先生、おねがい。

あん

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 「大丈夫……?」

 お母さんが帰った後、俺は冷凍庫から拝借した保冷剤をハンカチにくるんで戸塚君のほっぺに当てた。

 「戸塚、くん?」
 「……もう良いから、帰ってくんねえ?」

 俯いたままの戸塚君の表情は見えない。

 「巻き込んで悪かった。気をつけて帰れよ」
 「か、帰りたくない……」
 「……なんでだよ。いてもすることねえだろ」
 「で、でも、だって……戸塚君、お熱あるし……それに」

 さっきのことがあったから、なおさら帰りたくなかった。いま戸塚君を一人にするのは駄目だと思ったから。

 「帰れ」
 「や、やだ……」
 「帰れっつてんだろ!」
 「……っ!」

 (怖い……)

 戸塚君の怒鳴り声に萎縮してしまう。今までだって怒鳴られたことはあったけど、ここまで本気で拒絶されたことはない。

 「……やだ。戸塚君と一緒にいたい……」

 涙をこらえて言えば、肩をピクッとさせた戸塚君は「ほんっと、ムカつく……」と呟いた。

 「お前さ、どういうつもりでそういうこと言うわけ?」
 「え……?」
 「お前がそう言うこと言うたびに俺は……」
 「戸塚、くん?」

 戸塚君がゆっくりと顔を上げる。目が虚ろなのは、熱のせいなのか、さっきの一件のせいなのか。

 「いても良い」
 「えっ」
 「けど……いるなら、抱かせろ」
 「え……?」

 (抱か、せる?)

 「用もねえのに家に居座られても迷惑なんだよ」
 「……」

 戸塚君の表情からは、真意は読み取れない。けど、試してるんだって、すぐに分かった。俺は男の人が好きで、先生と付き合っているから、先生以外の男の人と寝るなんて、そんなの絶対にダメだ。それくらいは、俺だってわかる。

 「無理だろ。分かったらさっさと帰って……」

 (駄目だけど……でも)

 「分かった。寝るっ」
 「ならさっさと……は?」

 俺の答えに、戸塚君は面を食らった顔をした。
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