先生、おねがい。

番外編 酔っ払い心くん①

※お酒は二十歳になってから。
※お酒は二十歳になってから。
※お酒は二十歳になってから。



＊＊＊

　土曜日の夜。

　いつもは二人で過ごしている時間だが、今日は心が戸塚兄弟と外食に行っており、俺は一人でソファに座って本を読みながら時間を潰していた。


　（心、今日も楽しんでるかなぁ）


　心が戸塚くんのお兄さんと会うのはまだ数回ほどだが、毎回とびっきりの明るい笑顔で帰ってくる。

　きっと、戸塚くんがもう寂しい思いをしないで済むと再確認するたびにホッとして嬉しくなって、その思いが表情や態度に出るのだろう。

　そういう優しい心を見るたびに、俺まで柔らかい気持ちになるし、あぁ良い子だなぁ、やっぱり好きだなぁと思う。


　（帰ってくるのは一時間後くらいかな）


　きっと今日も楽しい土産話を聞かせてくれるのだろうと、微笑ましく思っていると、突然インターホンが鳴った。


　（え？思ったより早いな……何かあったのか？）


　いつもは鍵で入ってくるのに、わざわざインターホンを鳴らしたのも妙で、不思議に思いながら玄関に向かった。


　「おかえり心、ずいぶん早かっ……」
　「ただいまぁ、です！ふふっ」


　ドアを開けると、ニコニコと満面の笑みを浮かべた心が、戸塚くんに支えられながら立っていた。


　「え、心？」
　「んふふっ。やっと先生と会えたっ」
　「おっと」


　上機嫌な様子でぎゅっと抱きついてきた心に困惑しながら視線を彷徨わせると、戸塚くんはバツが悪そうに首の裏に手を持っていった。


　「コイツ、自分のと間違って兄貴の酒を一気に飲んじまって」
　「わ、まじか」
　「色が似てたから……悪い」
　「いや、心が間違っちゃったなら仕方ないけど……」


　もちろん故意ではないのだろうし、戸塚くんが謝ることじゃない。しかし、初のお酒を一気に飲んでしまったというのは心配だ。


　「んふっ。いい匂い……」
　「しーん」


　俺の胸に頭を押しつけて、スンスンと匂いを吸い込んでいる心の顔を上げさせる。大きな瞳を覗き込むと、そこはいつもよりも熱を帯びており、どこか焦点が合ってないように感じた。


　「心、大丈夫？具合悪くなってない？」
　「はいっ」


　元気いっぱいの返事に、一旦ホッとする。

　しかし、数秒もしないうちに、心は急にポーッとし始めて、どういうわけか自分のTシャツの裾に手を持っていった。