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三章 最後の一人 日本からの転移者アキラ

リオラ王女のペンダント

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だが待つ必要はなかった。
アキラの部屋を出た途端、慌てた様子の神官がやって来て、何かをラゼル神官長に渡して耳打ちしたと思ったら、少し眉をひそめたラゼル神官長が俺達を振り向いてこう言ったからだ。

「王から直々に招待状が届いております。御遣いの皆様がこのレオグランスに来られたと知り、ぜひ歓待させて頂きたいとの事です。」
「あ……やっぱりあの時」

俺は、ここに転移して来た時に、城門で騒いでいた兵士達を思い出して呟いた。
やはりあれで報告されたのだろう。

「でもちょうどいいよ。手間が省けたね」

ロシュがそう言うと、ヒューゴも頷いて俺を見る。

「じゃあユキト、早速行くか?」
「ああ、そうだな」

俺達のやり取りを見守っていた神官長は、

「分かりました、御遣いの皆様には身の危険はないと思いますが、王の御前までは僭越ながら私が付き添わせて頂きましょう。ではこちらへ」

そう言うと、先に立って歩き出した。

神殿の外に出た俺達は、ラゼル神官長や他に数人の神官達と一緒に城の門を潜り、レオグランスに転移で着いた時に見た、白い石造りの城の中へと導かれた。

城内へ入ると、すぐに濃紫の地に金糸で刺繍がされた服を身に纏った、文官の雰囲気がする男が現れた。こちらを向いて丁寧に頭を下げる。

「至高神エオルの御遣いの皆様。突然御呼び立てして申し訳ございません。私は王の代理でお迎えにあがりました。宰相のルーク=エヴァンスと申します」

まだ若い。濃い金の髪に淡いヘーゼルの目の色が、着ている濃い紫の服と合っていた。感情の読めない目で俺達を見つめている。感じは悪くないが、大歓迎という感じでもないな。

「―――ラゼル神官長。ここまで御遣いの皆様をお連れ頂き、ありがとうございます。貴方はここまでで結構です。ご苦労様でした」

ルークがそう言ってラゼル神官長に目線を落とすと、神官長は黙って礼をし、俺達にも礼をして去って行った。
アキラ軟禁の実情を知っている人間は、いない方がいいんだろうな。ラゼル神官長の小さくなっていく後姿を見送りながら俺はそう思った。

俺にちらっと視線を寄越して頷いてから、率先してロシュが口を開く。

「よろしく。率直に言うけど、僕達はこれまで、こういう上流階級の人達と関わった事がなくてね。礼儀が分からないから失礼な事を知らずに言ったり、やったりしてしまうかもしれない。だから少し聞きたいんだけど、この国の王はどういった方なのかな?ご家族はどんな方々?」

貴族で上流階級だったロシュがよく言うな、と可笑しかったが、正直こういう宮廷の形式ばった喋り方も知らないし、腹の探り合いみたいなものも苦手だから、ロシュがやり取りを買って出てくれるのは助かった。

「そうなのですか。では謁見室に向かいながら、お話させて頂きましょう」
ルークは軽く頷いて、俺達をエスコートしながら話を続けた。

「このレオグランスの王であられるエマール様は御年40才の、とても大らかで穏やかな方でいらっしゃいます。王妃であられるヴィエラ様もまだお若く、お二人とも優しいお方ですし、今回はごく僅かな王族のみで歓待させて頂きたいとの事ですので、礼儀など気になさらなくて大丈夫ですよ」

ルークが笑みを浮かべる。
ロシュはそれに、あからさまに安心したような仕草で胸をなでおろしながら、
「そうなんだ。それなら安心かな。王族のみって、他に誰がいるの?」
と、何気なく聞いた。

「はい、王子、王女殿下が3人おられます。王位継承者のユリアス殿下、第一王女のアレクシア殿下、そして第二王女のリオラ殿下。皆様、利発でとても美しい方々です」

ルークの顔を見るが、まっすぐ前を向いたまま表情は変わらない。ラゼル神官長の話では、このリオラって王女がアキラを軟禁していたという事だった。城の関係者はどこまでその話を知っているんだろう?
ルークは宰相らしいから、知らない訳はないだろう。当然知っている筈だ。だけど、そんな様子はおくびにも出さなかった。

