私の方から貴方様にお伝えします。滞在されている宿は決まっておられますか?」
「はい、昨日泊まった宿はあります。名前は確か……黒馬亭だったと思います」
「分かりました、ではアキラ様から会いたいと言われましたら、そちらに伺います」
マシューと名乗った男は、最初の侍女の事も俺に紹介し、その娘はマチルダという名前だと分かった。
居場所を教えて貰うまでは出来なかったが、何とかアキラに繋いでもらう事は出来そうだ。
あ、そうだ。
俺は『無限収納』をサーチして、紙とペンを取り出した。
「ちょっと待って下さい。アキラさんならこれが読めると思います。俺の世界の言葉で書いたので、これを渡して欲しいんです」
メモにはこう書いた。
『アキラさん、俺はあなたと同じ日本から転移して来た桜庭幸人です。ぜひ会って色々と話をしたいです。よろしくお願いします』
マシューはそのメモを受け取ると、唸った。
「うーむ、確かに見た事のない文字で意味も全く分からない……しかしアキラ様なら読めるのでしょうな。分かりました。しっかりお渡しします。今日の所はこれで失礼いたします」
「はい、よろしくお願いします」
俺は礼をして、その場を後にした。
そして柵を越え、隠れている二人の所へ戻り、今のやり取りを話した。
「なるほどね、アキラに繋いでもらう事が出来たのは良かった。だけど万一アキラが会わないってなると困るね」
ロシュが言うと、ヒューゴが口を開いた。
「俺は敵の基地に潜入して工作するのが任務だったから、さっきのおっさんがアキラと会う所を追跡してアキラの居場所を確認しておく。今はスキルがあるからアキラに察知される事もない筈だ。それならどうだ?」
「ああ、そうだな。それがいいと思う」
ロシュも頷いて、ヒューゴはこの場に残る事になった。
「それじゃ、アキラの居場所が分かったら宿に戻るからな」
そう言うヒューゴに俺は「頼んだよ」と頷いて、ロシュと一旦宿に戻った。
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