先生、おねがい。

番外編 みなりつ6

　「俺がとっつーのそばにいたのは、こんなことのためじゃない！可哀想なひとりぼっちのガキンチョの寂しさを埋めてあげようって！そう思って俺は、君のそばにいたんだよ！」
　「可哀想なガキンチョってお前……」
　「でももう、君にはお兄さんが戻ってきたし、心くんとだってなんだかんだ良い感じだし、俺はお役御免だって身を引こうとしたのに！」
　「いや別に全然良い感じじゃねえけど」
　「会うたびイチャついてるじゃん！」
　「は？んなことしてねえよ」
　「嘘！なんかこう！雰囲気が！常にイチャついてる！」
　「はぁ？……つーか、それを言うなら、お前の方だろ」
　「はぁ⁉︎何で俺⁉︎」
　「いちいち抱きついたり、頬ずりしたり。俺よりお前の方が際どくねえ？」
　「……」


　律は視線をウロウロと彷徨わせたかと思うと、こほん、と咳払いをした。


　「あのねとっつー、永遠なんてないんだよ」


　（誤魔化しやがった……）

　
　何事もなかったかのように話を変えやがった律に、言いたいことがなかったわけではないが、またさっきの話題になるのは避けたかったので、俺はこのまま話の流れに乗ることにした。
　

　「どういう意味だよ？」
　「心くんが今はせんせーに夢中でも、いつか目が覚めたら終わりが来て、そのときこそ君の出番じゃん。今まで待ち続けてたのに、どうして急に俺なんか……血迷わないほうが良いよ」
　「……血迷ってねえし。それに終わんねえよ、アイツらは」
　「そんなの分かんないじゃんか」
　「分かる」
　「分かんないし」
　「分かるって」
　「分かんないっ」


　プイッとそっぽを向いた律を見て、俺の中にとある感情が湧いた。
　それはもちろん、めんどくさい。ではなくて。


　（なんか……）

　
　「なんか可愛いな、お前」
　「……は？」


　若干引き気味な視線を向けられて、俺は我に帰った。


　「あ、わり……そうじゃなくて、いや、事実だけど……」


　そりゃ、言い合い中に急に可愛いとか謎なこと言われたら引くだろう。
　だけど、普段は柔軟な考えを持ってる律が、今はこんなに意固地になってるのが珍しくて、それが可愛く見えて、ポロッと本音が出た。


　（あー……くそ。自覚したら、やべえわ、マジで）


　なんで今まで気づかなかったのか訳がわからないレベルで、なんかもう、顔も声も仕草も、律の何もかもが可愛く見えてくる。
　どうにかして、この気持ちを信じてほしい。受け入れてもらえなくても、この想いは本物なんだって、律自身に伝えたい。


　「なぁ、律、俺は」


　再び詰め寄ろうとすると、律は焦ったように言葉をかぶせてきた。


　「さ、さっきからとっつー意味わかんないけどさっ、とにかくもうちょっと待ちなよ！心くんととっつーお似合いなんだから、時期が来れば上手くいくって！」
　「……っ、なんで……」


　（なんでコイツは、頑なに俺と望月が“お似合い”だなんて思うんだ？）


　しかもさっき、アイツらの関係がいつか終わるだのなんだのと言っていた。まるで、センセイに問題があるみたいに。


　（あ……）


　そうだ。当たり前のことが抜けていた。
　律はセンセイのことを知らないんだ。俺が会わせたがらなかったし、センセイのことを話したがらなかったから。だから、センセイのほんの一部の事実しか知らない。
　なら、その考えをぶっ壊せば、多少は話を聞く気になるかもしれない。そのための手っ取り早い方法が一つ、頭に浮かぶ。


　（正直、めっっっっっちゃくちゃ嫌だけど……）


　けど、背に腹は変えられない。