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1章
これはほっといたらヤバい。絶対にヤバいやつだ。
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書きたてほやほやです。ねむ・・・いつも読んで頂き、またブクマもありがとうございます(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆ ♡
*****
朝だ。窓から差し込む朝陽を見たら、爽やかな気分になるよな。
後ろを振り返ると、まだキアはベッドで丸まっている。しっかり陽の光も当たってるのに、ほんと目が覚めないやつだな。
俺はベッドに上がって、キアを起こそうと肩に手を掛けて、ふと光に照らされたその顔に目が行った。
閉じられた瞼を縁どる黒い長い睫毛、陶器のように滑らかな白い肌。ほのかに艶のあるピンク色の唇。この唇で、昨日の夜も俺のあんなとこを・・・
い、いやいや、何を考えてんだ俺は。
頭をぶんぶん振っていると、珍しくキアが自分から目を開いて俺を見た。
「リオン・・・おはよう」
うっすらと笑みを浮かべて俺を見つめる、オニキスのようにきれいな瞳に、俺は一瞬声もなく見入ってしまった。
「め、珍しいじゃん。キアが起こさなくても自分で起きるなんてさ」
ふいっと目を逸らしながら言うと、キアはふっと笑った。
「リオンが僕の事見てくれてる気配に気付いたから、目が覚めちゃった」
「え・・・どんだけ敏感なんだよ、お前」
ちょっとビビっていると、キアが両手を俺の腰に回して顔を俺の腹に埋め「あー」と声を上げた。
「ちょ、何してんの?」
「んふふ、幸せだなーって思ってさ。ああ僕、このままこうしていたいよ。ねえ、リオン、僕とずっとずっと一緒にいてくれる?」
いつもだったら、俺は女の子と結婚するんだからお前とは一緒にいられないだろ、なんて言ってるところだったけど、何となく今はそんな事を言う気になれなくて。
でも、キアのその言葉にまっすぐ答えてしまったら、何かが変わってしまうような気がして少し怖くて。
「な、何言ってんだ。俺とお前は相棒だろ。まだまだクエストも受けるし、世界を回るんだから、ずっと一緒に決まってるだろ!」
俺はそんな風に言って誤魔化した。
キアは「・・・うん、今はそれでもいいよ」と呟くように言うと、自分から腕を外して起き上がった。
「じゃ、身支度して行こうか。この宿屋は朝食も付いてるから、1階の食堂で食べられるよ」
「え、そうなんだ。じゃすぐ行こうぜ!」
キアの言葉に俺はパパッと着替えて顔を洗って、身支度を済ませたキアと食堂で朝飯を食べた。
ん、まあ美味しいけど普通かな?でも飯が付いてるだけで有難いよな。
よーし、今日も面白そうなクエスト受けるぞ!
