先生、おねがい。

あん

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 「……親が来た」
 「親?戸塚くんの?」
 「なあセンセイ……望月だけだったんだ。俺のことを同じだって言ったのは」

 センセイの問いかけを無視して、俺は隣に眠る望月を見つめながら、脈絡もなく話を続けた。まるで、話してる最中に、よく話題がぶっ飛ぶ頭の悪い女のようだ。

 「コイツだけが……」

 望月の頬に触れる。静かに、愛しむように。まるで、恋人にするかのように。そんな権利、俺にありはしないのに。
 だけど、センセイはそれを咎めることはしなかった。

 「前も、今も、コイツは俺自身のことを見てくれる」

 過去のことを知らないセンセイには、意味が分からないだろう。けど、それでいい。望月と俺の出会いは、俺だけが知ってればいい。ただ──。

 「どうしようもなく愛しいんだ……コイツが」
 「……」

 これだけは、この人に言っておかなきゃならない。この想いだけは、譲れないから。
 好き、なんて言葉じゃ足りない。もっと、もっと上の感情が、いつだってこころの中に渦巻いてる。

 「コイツが欲しい。大事にしてえ。救われたぶん……いや、それ以上に守ってやりてえ。望月のこと想うと堪らねえんだよ、ほんと」
 「……っ、戸塚君」
 
 気づけば俺は、センセイに頭を抱えられていた。そこで俺はやっと、自分が泣いてることに気づいた。
 スーツが涙でぬれるっつうのに、気にせずセンセイは俺を強く抱きしめた。
 普段は飄々としてるくせに、こういう時は優しくなるセンセイにむかついて、俺はつい、この人を困らせたくなった。

 「センセイ……コイツのこと、くれねえ?」

 バカみてえだ。こんなのまるで、子どものワガママじゃねえか。

 「……ごめん。それは出来ない……ごめん」

 こんなダセぇワガママに付き合ってくれるセンセイは、やっぱり大人だって、嫌なほど思い知らされる。歳とか身長の問題じゃない。ただ単に、この人は大きいんだ。哀しいくらいに、懐が深いんだ。
 俺には届かない。俺は、センセイのようにはなれない。

 「……情けない声出してんじゃねえよ……んなことくらい分かってんだよ、アホ」

 俺は苦し紛れに、悪態をついた。

 (分かってるけど……)

 絶対に手に入らないって分かってるのに、それでも俺は、望月を愛おしく思うのをやめられない。
 俺はいつまでも、誰かに依存するガキのままだ。
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