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三章 最後の一人 日本からの転移者アキラ

ヒューゴへの誘い

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会食が済んで、一旦俺達は客室へ案内された。向こうも俺達をすぐ帰すつもりは無いらしく、しばらく滞在して欲しいと言われたので、好都合だし承諾した。
本当だったらすぐにでも退出したいところだけどな。

3人だけになった所で、俺は『結界』を使った。

「アキラの髪の毛見つけたぞ」

俺がそう言うと、ロシュとヒューゴが驚いた顔をする。

「もう?」
「早いな、で、どこにあるんだ?」

俺は二人に「リオラ王女のペンダントの中だ」と、さっき見た事、鑑定した内容を話した。

「うええ、気持ち悪ぃな。人の髪の毛をペンダントにするとか、やっぱあの王女がおかしいってのはホントなのか。さっき話した時はそんな風に思えなかったんだけどなあ」

ヒューゴが本当に気持ち悪そうに顔を顰めている。

「……ああいうタイプは人前では意外と普通に振舞うんだよ」
どこか遠い所を見る目でロシュが呟く。過去にそういう人物と関わった経験でもあるのか?

「あの王女、ヒューゴにばかり話しかけてたな……」
俺がぽつりと言うと、ロシュも頷く。

「ヒューゴの事が好みだったんじゃないかな?あの感じだと今度はヒューゴに執着しそうだよね」
ロシュの言葉に、ヒューゴは驚愕の声を上げた。

「えええ?俺ぇ!?」
「え?気付かなかったの?あの王女は、こんな美しくて魅力的なユキトに全く目もくれず、ヒューゴにばかり話しかけてたし、君を見る目はもう獲物を狙う目だった。……これはいい機会かもしれない。ヒューゴ、君は嫌かもしれないけど、あの王女に張り付いてペンダントをどうにか手に入れて来れないかな?」
「じょ、冗談じゃねえ!俺にそんな難しい事頼むなよ!?俺、すぐ顔に出ちまうから、もうあの王女と普通に話せねえし。ユキト~助けてくれよ~」

そう言って俺の後ろに張り付くヒューゴに、ロシュは肩をすくめた。

「ごめん、今のは半分冗談だよ。ああいうタイプに中途半端に色仕掛けで迫るのは無しだ。期待を持たせるほど、あとからの反動が大きい。恨まれたら何するか分からないだろう。僕達はいいとしても、周りの人達に迷惑が掛かると可哀想だし」
「ああ、そうだな。俺もそう思う。だったらもう、スキルでどうにかするか?」

俺が提案すると、ヒューゴが悩ましそうな声を出した。

「スキルって言ってもな~。戦い以外でこういう事に使えそうなスキルってあるかぁ?」
「あ、そうだ」

俺はふと思いついて、『無限収納』をサーチした。

スキルに使えるものが無くても、何か使えそうなアイテムがないかと思ったんだ。
う~ん、毒薬……殺してどうする。ポーションは意味ないし、媚薬……前に使ったのになんでまだあるんだ!?あの王女に媚薬なんて使ったら大変な事になる。却下。
あ、これは!?

「睡眠薬ってのがある。これは使えるんじゃないか?」
俺は『無限収納』から、緑色の人差し指くらいの大きさの瓶を取り出して、二人に見せた。

「へえ、確かにこれなら眠っている間にペンダントに触れてアキラの居場所を探れるかもね。問題はどうやってこれを飲ませるかだけど」
ロシュが睡眠薬の小瓶を手に取って、しげしげと見つめながら言う。

「飲み物に混ぜられるといいんだけどな。もう会食は終わってしまったし、明日の食事の時にどうにかして入れるしかないか」

俺がそう言うと、ロシュが首を振った。

「王族の食事は毒見役が居るし、厨房で入れるのも人目があり過ぎて難しいと思う」
「うーん、そうか……」

なかなかいい方法が思いつかないな。
俺が悩んでいると、ロシュが「あ」と声を上げた。

「僕らにはスキルがあるじゃないか。結界はどうかな?張ったまま動く事が出来れば、うまく行くと思うんだけど」
「あ、そうだな」

俺は今張っている結界をそのままに、動けるかやってみた。そうすると広い範囲に結界を張ったまま動くのは無理だけど、自分一人だけを包むように張れば、動いても結界を維持できる事が分かった。
俺が自分自身に結界を張っている状態をロシュやヒューゴに確認して貰ったが、俺の姿も気配も目の前から消えたように感じるらしかった。

