279 / 329
52
しおりを挟む「……親が来た」
「親?戸塚くんの?」
「なあセンセイ……望月だけだったんだ。俺のことを同じだって言ったのは」
センセイの問いかけを無視して、俺は隣に眠る望月を見つめながら、脈絡もなく話を続けた。まるで、話してる最中に、よく話題がぶっ飛ぶ頭の悪い女のようだ。
「コイツだけが……」
望月の頬に触れる。静かに、愛しむように。まるで、恋人にするかのように。そんな権利、俺にありはしないのに。
だけど、センセイはそれを咎めることはしなかった。
「前も、今も、コイツは俺自身のことを見てくれる」
過去のことを知らないセンセイには、意味が分からないだろう。けど、それでいい。望月と俺の出会いは、俺だけが知ってればいい。ただ──。
「どうしようもなく愛しいんだ……コイツが」
「……」
これだけは、この人に言っておかなきゃならない。この想いだけは、譲れないから。
好き、なんて言葉じゃ足りない。もっと、もっと上の感情が、いつだってこころの中に渦巻いてる。
「コイツが欲しい。大事にしてえ。救われたぶん……いや、それ以上に守ってやりてえ。望月のこと想うと堪らねえんだよ、ほんと」
「……っ、戸塚君」
気づけば俺は、センセイに頭を抱えられていた。そこで俺はやっと、自分が泣いてることに気づいた。
スーツが涙でぬれるっつうのに、気にせずセンセイは俺を強く抱きしめた。
普段は飄々としてるくせに、こういう時は優しくなるセンセイにむかついて、俺はつい、この人を困らせたくなった。
「センセイ……コイツのこと、くれねえ?」
バカみてえだ。こんなのまるで、子どものワガママじゃねえか。
「……ごめん。それは出来ない……ごめん」
こんなダセぇワガママに付き合ってくれるセンセイは、やっぱり大人だって、嫌なほど思い知らされる。歳とか身長の問題じゃない。ただ単に、この人は大きいんだ。哀しいくらいに、懐が深いんだ。
俺には届かない。俺は、センセイのようにはなれない。
「……情けない声出してんじゃねえよ……んなことくらい分かってんだよ、アホ」
俺は苦し紛れに、悪態をついた。
(分かってるけど……)
絶対に手に入らないって分かってるのに、それでも俺は、望月を愛おしく思うのをやめられない。
俺はいつまでも、誰かに依存するガキのままだ。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
ガテンの処理事情
雄
BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。
ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる