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番外編 酔っ払い心くん⑧
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***
「はぁ……良かった、雅斗さん怒ってなくて……」
翌日。
いつもより遅い時間に目を覚ました心は、予想通り昨日のことを思い出して酷く取り乱したが、俺の勧めで雅斗さんに電話をしたことで、ようやく少し落ち着いたようだった。
スマホをヘッドボードに置いた心は、側で見守っていた俺のことを上目で見て、申し訳なさそうに眉を寄せた。
「先生もごめんなさい……迷惑、いっぱいかけて……」
顔が赤いのは、俺に会えて嬉しそうに抱きついてきたことや、戸塚くんの前で俺のことを大好きって言ったことを思い出しているからだろう。
俺はそんな心の体を抱き寄せて、一緒にベッドに寝転がった。
向き合いながら、そっと赤く染まった頬を撫でる。
「ううん。心の体調が大丈夫そうで、安心したよ」
「先生……」
ホッとした表情を浮かべた心は、控えめながらも、俺の手に擦り寄って気持ちよさそうに目を細めた。
(可愛い)
このままイチャイチャタイムの突入したいとも思ったが、俺は先にとある疑問について尋ねてみることにした。
「でもさ、心が一気飲みって珍しいよね?そんなに喉渇いてたの?」
心は基本的に、ちびちびとお淑やかに飲むイメージがある。
あの酔っ払いようを見るに、それなりの量を飲んでしまったのは疑いようがないけれど、心の一気飲みする姿なんて、なんだか想像ができなかった。
「そ、それは……その……」
言いにくそうにモゴモゴと口籠る心。
待っていれば言ってくれる雰囲気ではあったので、見守っていると、しばらくして心はおずおずと口を開いた。
「雅斗さんが……先生のことを、優しい人だねって褒めてくれたんです」
「雅斗さんが?」
「はい……それで、その……俺、嬉しくなっちゃって……によによしちゃったみたいで……」
「……」
(なんかこれはもう……うん)
きっと、ものすごく可愛い理由が明かされるんじゃなかろうか。
そんな予想は裏切られることなく、続きの言葉は紡がれる。
「そしたら、心くんは先生のこと……だ、大好きなんだねって……。も、もちろんっ、雅斗さんが言っているのはそういう意味じゃないって分かってはいたんですけどっ……でもっ……」
「……それで照れちゃって、一気に飲んじゃったんだ?」
「……っ……はい。近くにあったものを、中身を確認せずに飲んじゃって……」
そしてそれが、雅斗さんが飲んでいたお酒だったということか。
「うぅ……本当にごめんなさい……呆れますよね……」
羞恥心が限界に達したのか、プルプルと震えながら目を伏せる心。
そんな心とは裏腹に、どんどん気持ちが昂ってくるのを感じる。
(だって──)
俯く顔を優しく持ち上げて、コツンと額を合わせる。
「どうして呆れるの?すごく嬉しいのに」
好きな子が俺のことを褒められて自分のことのように喜んでくれて。周りにダダ漏れなくらい好意をあらわにしてくれていた。
そんな話を聞いて、嬉しくないわけがないがないだろう。
「ありがとう、心。俺も、心が誰かに褒められたら、自分のことのように……ううん、それ以上に嬉しいよ」
「先生……」
そっと唇を寄せると、心は少しだけピクッと震え、恥ずかしそうに視線を彷徨わせたけれど、それでも最後には目を閉じて、俺を受け入れてくれた。
(あぁ、ほんと、可愛いなぁ……)
自分からキスをしてくれた積極的な心も、すごく魅力的だった。
けれど、今みたいにキスひとつで照れてしまう、恥ずかしがり屋な心のことも、やっぱり好きだ。
どんな心でも、その時の心なりに、想いを寄せてくれる。
そんなこの子が、たまらなく愛おしいのだと、そう再確認しながら、俺は幸せなひとときを堪能したのだった。