そのまま話は途切れ、俺達は見事に花の咲き乱れる園の傍を通って謁見室に向かった。

ロシュの過去の夢で訪れた城とは違う雰囲気だ。こっちの方が使われている石材が白いせいか、光を反射して何となく明るく、洗練された感じがする。

さっき見た中庭の園も、白や薄い青、薄紫の花がセンスよく配置されて植えられていたしな。
ややあって一枚の両開きの大きな扉の前で先行していたルークが立ち止まり、扉の脇に立っている衛士二人に頷いて見せると、衛士達はゆっくりと扉を両側に開いた。

「さあ、どうぞ中へ。王がお待ちです」
ルークに促されて中へ進むと、横に長いテーブル席に座っていた、蒼い髪をした中年の男が声を上げた。

「よくぞ、参られた。至高神エオルの御遣いの皆様。どうぞ座って楽にして下さい」

何と言うか、普通な感じだった。一国の王という感じがしない。口調も柔らかく、どこかの会社の課長と言われても頷ける。

「ありがとうございます」
俺達はそう言って席に付いた。先に座っている面々に目を走らせるが、どこかぽやんとした顔立ちの王以外、確かに皆整った顔立ちをしていた。王子と王女は王妃に似たみたいだ。

王が、ルークの言った通りに家族を紹介し、俺の目の前に座っているこの、蒼い髪を長く伸ばし王妃と同じ蜂蜜色の目をした王女が、リオラだと分かった。

年は20才前後だろうか。
この部屋に入った時、俺は何となくこいつじゃないかなとは思ってた。
王女が一瞬だけ見せた、ねっとりと獲物を絡めとる蜘蛛のような目付きは、ホスト時代、俺の太客だった執着の激しいあの女を思い起こさせた。

ああ……久しぶりに嫌な事、思い出してしまった。

リオラから視線を外して、手元の水の入ったグラスを見つめてやり過ごす。

テーブルに料理が運ばれて来て、会食が始まった。
王と王妃の話には、主にロシュが受け答えをしてくれて、俺とヒューゴは王子や王女と話をする形になった。

会食が始まると、すぐにリオラは口を開いた。

「ヒューゴ様のお話が聞きたいですわ!どうかリオラにヒューゴ様の事を沢山教えて下さいまし」
さっきのような目付きを封印してにっこりと微笑む姿は美しくて、王女然としていた。


「え?俺の話?まあ、いいけどな」

ヒューゴはさっきの顔に気付いているのかいないのか、きょとんとしながら頷いている。そしてリオラに聞かれるまま、エクシリアの事や自分自身の事についていつもの口調で話していた。

リオラは「まあ、そうなんですのね」とか「それは面白いですわ」と相槌を打ちながら、楽しそうに聞いている。
その様子に少し胸がもやもやしたけど、ただ話しているだけだろ、と頭を振った。

それにしても、この様子を見た限りじゃ、執着の激しいおかしい王女とは思えないな。さっきのあの目付きを見てなきゃ、普通に品のいい王女だと思ったろう。ユリアス王子とアレクシア王女も、今話してみた限りではそんなおかしな所はなかった。

何が本当で何が嘘なのか、まだ今の時点じゃ分からない……そう思いながら、グラスの水を飲もうとした時だった。

ヒューゴの話を聞いていたリオラが、無意識なのか胸元のペンダントを右手で握り込み、親指でゆっくりと撫でさするのが目に入った。
ペンダントをしているのは最初から知ってはいたが、特に気にしてなかった。
だけど、今のペンダントを触る様子に何となく引っ掛かかるものがあって、俺はスキル『遠見』を発動して見た。

透明な石の中に何か入っているな。
透明なクリスタルに他の鉱物が入りこんだ、ガーデンクォーツというのが地球にもあったけど―――

いや―――違う。
中に入ってるのは―――何かの毛のようなものだ。色は銀灰色……!

背筋がゾワッとするのを感じながらも『鑑定』を発動してみる。

『日本からの転移者アキラの髪の毛を封じ込めたペンダント』
特に何の効力も無い。アキラに執着する者にとってのみ価値+SS

そう、表示された。

うわ……!やっぱり本人の髪の毛だった……この女、ヤバいな。というか、はっきり日本からの転移者って表示された。アキラはやっぱり日本人か。
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