俺は気合を入れて、キアと一緒にギルドへ向かった。
ギルドに着くと中を見回すが、エフィ達や昨日のエテルナさんの姿は無かった。他に知っている人もいないしな。早速依頼の貼られている掲示板を見に行く。
う~ん、A級相当の依頼は貼られてないなあ。さすがにそんな難しそうなのはホイホイないか。
あるのはB級かC級のが数個とあとはE、D級の依頼。本来の俺らが受けられるE級の依頼は、地下水道のラット退治とか、農家の畑に巣くったモール退治とか、炭鉱に湧いたスライム退治とか、いまいちやる気が起こらないのばっかりだ。
「この中だったらやっぱ、これかなあ」
俺が目を付けたのは、ワイバーンの討伐依頼だった。
『王都イグニシア北東にある遺跡「古の魔導士の塔」にワイバーンが住み着き、近隣の村の家畜に被害が出ている。早急に討伐を求む。成功報酬は65000リラ』
黒いワイバーンロードって奴なら、俺の村の近くでもたまに出たしな。あれと似たようなもんなら倒せるだろ。
「なあ、これやりたいけど、B級の誰かと組まないと受けられないんだよな?」
「ああ、リオンが好きそうなクエストだね。マチルダさんに誰か紹介して貰う?」
「そうだな、聞いてみようぜ」
「おはよーございまーす」
俺とキアは連れ立って受付のマチルダさんのとこに行った。
「リオンさん、キアさん、おはようございます」
マチルダさんはにっこり笑って挨拶してくれる。
「マチルダさん、B級の依頼受けたいんですけど、誰か空いてるB級冒険者っています?」
「B級の依頼ってワイバーンの討伐ですよね?確かにリオンさんのレベルなら安心してお任せできますね・・・うーん、ただ、今ここで活動しているB級冒険者は、その、マーズさん位しかいないんですよね」
「げっ、あいつかよ」
「ですよねー・・・」
困った顔でそう言うマチルダさんに、俺もテンションが下がる。
が、
「あっ、そうだ」
急に何かを思いついたように明るい顔でマチルダさんが言った。
「それか、A級冒険者の方と組んでもB級の依頼は受けられますよ!」
「へえ、そうなのか。あ、だったらエテルナさんっていつここに来ます?昨日飯屋で知り合って、声掛けてくれたら一緒にクエストに行ってくれるって話だったんで」
「あら、そうなんですね!エテルナさんは昼くらいに来られる事が多いんですけど、同じパーティの方がたぶんもうちょっとしたら来られると思います。いらっしゃったら紹介しますから、少し待ってて貰っていいですか?」
「ハイ」
マチルダさんにそう言われて、俺とキアは空いているテーブルに座って待つことにした。
手持ちぶさたでギルド内を眺めていると、色んな人が出入りしては受付で依頼をしたり、掲示板を見て依頼を探したり、これからのクエストの相談を仲間内でしたりしている。
入口の方をぼうっと見ていると、また一人冒険者が入って来た。
明るい鳶色の髪を後ろで縛った、軽装の若い男の冒険者だ。踊るような足取りで受付に歩いていくのを何となく見送っていると、マチルダさんと話すそいつが俺の方をぱっと振り返った。
「あの人なんじゃないの」
「うん、そうかもな」
キアの言葉に俺もうなずく。
と話していたら、やっぱりマチルダさんが席を立って、そいつと一緒にやって来た。
「リオンさん、キアさん、こちらエテルナさんと同じパーティでA級冒険者の、ナギさんです」
「やっほ~。俺ナギ。君らの事はエテルナに聞いてるよん。すっげえ高レベルなんだよな?仲良くしよーぜ~」
ナギはそう言って、片目を瞑ってみせた。
俺らより少し上くらいの年かな?鳶色の髪、赤い目のなんとなくかるーい感じのヤツだ。
でもA級冒険者なんだよな。
「あ、よろしく!俺リオン。こっちはキアだ」
「よろしく」
俺らが言うと、ナギはニコニコして手を差し出して来た。あ、握手ね。はいはい。
と、手を握ると、ぐいっと引っ張られてチュッと唇にキスされた。
「えっなに?」
訳が分からず目を丸くしている間に、キアがぐいっと俺を引っ張り戻して抱き締め、ナギを睨む。
「何のつもり?僕のリオンに勝手に触れないでくれるかな」
おい、黒いオーラ倍増で出てるぞ。怖いって。
「あれ、君ら付き合ってんの?え~、な~んだ。リオンめっちゃ好みだったのに~。あー残念・・・って、ちょっとちょっと彼氏さん、謝るから許してよ、ね?」
ナギはそんな残念そうでもない顔で笑って、両手を合わせてキアにごめんっ、と謝っていた。
キアは俺を抱き締めたまま、冷たい態度を崩さない。
「え?どういうこと?ナギって男が好きなのか?」
「あ~、俺ね、女の子も男の子もどっちも好きなんだよね~。リオンって俺のどタイプだったんだけどな~。執着激しそうな彼氏だから止めとくわ。うーん、残念!でも浮気したくなったらいつでも言って?」
ナギが笑いながらそう言って俺にウィンクを飛ばして来たんで、「いや別にこいつ俺の彼氏とかじゃねーし」と言おうとしたんだけど、不穏な気配を感じてキアを振り返ったら
「リオンは絶対に僕から離れないし、もしそんな事になったら僕は世界を滅ぼすよ」
ズゴゴゴゴっとキアから立ち昇る黒いオーラがとんでもないことになっていて、俺はさっきの言葉を絶対に言えなくなった。
っつーか、これはほっといたらヤバい。絶対にヤバいやつだ。
仕方なく俺は、
「あー、そのキアさん?俺、別にナギのこと何とも思ってないからな?付き合うとかないから。だから機嫌直せよ」
と言った。
ナギが「え~ショックだなあ」なんて言ってたけど、それどころじゃない。
「・・・ホントに?」
「うん、ほんとほんと!マジでないから!あり得ないから!」
「・・・じゃあ、リオンから僕にキスしてくれる?」
おいっ!どさくさに紛れてまたお前は!
