異世界転移したら生前の素行のせいで最悪なスキルを貰ってしまった。男に抱かれてこの地獄から抜け出します

にあ

文字の大きさ
上 下
11 / 73
一章 貰ってしまった最悪なスキルと異世界転移者ヒューゴ=ヴェルスター

ニホンからの転移者サクラバ・ユキト③ sideヒューゴ・ヴェルスター

しおりを挟む
まさかの、年上だった。

嘘だろ。こんな22なんているのか?エクシリアじゃ、22なんてめちゃくちゃ大人だぞ。そんな年まで生き残ってたら、幹部にでもなっている位だ。

エクシリアで俺が知ってる22才なんて、威厳と風格、威圧が半端ない奴ばかりだ。

やっぱり、ユキトはとことん平和な世界に生きてたんだなあ。世界が違いすぎる。

「そう言うヒューゴはいくつなんだ?」

聞かれて19だと答えると、ユキトは堪えきれなかった、とでもいうようにくぐもった笑い声を上げた。

「はは…何だよ、俺、19の年下に頭撫でられて慰められたのか。ははっ、笑える」

俺の方が年下と分かったからなのか、最初の澄ました大人しい様子のユキトと比べると、随分砕けた口調に変わっていた。

唖然としたが、でも、なんというか、ユキトが俺に対して張っていたバリアみたいな物が無くなった気がして、それはそれでいい気分だった。

しばらく呆然と笑うユキトの顔を眺めていたが、はっとして言った。

「え、あの、いや!お、お前が、いや、ユキトが年下だろうが年上だろうが、さっき言った事は変わらないから!自分を恥じる必要なんてないからな!?」

ユキトが年上だろうが、自分を恥じて責めていた事は間違いない。それは戦場では自分の足を引っ張り、いつか自分を破滅させる。

「…大丈夫だよ。戦う事に関しては、ヒューゴの方が先輩なのは確かなんだし、さっきのアドバイス、俺はけっこう救われたんだ。ありがとな。センパイ。これからもよろしく頼むよ」

ユキトは、妙に明るい口調で言って俺の手を握って来た。俺もそれに応えながらも、長年の勘というか、何か違和感を感じてもいた。

「それよりさ、魔王があんなに強いなら、やっぱり他の転移者と協力しないと無理だろ」

おまけにそんな事を言って、もう、今すぐにでも他の転移者がいる街に行こうとする。
あまりに性急だ。

極度の緊張状態が続いた後に解放されると、一時的に気分が高揚して酩酊した状態になる事がある。だが、その高揚感に酔っていると、あとで必ず堕ちる。

そういう奴をよく見て来た。

ユキトのこれは、それに似ていた。まだ完全に自分の受けた『傷』を飲みこめたわけじゃない。安定するまでまだ、何かありそうだ。
それを乗り越えない限り、ユキトは危ない気がする。

不安定で脆い、そんな気配をユキトに感じた。
だから俺は、今すぐ他の転移者に会いに行く事は反対した。

「ユキト。今はさっきまでの興奮で疲れとか感じてないかもしれないけどな。不死身なのは身体だけで、心までは同じとはいかないんだよ。お前だって、この世界に来たばっかりなんだろ?だったらしばらくここで休んで、落ち着いてからでもいいんじゃないか?」

そんな風に言うと、ユキトは黙った。

「こんな事言うとあれかもしれないけどな、俺はずっと住んでもいい位ここの世界が気に入ってるし、特に急いで魔王を倒さなきゃいけないって気分でもないんだ。魔王だって、あの場所から動かないし。だからゆっくりでもいいと思ってるんだよな」

そう言ったら、ユキトは弾かれたように顔を上げた。
初めて見る焦りと怒りの入り混じった顔で、俺を憎々し気に睨み付けて叫んだ。

「―――ゆっくり?ふざけんなよ!何のんびりした事言ってるんだ!」

俺はユキトのあまりの剣幕に驚いたが、何か急がなきゃいけない理由があるのかと思い至った。

俺達は生の途中、いきなりそれを断たれた。だから当然、何か心残りや、やり残した事があるだろう。俺は常にいつ死んでも仕方ないって思って生きて来たから、エクシリアに心残りややり残した事なんて、正直ない。