「ホント、スキルって凄えよなあ。これ使えば敵の基地に侵入し放題じゃねえかよ。あん時これがあればなぁ」
ヒューゴがつくづく感心したように唸る。

ロシュは「さっきの続きだけど」と前置いて話を続けた。

「これなら食事に睡眠薬を入れるより、夜、『結界』で気配を遮断しながら王女の部屋に忍び込んで、ペンダントを探す方が簡単だ。眠っていてくれれば楽だけど、念のため直接睡眠薬を飲ませて、より深く眠って貰えばいい。そしてアキラの居場所を探ったら、すぐに円満に城を去ろう」
「なるほど、それなら出来そうだよな。少なくとも俺が王女をどうにかするよりずっといいし、早速やろうぜ!」

話がまとまりかけたところで、突然部屋の扉をノックする音が響いた。

俺が結界を解いて、ロシュが「何かな?」と声を掛けると、扉の外で「王女殿下からの言付けを預かってまいりました。開けて頂いてもよろしいでしょうか」と若い男の声が言う。

俺達は顔を見合わせて頷くと、ヒューゴが大股に扉まで行って開けた。
扉の外には、城でよく見掛ける侍従の格好をした若い男が立っていて、緊張気味にこっちを見ていた。

まあ、予想はしていたけど、やっぱりリオラ王女から、これからお酒でもご一緒しませんか、という誘いだった。しかも誘われたのはヒューゴだけだ。
すごく、胸がもやもやする。

「お返事を頂いて戻るように言い使っておりますので、この場で聞かせて頂いてもよろしいでしょうか」

そう言って固い表情で恐る恐るヒューゴを見上げる侍従の男に、ヒューゴは、

「いや、ちょ、ちょっと待っててくれ」
と一旦扉を閉めた。

そしてすぐさま結界を発動すると、

「なっ、なんで俺だけなんだよ!?ユキト!結界張って付いてきてくれ!」
と俺に縋って来た。

「もちろん一緒に行くよ」

そう言うとヒューゴは俺に抱き着いたまま、
「うわああ、俺、絶対ちゃんと話せねえ!あんな、人の髪ペンダントにするような奴と何話せばいいんだよ!?」
と狼狽えている。

それを見ていたロシュが、可笑しそうに噴き出した。

「ふふっ、そんなに狼狽えなくても大丈夫だよ。聞かれた事に答えてればいいんじゃない?それにユキトだけじゃなくて僕も行くよ。ちょうどいい。渡りに船だ。ヒューゴが王女と話している間に、僕が王女の飲み物に睡眠薬を入れるよ。君は少しの間だけ王女の気を引いてくれればそれでいい」
「ホ、ホントだな?ちょっとの間だけでいいんだな!?」
「ああ。約束する」

ロシュが落ち着いた態度で頷くと、ヒューゴは渋々俺から離れて結界を解き、扉を開けて侍従の男に「分かった、行くから」と答えていた。

侍従の男は明らかにホッとした顔で
「ありがとうございます!では今すぐ王女殿下にお伝えして参りますので、少しお待ちください」
と言うと、立ち去った。

あの緊張した様子からすると、ヒューゴが断ったりしたら王女に八つ当たりでもされるんだろうな。

「それじゃ、次に迎えが来たら扉を開ける前に俺達は『結界』を発動して、そのまま付いていく。睡眠薬はロシュが入れる。ヒューゴからも俺達の姿は見えないと思うけど、ちゃんといるから心配しないでくれ」

俺がそう言うと、ヒューゴは緊張した面持ちで「分かったよ」と頷いた。

そして、しばらくのちにまた扉をノックする音が響き、ヒューゴが頷くのに応えて俺とロシュは結界を発動して誰の目にも見えなくなった。
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