と言おうとした俺はドキッとした。キアがいつになく、暗い顔で弱々しく俯いたからだ。
えっどうしたんだよ、お前のそんな顔、初めて見るぞ。っつーか、何がそんなにショックだったんだ?ただ、好みって言われてちょっとチューされただけだぞ?
あんなのただふざけただけだろ?
キアのマジ凹み顔に俺はうろたえた。ど、どどどうしよう。
いや、リオン。ここは腹を決めてキアを落ち着かせることに集中するんだ。やれ、やるんだ!
う、ううう、よ、よし、分かった!
捨てたはずの俺の中の勇者魂が叫んだんで、俺はぐっと気合を入れてキアに体ごと向き直り、キアの顔を両手でぐいっと挟んで上向かせた。
そして、目を瞑ってちゅーっとキアの唇に自分のを押し当てる。
キアは一瞬何が起こったのか分からなかったようで、されるがままになっていたのも束の間、がしぃっと俺の後ろ頭と背中に手を回すと凄い勢いで激しいキスを返して来た。
「んんっ!んっ、ふぅ、んッ」
あまりに激しくて息、できねー!舌もめちゃくちゃ絡めて来るし、やべーって、涎が垂れるぅ!
「うわ、やっば、エッロ~・・・クるなぁこれ・・・」
ナギがごくりと喉を鳴らすのが聞こえて、俺は何とかキアから離れた。
「っはあっ、はあはあ!おいっ、ちょっと激し過ぎっ!しかもまた人前でべろちゅーしやがってっ!」
俺は憤慨してそう言ったけど、キアは頬を上気させて瞳をうるうるさせながら口元をこれでもかというほど緩めていた。
「リオン・・・僕、嬉しいよ。ホントにリオンからキスして来てくれるなんて・・・もう嬉し過ぎて今すぐリオンの事抱きたい」
「なっ、なに言ってんだ!それはダメ!っつーか、もう終わりな!人前だし、俺もう恥ずかし過ぎて死にそうだし!」
俺は抱き着いて来るキアを必死で引き剥がしながら、真っ赤な顔で叫んだ。
あ、でもキアの暗黒オーラは収まったみたいだ。良かった。俺が身体を張った甲斐があった。
でも周りを見ると、ナギはニヤニヤしてるし、マチルダさんは真っ赤になってるし、ギルド内にいた人がみんなこっち見てるし、あーーーー!やっぱ恥ずかし過ぎるぅ!