でも、ユキトは違うもんな。
平和に、幸せに暮らしていたはずだ。だったら、残して来たものが気になるのも仕方ない。

「お前、そんなに急いで…ニホンに何か大事なものを残して来たのか?」

そう聞いた。

けど、予想外にユキトは、顔を強張らせて目を伏せた。
さっきの剣幕が嘘のように、大人しく静かになってしまった。

「……別に、そういうものは何も、ない」

しばらくして、感情のない声でそう言うと、ユキトは俺に謝った。

「…悪い。怒鳴ったりして…ヒューゴは何も悪くないのに。俺が勝手に焦っただけだから、ヒューゴの言う様にしばらく休もうと思う。色々ありがとう。ちょっと寝る」

そうしてまたシーツに潜り込むユキトに、俺は「気にしてないから大丈夫だ。ゆっくり休めよ」と声を掛けてから部屋を出た。

うーん。やっぱり不安定だな。ギリギリの所で均衡を保っている張り詰めた糸が、いつ切れてもおかしくない、そういう危なっかしさがある。

しばらくして見に行ったら、ユキトはぐっすり寝ていた。

もう夜で、俺はユキトの様子が気になったから自分の部屋から毛布を持って来て、ユキトと同じ部屋のソファに寝転がって様子を見ることにした。

そうしたら、夜半過ぎだろうか。

俺もいつの間にかぐっすり寝ていたんだが、ふいにユキトの悲鳴と叫び声で目がぱっと開いた。

「嫌、嫌だやだあ!来ないで、来ないで」

急いでベッドに寄ると、ユキトが目を閉じたまま悶えていた。閉じた瞼には涙が滲んでいる。

「どうしたんだ、ユキト!?大丈夫か?」

悪い夢でも見ているのかと揺さぶったが、なかなか起きず、その間もずっと「やめて」「ごめんなさい」「もう許して」と呟いている。

すごく、辛そうで苦しそうだ。

強い精神的ストレスが続いた後、反動で興奮、その後急激に落ち込む奴が居るのは今まで散々見て来た。

昼間、妙に高揚した様子だったから、こんな風になるんじゃないかとは思っていたけど、それにしては言っている事が少し妙だった。

今日、あんな目に遭って受けたショックの反動にしては、喋り方がどうも子供のようだし、言っている内容も子供が誰かに懇願しているような内容だ。

まるで、子供のユキトが誰かに危害を加えられて、怯えているようだった。

俺は困惑した。

ユキトの世界は平和だったんだろ?幸せに暮らしてたんだろ?なのに、なんでこんな悪夢にうなされたりしてるんだ?
ユキト、お前どんな風に生きて来たんだ?

そういえば、ユキトがニホンで具体的にどんな風に生きていたのか、って事や、死の詳細を語らなかった事に気付いた。

平和な世界で、お前に何があったんだ?

「おい!ユキト!もう大丈夫だ!ここはもうニホンじゃない」

ユキトの身体を抱き起こすようにすると、やっと目が醒めたようで、ユキトがぼんやり俺を見た。

「あ…う」

涙で濡れた目。

「何か怖い夢でも見たのか?すごく魘されてたから起こしたんだ」

気が付くとユキトの体はまた震えていたから、俺はぎゅっと抱き締めて、背中も撫でてやった。

「そ、か…ごめん、迷惑かけて…」

しおらしく呟くように言うユキトに、俺は胸が締め付けられるような気がして、

「とにかくもう大丈夫だ。落ち着かないなら、お前が寝れるまで俺が背中擦っててやるから。もうここは大丈夫だから、安心して寝ろよ」

「うん…」

寝ぼけているのか、妙に大人しく素直にユキトは言って、そのまま俺に体重を預けて来たから、俺は背中に手を回してゆっくり寝かせて、抱き締めたまま一緒に横になった。

子供みたいになったユキトに、どうして、何があったんだ、と聞きたい気持ちに蓋をして、俺はそのままずっとユキトを抱き締めたまま眠った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...