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至宝のオメガ

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―――至宝のオメガ
それを手にするものは世界を制する―――


穏やかな昼下がり。大きく開いた窓から涼しい風が入って来て、ルビニクス産の上質なシルクのカーテンを揺らす。
その様子をぼんやり見ながらルビニアが呟いた言葉を、彼女の小さな息子が耳ざとく聞きつけた。

「母様、しほうのおめがってなに?世界をせいするって?どういう意味?」

目をぱちぱちと瞬かせて、小さな頭を傾げる可愛らしい男の子。さらりと銀色の髪が揺れる。
ルビニアと同じ、フェニキリア人の特徴である綺麗な蒼い瞳をキラキラと輝かせて、一心に自分を見つめる愛おしい息子。

だが髪の色は、アッシュグレイの自分とは違う。憎いあの男の色を引き継いでしまった。だけどそれでも可愛くて大事な存在である事には変わりない。ルビニアは微笑んで答えた。

「先月フェニキリアに王子様が生まれたでしょ。その子が至宝のオメガなの。そしてオメガを手にする者はこの黄金郷すべての富、人、権力を思い通りに出来る力を手に入れられる、って言われているのよ。滅多に生まれて来ないし、前に至宝のオメガが生まれたのは100年も前の事だからフェニキリアでは国を挙げてお祝いしたの」
「へぇー」

分かったのか分かっていないのか、目を真ん丸にして母親の顔を見つめる息子に、ルビニアは溜息を付いて言った。

「だけどそんな貴重な存在だから、みんな躍起になって至宝のオメガを手に入れようとするのよ。特にこのドラコニアはね。でもね、イルヴァース。至宝のオメガだって、あなたや母様と同じ人間なのよ」

ルビニアが言う事を一つも聞き漏らすまいと、真面目な顔で見つめるイルヴァースを、ルビニアも真剣な目で見つめ返した。

「あなたには、ここの人達のようにオメガを物のように扱って欲しくない・・・あなたが至宝のオメガに引き合わされる事はないと思うけど、もしそんな事があったらちゃんと、対等な人間として接してちょうだい。相手にも心があるって、ちゃんと覚えておいて・・・」

まだ5才のイルヴァースには、母が何を言っているのかしっかりとは理解できなかったが、何か大事な事を言われているのは分かった。
だから、

「うん、分かった。僕、もししほうのおめがに会うことがあったら、ちゃんと優しくして仲良くするね」

そう言って笑った。
その無邪気な笑顔を見つめていたルビニアは、ぐっと胸が締め付けられるような気持ちになって、愛しい息子を胸にかき抱いた。

「イルヴァースはいい子ね。大好きよ・・・あなただけが私の拠り所。この冷たい牢獄の中であなただけが私の安らぎよ。愛してるわ」
「うん、僕も母様が大好き!愛してる!」

イルヴァースもそう言うと、ルビニアの胸に顔を擦り付けて大好きな母の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
銀色の艶やかな髪を撫でながらルビニアは優しく微笑んだが、反面、その胸中は暗澹たる思いに沈んで行った。

(ああ・・・とうとう至宝のオメガが生まれてしまった。私は所詮オメガの代用品。必要なくなった私を、あの人たちがいつまでも生かしておくとは思えない。・・・だけどこの子は曲がりなりにも、あの男の血を引く貴重な存在・・・この子だけはきっと生かして貰える・・・)

ルビニアがひそかに涙を零した事にも気付かず、イルヴァースは、優しく暖かい母に抱かれて、ただ幸せを感じていた。

この幸せが終わりを告げるまで、あと幾ばくもない事など知らずに。




☆☆☆☆☆
終盤までエロはほぼ出て来ないかと思います。オメガという呼称は出て来ますが、オメガバース設定ではないです。まだちょっとしか書けてないので毎日更新は出来ないかもしれません。とりあえず書けたところまでは毎日12時くらいに投稿します。

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