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番外編 二月の夜②
しおりを挟む「ご注文お決まりでしたら、お伺いしますよ」
「え?」
顔を上げると、店員さんがニコニコとこちらを見ていた。あまりに真剣な顔したままショーケースを眺めていたせいで、誤解されてしまったようだ。
このまま買わないで立ち去るのも悪いし、自分用に買って行こうかと、詰め合わせの箱を一つ指差す。
「じゃあ、これください」
「かしこまりました。紙袋もう一枚お付け致しますか?」
「……」
「お客さま?」
「あ、えっと……大丈夫です。自分用なので」
って、プレゼント用の紙袋は貰わなかったはずなんだけど。
(結局来ちゃった……)
寒空の下、俺は紙袋片手に、とっつーの住むマンションの前に立っていた。お兄さんと一緒に住んでいるというこの家の中に入ったことはないけど、遊ぶ前に迎えに来たり(押し掛けたり)したこともあるから、一応場所は知っていた。
(まだ帰ってないと良いんだけど……)
今の時刻は午後6時。とっつーは普段、図書館とか心くんといんこーせんせーの家とかで勉強することが多いらしいから、多分これから家に帰ってくるはず。
わざわざ連絡するのは悪いし、1、2時間待って来なかったら諦めようと、スマホを弄りつつ待つこと2時間。
「律?」
少し低くて無愛想な声に名前を呼ばれ、顔を上げる。
そこには目的の人物が立っていて、その姿を見た瞬間、自分でもびっくりするほど胸が締め付けられた。
(久しぶりのとっつー……)
分かっていたけど。ちゃんと自覚していたけど。
けど、たった数ヶ月ぶりに会っただけで、こんなに嬉しくなるくらい、自分はとっつーのことが好きなんだって、改めて思い知らされてしまった。
それくらい、会えて、嬉しい、すごく。
(寒くて良かった……)
だって、そうじゃなきゃ、頬が赤いのを指摘されたとき、誤魔化せないでしょ?
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