「キ、キア!離せって!一旦出るぞ!」
そう言ったら、ナギが
「いや、まだクエスト受注の話してないじゃ~ん、それが本題でしょ?ほらほら、みんな大して気にしてないから、早く依頼の話しよ~ぜ」
平然とそう言って、傍のテーブルに座って手招きした。
「ほら、リオン座ろうよ。あの依頼受けたかったんでしょ?」
さっきまでと打って変わってニコニコ上機嫌になったキアが俺の手を引っ張って椅子に座らせ、仕方なく俺もナギに向き合った。
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朝だ。窓から差し込む朝陽を見たら、爽やかな気分になるよな。
後ろを振り返ると、まだキアはベッドで丸まっている。しっかり陽の光も当たってるのに、ほんと目が覚めないやつだな。
俺はベッドに上がって、キアを起こそうと肩に手を掛けて、ふと光に照らされたその顔に目が行った。
閉じられた瞼を縁どる黒い長い睫毛、陶器のように滑らかな白い肌。ほのかに艶のあるピンク色の唇。この唇で、昨日の夜も俺のあんなとこを・・・
い、いやいや、何を考えてんだ俺は。
頭をぶんぶん振っていると、珍しくキアが自分から目を開いて俺を見た。
「リオン・・・おはよう」
うっすらと笑みを浮かべて俺を見つめる、オニキスのようにきれいな瞳に、俺は一瞬声もなく見入ってしまった。
「め、珍しいじゃん。キアが起こさなくても自分で起きるなんてさ」
ふいっと目を逸らしながら言うと、キアはふっと笑った。
「リオンが僕の事見てくれてる気配に気付いたから、目が覚めちゃった」
「え・・・どんだけ敏感なんだよ、お前」
ちょっとビビっていると、キアが両手を俺の腰に回して顔を俺の腹に埋め「あー」と声を上げた。
「ちょ、何してんの?」
「んふふ、幸せだなーって思ってさ。ああ僕、このままこうしていたいよ。ねえ、リオン、僕とずっとずっと一緒にいてくれる?」
いつもだったら、俺は女の子と結婚するんだからお前とは一緒にいられないだろ、なんて言ってるところだったけど、何となく今はそんな事を言う気になれなくて。
でも、キアのその言葉にまっすぐ答えてしまったら、何かが変わってしまうような気がして少し怖くて。
「な、何言ってんだ。俺とお前は相棒だろ。まだまだクエストも受けるし、世界を回るんだから、ずっと一緒に決まってるだろ!」
俺はそんな風に言って誤魔化した。
キアは「・・・うん、今はそれでもいいよ」と呟くように言うと、自分から腕を外して起き上がった。
「じゃ、身支度して行こうか。この宿屋は朝食も付いてるから、1階の食堂で食べられるよ」
「え、そうなんだ。じゃすぐ行こうぜ!」
キアの言葉に俺はパパッと着替えて顔を洗って、身支度を済ませたキアと食堂で朝飯を食べた。
ん、まあ美味しいけど普通かな?でも飯が付いてるだけで有難いよな。
よーし、今日も面白そうなクエスト受けるぞ!