《酔っ払い心くん 完》
「はぁ……良かった、雅斗さん怒ってなくて……」
翌日。
いつもより遅い時間に目を覚ました心は、予想通り昨日のことを思い出して酷く取り乱したが、俺の勧めで雅斗さんに電話をしたことで、ようやく少し落ち着いたようだった。
スマホをヘッドボードに置いた心は、側で見守っていた俺のことを上目で見て、申し訳なさそうに眉を寄せた。
「先生もごめんなさい……迷惑、いっぱいかけて……」
顔が赤いのは、俺に会えて嬉しそうに抱きついてきたことや、戸塚くんの前で俺のことを大好きって言ったことを思い出しているからだろう。
俺はそんな心の体を抱き寄せて、一緒にベッドに寝転がった。
向き合いながら、そっと赤く染まった頬を撫でる。
「ううん。心の体調が大丈夫そうで、安心したよ」
「先生……」
ホッとした表情を浮かべた心は、控えめながらも、俺の手に擦り寄って気持ちよさそうに目を細めた。
(可愛い)
このままイチャイチャタイムの突入したいとも思ったが、俺は先にとある疑問について尋ねてみることにした。
「でもさ、心が一気飲みって珍しいよね?そんなに喉渇いてたの?」
心は基本的に、ちびちびとお淑やかに飲むイメージがある。
あの酔っ払いようを見るに、それなりの量を飲んでしまったのは疑いようがないけれど、心の一気飲みする姿なんて、なんだか想像ができなかった。
「そ、それは……その……」
言いにくそうにモゴモゴと口籠る心。
待っていれば言ってくれる雰囲気ではあったので、見守っていると、しばらくして心はおずおずと口を開いた。
「雅斗さんが……先生のことを、優しい人だねって褒めてくれたんです」
「雅斗さんが?」
「はい……それで、その……俺、嬉しくなっちゃって……によによしちゃったみたいで……」
「……」
(なんかこれはもう……うん)
きっと、ものすごく可愛い理由が明かされるんじゃなかろうか。
そんな予想は裏切られることなく、続きの言葉は紡がれる。
「そしたら、心くんは先生のこと……だ、大好きなんだねって……。も、もちろんっ、雅斗さんが言っているのはそういう意味じゃないって分かってはいたんですけどっ……でもっ……」
「……それで照れちゃって、一気に飲んじゃったんだ?」
「……っ……はい。近くにあったものを、中身を確認せずに飲んじゃって……」
そしてそれが、雅斗さんが飲んでいたお酒だったということか。
「うぅ……本当にごめんなさい……呆れますよね……」
羞恥心が限界に達したのか、プルプルと震えながら目を伏せる心。
そんな心とは裏腹に、どんどん気持ちが昂ってくるのを感じる。
(だって──)
俯く顔を優しく持ち上げて、コツンと額を合わせる。
「どうして呆れるの?すごく嬉しいのに」
好きな子が俺のことを褒められて自分のことのように喜んでくれて。周りにダダ漏れなくらい好意をあらわにしてくれていた。
そんな話を聞いて、嬉しくないわけがないがないだろう。
「ありがとう、心。俺も、心が誰かに褒められたら、自分のことのように……ううん、それ以上に嬉しいよ」
「先生……」
そっと唇を寄せると、心は少しだけピクッと震え、恥ずかしそうに視線を彷徨わせたけれど、それでも最後には目を閉じて、俺を受け入れてくれた。
(あぁ、ほんと、可愛いなぁ……)
自分からキスをしてくれた積極的な心も、すごく魅力的だった。
けれど、今みたいにキスひとつで照れてしまう、恥ずかしがり屋な心のことも、やっぱり好きだ。
どんな心でも、その時の心なりに、想いを寄せてくれる。
そんなこの子が、たまらなく愛おしいのだと、そう再確認しながら、俺は幸せなひとときを堪能したのだった。
《酔っ払い心くん 完》
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