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番外編 みなりつ12(律side)
しおりを挟むもう十分。十分なはずなのに。
君はそれ以上のものをくれようとしてる。
「律……好きなんだ」
「……っ」
俺を見る真剣な眼差しから、目が離せない。
「俺の気持ち、信用できないのは分かる」
そうだよ。信用できないよ。
だって、あの子を想うキミをずっとそばで見てきた。
「望月のことはこれからもずっと大事だ。けど、もう恋とかじゃないんだ。アイツへの気持ちは、前と全然違う」
ずっと見てきたはずなのに、こんなとっつーは初めて見た。
「律が好きだ。お前が俺から離れていくのが尋常じゃないくらい嫌だし、他の男に触られんのを想像すると頭がおかしくなりそうだ」
こんな必死な顔してるとっつー、初めて見るんだよ。
「お前は俺から離れたがってんのにこんなこと言うなんて、自分勝手だって分かってる。けど、もし、お前が一人になったとき、少しでも俺のことを思い出したら──っ!」
グイッと胸ぐらを掴み、唇を重ねる。
久しぶりに感じるとっつーの香りに、泣きそうなほど嬉しくなった。
「律……?今……」
驚きの表情を浮かべるとっつーを、俺は睨みつけた。と言っても、今にも泣きそうなのを堪えながらだから、ちゃんと睨めてる自信はないけど。
「ほんっとお人好しだよね。そんなに俺のこと欲しいって顔してるくせに、また綺麗な思い出になるまで待ち続ける気?」
「っ……けど、お前に、好きな相手がいるのに──」
「そんなのいないよ。俺、人のこと本気で好きになったことないもん」
「は?だけどお前、落ち着くって……昨日も予定が……」
「あんなの嘘じゃん。とっつーから離れるための」
「いや、ちょ、意味がわかんねえんだけど」
「とっつーのことが好きだから!だから、心くんとのこと邪魔する前に、消えたかったの!君の支えになりたかったし、心くんとのことも応援したかったのに、どんどん好きになってって、取り返しがつかなくなりそうで、離れようとしたの!」
俺はもうヤケクソで、思いの丈をぶつけた。
だってもう、自分の気持ちを誤魔化せそうになかったから。
「それなのにとっつーは俺のこと好きだなんて言うし、ほんと意味わかんなかったよ……」
「……」
「でも、本当はすごく嬉しかった……」
そう言いながら、とっつーの頬を手のひらで包んで、そっと唇を重ねる。さっきとは違って、優しく、感触を確かめるように。
数秒して、ゆっくりと唇を離した俺は、潤んだ瞳でとっつーのことを見つめた。
「とっつー……好きだよ。最初からずっと大好きだったよ」
震える声でそう言った瞬間、堪えきれず、瞳から涙がこぼれ落ちた。
とっさにそれを拭おうとすると、その前にグイッと引き寄せられ、力強く抱きしめれた。
「とっつー……肩、濡れちゃうよ」
「んなのどうでもいい」
くっついた体から、ドクンドクンと鼓動が伝わってくる。
こんなに強く抱きしめられたのは初めてで、また涙が溢れ出た。
「ねぇ、とっつー。本当に俺で良いの……?」
性懲りも無くそう聞く俺を、とっつーはもっと強く抱きしめる。
「お前じゃなきゃ駄目だ。いい加減信じろアホ」
「……ふふっ。そっか……そっかぁ……」
乱暴な言葉とは裏腹の優しい口調。そんなとっつーらしい態度が愛おしくて、首元に顔を埋める。
(これからはいっぱい好きって言ってもいいんだ……)
そんな幸せを噛み締めて、俺たちはもう一度キスを交わした。
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