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「湊」
歯磨きを終えると、ちょうど洗面所に来た兄貴が小声で名前を呼んで、俺の手を取った。俺たちは両親にバレないように、静かに兄貴の部屋へ向かった。
「はーっ。うちの食事会は息がつまるな、ほんと」
ベッドに腰を下ろした兄貴が深くため息をつく。
「湊も、おいで」
その言葉につられて、俺も兄貴の横に腰を下ろした。
夜は兄貴と寝てた。お互い夜遅くまで勉強して、俺が分からないところは兄貴が教えてくれた。それなのに、俺は落ちた。
「兄ちゃん」
「ん?」
「おめでと」
せっかく忙しいなか教えてもらったのに落ちてごめん。なんて言えなくて。そんなこと言ったら、優しい兄貴のことだから、怒ってしまいそうで。だから俺は、素直に祝いの言葉を贈った。
「はは、どうした?改まって」
「……さっき、言えてないから」
「そっか。ありがとう、湊」
兄貴が俺の頭に手を乗せる。優しく、撫でてくれる。親が褒めてくれない代わりに、兄貴は俺のことを甘やかしてくれる。俺が唯一安心できるのは、兄貴の前でだけ。
だけど、春になればもうしてもらえなくなる。兄貴は大学進学に合わせて、一人暮らしを始めるから。
「湊」
「なに?」
「湊は勉強は嫌い?」
「……嫌いじゃない……けど、認められるように頑張るのはしんどい」
「そっか……お母さんとお父さんは、湊にも医者になってもらいたいみたいだけど、そんなの気にしなくていいよ。医院は俺が継ぐし、湊は湊のしたいことを見つけな」
「……うん」
本当は、兄貴と一緒に働けたら。そう思っていても自信がなくて、俺は本音を言うことは出来なかった。
「湊」
歯磨きを終えると、ちょうど洗面所に来た兄貴が小声で名前を呼んで、俺の手を取った。俺たちは両親にバレないように、静かに兄貴の部屋へ向かった。
「はーっ。うちの食事会は息がつまるな、ほんと」
ベッドに腰を下ろした兄貴が深くため息をつく。
「湊も、おいで」
その言葉につられて、俺も兄貴の横に腰を下ろした。
夜は兄貴と寝てた。お互い夜遅くまで勉強して、俺が分からないところは兄貴が教えてくれた。それなのに、俺は落ちた。
「兄ちゃん」
「ん?」
「おめでと」
せっかく忙しいなか教えてもらったのに落ちてごめん。なんて言えなくて。そんなこと言ったら、優しい兄貴のことだから、怒ってしまいそうで。だから俺は、素直に祝いの言葉を贈った。
「はは、どうした?改まって」
「……さっき、言えてないから」
「そっか。ありがとう、湊」
兄貴が俺の頭に手を乗せる。優しく、撫でてくれる。親が褒めてくれない代わりに、兄貴は俺のことを甘やかしてくれる。俺が唯一安心できるのは、兄貴の前でだけ。
だけど、春になればもうしてもらえなくなる。兄貴は大学進学に合わせて、一人暮らしを始めるから。
「湊」
「なに?」
「湊は勉強は嫌い?」
「……嫌いじゃない……けど、認められるように頑張るのはしんどい」
「そっか……お母さんとお父さんは、湊にも医者になってもらいたいみたいだけど、そんなの気にしなくていいよ。医院は俺が継ぐし、湊は湊のしたいことを見つけな」
「……うん」
本当は、兄貴と一緒に働けたら。そう思っていても自信がなくて、俺は本音を言うことは出来なかった。
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