俺は気合を入れて、キアと一緒にギルドへ向かった。
ギルドに着くと中を見回すが、エフィ達や昨日のエテルナさんの姿は無かった。他に知っている人もいないしな。早速依頼の貼られている掲示板を見に行く。
う~ん、A級相当の依頼は貼られてないなあ。さすがにそんな難しそうなのはホイホイないか。
あるのはB級かC級のが数個とあとはE、D級の依頼。本来の俺らが受けられるE級の依頼は、地下水道のラット退治とか、農家の畑に巣くったモール退治とか、炭鉱に湧いたスライム退治とか、いまいちやる気が起こらないのばっかりだ。
「この中だったらやっぱ、これかなあ」
俺が目を付けたのは、ワイバーンの討伐依頼だった。
『王都イグニシア北東にある遺跡「古の魔導士の塔」にワイバーンが住み着き、近隣の村の家畜に被害が出ている。早急に討伐を求む。成功報酬は65000リラ』
黒いワイバーンロードって奴なら、俺の村の近くでもたまに出たしな。あれと似たようなもんなら倒せるだろ。
「なあ、これやりたいけど、B級の誰かと組まないと受けられないんだよな?」
「ああ、リオンが好きそうなクエストだね。マチルダさんに誰か紹介して貰う?」
「そうだな、聞いてみようぜ」
「おはよーございまーす」
俺とキアは連れ立って受付のマチルダさんのとこに行った。
「リオンさん、キアさん、おはようございます」
マチルダさんはにっこり笑って挨拶してくれる。
「マチルダさん、B級の依頼受けたいんですけど、誰か空いてるB級冒険者っています?」
「B級の依頼ってワイバーンの討伐ですよね?確かにリオンさんのレベルなら安心してお任せできますね・・・うーん、ただ、今ここで活動しているB級冒険者は、その、マーズさん位しかいないんですよね」
「げっ、あいつかよ」
「ですよねー・・・」
困った顔でそう言うマチルダさんに、俺もテンションが下がる。
が、
「あっ、そうだ」
急に何かを思いついたように明るい顔でマチルダさんが言った。
「それか、A級冒険者の方と組んでもB級の依頼は受けられますよ!」
「へえ、そうなのか。あ、だったらエテルナさんっていつここに来ます?昨日飯屋で知り合って、声掛けてくれたら一緒にクエストに行ってくれるって話だったんで」
「あら、そうなんですね!エテルナさんは昼くらいに来られる事が多いんですけど、同じパーティの方がたぶんもうちょっとしたら来られると思います。いらっしゃったら紹介しますから、少し待ってて貰っていいですか?」
「ハイ」
マチルダさんにそう言われて、俺とキアは空いているテーブルに座って待つことにした。
手持ちぶさたでギルド内を眺めていると、色んな人が出入りしては受付で依頼をしたり、掲示板を見て依頼を探したり、これからのクエストの相談を仲間内でしたりしている。
入口の方をぼうっと見ていると、また一人冒険者が入って来た。
明るい鳶色の髪を後ろで縛った、軽装の若い男の冒険者だ。踊るような足取りで受付に歩いていくのを何となく見送っていると、マチルダさんと話すそいつが俺の方をぱっと振り返った。
「あの人なんじゃないの」
「うん、そうかもな」
キアの言葉に俺もうなずく。
と話していたら、やっぱりマチルダさんが席を立って、そいつと一緒にやって来た。
「リオンさん、キアさん、こちらエテルナさんと同じパーティでA級冒険者の、ナギさんです」
「やっほ~。俺ナギ。君らの事はエテルナに聞いてるよん。すっげえ高レベルなんだよな?仲良くしよーぜ~」
ナギはそう言って、片目を瞑ってみせた。
俺らより少し上くらいの年かな?鳶色の髪、赤い目のなんとなくかるーい感じのヤツだ。
でもA級冒険者なんだよな。
「あ、よろしく!俺リオン。こっちはキアだ」
「よろしく」
俺らが言うと、ナギはニコニコして手を差し出して来た。あ、握手ね。はいはい。
と、手を握ると、ぐいっと引っ張られてチュッと唇にキスされた。
「えっなに?」
訳が分からず目を丸くしている間に、キアがぐいっと俺を引っ張り戻して抱き締め、ナギを睨む。
「何のつもり?僕のリオンに勝手に触れないでくれるかな」
おい、黒いオーラ倍増で出てるぞ。怖いって。
「あれ、君ら付き合ってんの?え~、な~んだ。リオンめっちゃ好みだったのに~。あー残念・・・って、ちょっとちょっと彼氏さん、謝るから許してよ、ね?」
ナギはそんな残念そうでもない顔で笑って、両手を合わせてキアにごめんっ、と謝っていた。
キアは俺を抱き締めたまま、冷たい態度を崩さない。
「え?どういうこと?ナギって男が好きなのか?」
「あ~、俺ね、女の子も男の子もどっちも好きなんだよね~。リオンって俺のどタイプだったんだけどな~。執着激しそうな彼氏だから止めとくわ。うーん、残念!でも浮気したくなったらいつでも言って?」
ナギが笑いながらそう言って俺にウィンクを飛ばして来たんで、「いや別にこいつ俺の彼氏とかじゃねーし」と言おうとしたんだけど、不穏な気配を感じてキアを振り返ったら
「リオンは絶対に僕から離れないし、もしそんな事になったら僕は世界を滅ぼすよ」
ズゴゴゴゴっとキアから立ち昇る黒いオーラがとんでもないことになっていて、俺はさっきの言葉を絶対に言えなくなった。
っつーか、これはほっといたらヤバい。絶対にヤバいやつだ。
仕方なく俺は、
「あー、そのキアさん?俺、別にナギのこと何とも思ってないからな?付き合うとかないから。だから機嫌直せよ」
と言った。
ナギが「え~ショックだなあ」なんて言ってたけど、それどころじゃない。
「・・・ホントに?」
「うん、ほんとほんと!マジでないから!あり得ないから!」
「・・・じゃあ、リオンから僕にキスしてくれる?」
おいっ!どさくさに紛れてまたお前は!
