上 下
2 / 31
第一章

第1節 始動

しおりを挟む


この世界には魔法というものが存在する。
魔法は体内、外界、物質など様々なものにあると言われている。その概念を確立し誰でも簡単に魔法を使えるようにした偉大なる魔法使いがいた。


その名は大賢者 ”マーリン”


この世界で一二を争う国、ウィテカー王国はそのマーリンの直系の子孫が代々治める国であった。魔法魔術魔導の祖マーリンの知識と心を受け継いでいるため、どの代の王も領民に対しても常に良い施政者である。マーリンを輩出した国だけあり魔法に対する熱意や教育も盛んだ。故に、常に敵国に狙われることもなくまた己も他国にちょっかいを出すこともない平和で安全な国だ。
平和で安全なのはそれだけではない。目に見えぬバリアが国全体に張り巡らされているのである。
魔法教育が盛んなため、魔法使いになるための門戸も広くなっており簡単な試験はあるものの王国民ならば誰でも魔法使いとして生きていくことが可能だ。
それを実現するのが、”王立魔術学園”である。王城の後ろの山を越えた、王城の真裏に位置するこの学園は18歳から24歳までの6年間を魔術について学ぶことができる唯一の学園だ。




「ロイス・カルディア君」

そんな学園の、小さな講義室に先生らしき人の穏やかな声が聞こえた。先生は何度もその名を呼んだが、反応はない。そんな中静かな講義室には、僅かな嘲りの声がこそりと聞こえた。

「またカルディアの奴休みだぜ」
「今度こそついに落第させられるんじゃねーの?」
「先生も甘いよなぁ~羨ましいぜ」

このロイスと言う生徒は、毎日のように講義を休み授業をサボるがなんと補講でいつも退学を免れていた。同じ講義を受けている生徒も実は彼のことはよく知らない。交流しようにも講義に来ないし、いつでもフードを目深に被っていて話しているところも見たことがないほどだった。しかし、なんだかんだ補講すれば合格点に届くのだからそこそこ頭もよく魔法のセンスもあるのだろう。
居ないのかね、と先生が出席簿にバツをつけようとした時、バタバタと緑のローブを着た者が講義室に走って入ってきた。フードを目深に被って居て顔まではわからないが、呼ばれていた生徒に間違いないだろう。どうやら遅刻で済んだようだ。一番後ろのはじの席に慌てて座った。

「…ロイス君、君は今日授業が終わったあと補講だよ。僕の授業ばっかり休んで…甘やかしすぎたのかなぁ?まぁいいや、これからの話をしよう。みんな、静粛に!」

シン、と一瞬にしてざわついた講義室は静かになった。

「今日は全学年合同でドラゴニスタ科の実習をするのは知っているね。召喚できていないものは第2講義室でドラゴン召喚をやってもらうよ。自分のドラゴンもしくは使い魔がいるものは竜舎に集まるように。あとはそこで詳しくきいてね」

ドラゴニスタはその名の通りドラゴンを使役する方法に長けたものあるいは使い魔召喚を得意とする生徒の学科である。この学園では、千人前後の生徒が入学するうち50人程度が適正があるものとして選ばれるが、ドラゴンを召喚し契約する魔法使いは多い。だが、だからといってドラゴンと交流できるかは別の問題だ。
ザワザワと生徒達が湧き立つ。ドラゴニスタ科は女生徒の割合がとても多いのである。一般的に女性の方がドラゴンとの相性が良くドラゴンを育成するのも長けたものが多いと言われている。つまり、女生徒を見たいのである。
この学園では四年生までは自分の学科のみならず別の学科の勉強をする。その授業の一環だろう。
あっ、と先生はごそごそとローブの懐を探ると小さな紙切れを取り出した。

「今週末に第3王子レオナルド殿下が学園に視察に来ることになっているんだけど…なんと!王子が同い年の第2学年の生徒とお茶会をしたいんだって!すごいよねぇ」

こともなげにさらりと先生は告げた。一気にドッと生徒たちが盛り上がった。第3王子はウィテカー王国の防衛と魔法騎士団や軍隊の指揮を担う王子である。王位継承権こそないものの、マーリンの叡智と魔力を受け継ぎ、国のアイドルの様に奉られている。
それでね、とまた先生は話し始めた。

「うちの学科から誰かお茶会に行く人を決めるんだけど、ランドシュタイナー君にお任せすることでいいよね、みんな?」
『賛成です!』

ランドシュタイナーくんとはこの学年のこの学科の首席の生徒である。ランドシュタイナーはふんぞり返って当然です!と言わんばかりにしている。
先生は大して興味もなさそうに、よろしく~などと言っている。

「じゃあ、グリモワール科の諸君。授業をはじめよう。えー教科書の124pを開いて……」

緑のローブを着た生徒達は興奮を隠しきれないようだったが、授業が始まったため慌てて教科書を開いた。
皆が集中する中、ただ一人ロイスと呼ばれた生徒だけは見事に机に突っ伏して眠っていた。そこに先生からの分厚いグリモワールが投げられたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!

織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
 ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。  そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。  その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。  そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。  アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。  これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。  以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。

処理中です...