先生、おねがい。

あん

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 「はぁ⁉︎『転がり込んだ』って言われたぁ⁉︎」

 簡単に夕食を済まし、お互いお風呂も済ましたあと、ソファで先生に向かい合って抱っこされながら今日あったことを包み隠さず伝えると、先生は珍しく大声をあげた。

 「チッ。戸塚君があんな良い子に育ったの奇跡だな、ほんと。ろくな人間じゃない」
 「せ、せんせ、戸塚君のお母さんをそんな風に……」
 「大事な子のこと、そんな風に馬鹿にされて黙ってられるか」

 (うぅっ)

 不機嫌そうに口を尖らせる先生に、胸がキュッと高鳴る。なかなかお目にかかれないレアな先生を見ることができて、不謹慎ながら俺は浮かれてしまった。
 それに、先生が戸塚君のお母さんについてとやかく言うのを止める権利は、俺にはない。だって、俺だって、戸塚君のことを悪く言われてカッとなっちゃったから。

 「はー、腹立つ」

 グリグリと首に頭を埋めてくる先生。サラサラな髪が当たってくすぐったいけど、それが苦にならないくらい胸のトキメキが止まらない。なんだか子どもっぽくて可愛いななんて思っていると、押し付けられていた頭が、急に止まった。

 「せんせ?」
 「……真に受けてない?」
 「え?」
 「戸塚君のお母さんの言葉」
 「う、受けてないですよ?」
 「ほんとに?」
 「……ほ、本当に、受けてな」
 「しーん?」
 「うぅ……受けかけました」

 あまりの先生の圧力に、俺は降参して正直に打ち明けた。やっぱり先生にはなんでもお見通しのようだ。

 「で、でもっ、もう大丈夫です」

 戸塚君が怒ってくれたから。だから、なんとか泣かないでいられた。

 (それに……)

 先生は俺のことをそんな風に思ってないって、ちゃんと分かってるから。

 (今日、改めて分かったこともあったし……)

 本当は俺、今日のことで先生が怒るんじゃないかってドキドキしてた。今日のことっていうのは、戸塚君と一緒に寝るって電話をしたこと。
 でも、先生は怒ってなかった。それどころか、あんな疑惑の出るような写真を見られていたというのに、先生は俺を疑うことも妬くこともなく、足りなかった俺の言葉を汲み取って、戸塚君の看病までしに来てくれた。

 (たまに松野君が貸してくれる少女マンガに出てくる子たちは、好きな人にヤキモチを妬かれるのが嬉しいってよく言ってたけど……)

 でも、俺は違った。妬かれない方が嬉しかった。

 (だって……)

 信用されてる。愛されてる。とても、すごく、それがよく分かるから。だから、すごくすごく嬉しかったの。
 俺はキュッと先生の首に腕を回して抱きついた。大丈夫って伝わるように。
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