と言おうとした俺はドキッとした。キアがいつになく、暗い顔で弱々しく俯いたからだ。
えっどうしたんだよ、お前のそんな顔、初めて見るぞ。っつーか、何がそんなにショックだったんだ?ただ、好みって言われてちょっとチューされただけだぞ?
あんなのただふざけただけだろ?
キアのマジ凹み顔に俺はうろたえた。ど、どどどうしよう。
いや、リオン。ここは腹を決めてキアを落ち着かせることに集中するんだ。やれ、やるんだ!
う、ううう、よ、よし、分かった!
捨てたはずの俺の中の勇者魂が叫んだんで、俺はぐっと気合を入れてキアに体ごと向き直り、キアの顔を両手でぐいっと挟んで上向かせた。
そして、目を瞑ってちゅーっとキアの唇に自分のを押し当てる。
キアは一瞬何が起こったのか分からなかったようで、されるがままになっていたのも束の間、がしぃっと俺の後ろ頭と背中に手を回すと凄い勢いで激しいキスを返して来た。
「んんっ!んっ、ふぅ、んッ」
あまりに激しくて息、できねー!舌もめちゃくちゃ絡めて来るし、やべーって、涎が垂れるぅ!
「うわ、やっば、エッロ~・・・クるなぁこれ・・・」
ナギがごくりと喉を鳴らすのが聞こえて、俺は何とかキアから離れた。
「っはあっ、はあはあ!おいっ、ちょっと激し過ぎっ!しかもまた人前でべろちゅーしやがってっ!」
俺は憤慨してそう言ったけど、キアは頬を上気させて瞳をうるうるさせながら口元をこれでもかというほど緩めていた。
「リオン・・・僕、嬉しいよ。ホントにリオンからキスして来てくれるなんて・・・もう嬉し過ぎて今すぐリオンの事抱きたい」
「なっ、なに言ってんだ!それはダメ!っつーか、もう終わりな!人前だし、俺もう恥ずかし過ぎて死にそうだし!」
俺は抱き着いて来るキアを必死で引き剥がしながら、真っ赤な顔で叫んだ。
あ、でもキアの暗黒オーラは収まったみたいだ。良かった。俺が身体を張った甲斐があった。
でも周りを見ると、ナギはニヤニヤしてるし、マチルダさんは真っ赤になってるし、ギルド内にいた人がみんなこっち見てるし、あーーーー!やっぱ恥ずかし過ぎるぅ!
「キ、キア!離せって!一旦出るぞ!」
そう言ったら、ナギが
「いや、まだクエスト受注の話してないじゃ~ん、それが本題でしょ?ほらほら、みんな大して気にしてないから、早く依頼の話しよ~ぜ」
平然とそう言って、傍のテーブルに座って手招きした。
「ほら、リオン座ろうよ。あの依頼受けたかったんでしょ?」
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