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番外編 二月の夜③
しおりを挟む痩せた様子もないし、目の下にクマもない。元気そうな様子に安心しながら、俺はいつも通りの笑顔を作って、手をひらひらと振った。
「やっほー。久しぶり~」
「……」
「いやー、たいしたことじゃないんだけど、ちょっと用があってさ~。てか、こんな遅くまで勉強して偉いね~。さすが受験生っ」
「……」
俺の言葉を全部無視して、不可思議そうに、じっと見つめてくるとっつー。
(え、なに⁉︎やっぱ引いてる⁉︎)
視線に耐えきれなくて、思わず目を逸らしてしまう。
とっつーが俺を無視するなんて日常茶飯事のことだけど、今回はぶっちゃけ自分でも若干キモいことしてる自覚があるから、なんだか居た堪れなかった。
もしキモいって言われたら。もしうざいって思われたら。流石の俺でも少し落ち込むかも。
そんなことを思ってハラハラしていたら、急にあったかい温度に頬が包まれた。
「ひゃ⁉︎」
(えっ、なになに⁉︎)
突然すぎて理解が遅れたけれど、どうやら俺は、とっつーに頬を触られているらしい。
不意打ちにドキドキしていると、とっつーは不機嫌そうな顔をグイッと寄せてきた。そのせいで、心臓がさらにうるさく鼓動を繰り返す。
「……ずげえ冷えてる。いつから待ってたんだよ」
「え、え~?そんな待ってないよ~」
目を泳がせて答えると、頬を掴んだままの手で、グイッと無理やり正面を向かせられる。そんなことをされたら、またまた至近距離でとっつーの顔を見ることになるわけで。
「で?本当は?」
(ひーっ、顔近すぎっ)
国宝級の顔面にこれ以上心臓が保ちそうになくて、俺にはもう、正直に言う選択肢しか残されてなかった。
「う……に、にじかん、くらい、かな……あは」
「はぁ……あほか」
頬を解放された代わりに、今度は腕を掴まれ、引っ張られる。
「と、とっつー?どこ行くの?」
前を歩くとっつーにそう質問すると、とっつーは振り返って眉を寄せた。
「家に決まってんだろーが。なんか話あんだろ。兄貴いるけど、上がってけ」
「え⁉︎」
そんなことをしたら貴重な時間を奪ってしまうと思った俺は、とっさに腕を振り払い、グイッと紙袋を押し付けた。
「や!違う!これ渡したかっただけ!ほんとすぐ帰るから!」
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