先生、おねがい。

あん

文字の大きさ
上 下
275 / 329

48

しおりを挟む



 荒んだ心をなんとか隠しつつ、ひたすら親の言いなりになってた三年のある日。それは起こった。
 昼休み。クラスの男子の大半が校庭に遊びに行く中、俺はただただ机と向き合っていた。友だちなんか一人もいない。それは気楽なようで、やっぱりどこか寂しかった。

 (でも、勉強しないと……)

 また母さんに怒られる。この時の俺にとって、母さんに自分の存在を──価値を否定されるのが何よりも怖いことだった。

 「あーあ、まーた勉強してるよ、ガリ勉野郎」
 「……っ」

 突然、ガンッと机上に置かれたドッヂボール。今まで外で使われていたであろうそれは、グリグリと押し付けられて、計算式でいっぱいのノートを茶色く汚した。

 「良いよなぁ、医者の家は」
 「え……?」
 「生まれた時からなんの不自由もなく暮らしてさー、俺たちとは別世界の人間って感じ」
 「……なんで、そんなこと言うの」

 俺は、みんなと同じ人間なのに。変わったところなんかないのに。どうして線を引こうとする。

 「だってお前、遊びに誘ってもいっつも断わんじゃん。どうせ俺らのこと見下してるんだろ?」
 「そんなことっ……」
 「はーあ、世の中不公平だよなぁ。お前みたいな勉強しか脳のないやつが好い目見れてんだもん」
 「……」

 俺はぐちゃぐちゃになったノートを見つめながら、ふつふつとした怒りを感じていた。ど汚い真っ黒な感情。今までずっと心の奥に隠していた本心。

 お前に何が分かる。じゃああれか?お前は俺よりも不幸せなのか?日曜日に親子三人でスーパーに買い物行くような仲良し家族が、子どもを自己満足のための道具としてしか見ない上っ面だけの家族よりも不幸せだって言うのか?
 家に金があるって言っても、俺は勉強ばっかでゲームなんてさせてもらえない。漫画も買ってもらえない。友だちと遊ぶことも、テレビを見ることも許されない。他の家の子どもみたいなことを、何一つさせてもらえない。

 毎日勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強。

 どんなに勉強したって結果がでなければ叱られて、たとえ結果を出しもそれが当然だと思われているから褒められなんてしない。

 (もう嫌だ……)

 こんな生活、もう嫌だ。

 「ざけんな……」
 「あ?」
 「ふざけてんじゃねえよ!」

 その時、初めて人を殴った。今思えば、馬鹿なことをしたと思う。別にそこまでキレることでもなかったと思う。だけどその時は、ただただ自分の殻を破ったことが気持ち良くて仕方なかった。『親に認めてもらえる良い子』を卒業できたのが嬉しくて仕方なかった。
 なんだ、簡単じゃないか。気に入らないなら壊せば良い。気にくわないなら痛めつければ良い。俺は、俺で良い。
 そう、簡単だ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...