先生、おねがい。

あん

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 なんとか無事に家までたどり着いた。たどり着きはしたのだけど、戸塚君が鍵を鍵穴にさして回したところで、どういうわけか、その動きが止まった。

 「戸塚君?」
 「……お前、もう帰れ」
 「え?」

 あまりにも急な言葉に戸惑ってしまう。

 「どうして……」
 「いいから帰れって──」

 「湊」

 と、声が聞こえた瞬間、戸塚君の背筋が伸びた。いつも不機嫌そうな顔は酷く強張っている。
 無意識なのか戸塚君は後ずさった。するとドアがゆっくりと開き、さっきの声はドアの向こうから聞こえたものだったんだと分かる。
 ドアを開けたのは五十代くらいの綺麗な女の人。しかし、その麗しい顔に見惚れることはなかった。なぜなら、その人が鬼の形相で俺を睨みつけたからだ。俺は萎縮してしまって、思わず戸塚君の服の裾を掴む。

 「なに勝手に入ってんだよクソババア」

 戸塚君のとても低い声に物怖じもせず、その人は長いため息を吐いた。

 「呆れた……ますます情けない姿になって」

 多分、この人は戸塚君のお母さんなのだろう。つり目が戸塚君とよく似ている。そして、二人の様子から、親子仲が上手くいってないことはすぐに分かった。

 「話があるから早く入りなさい……貴方も」

 お母さんが俺の方を嫌々といった風に見る。汚いものでも見るかのような、そんな目。

 「え……」
 「貴方にも“大事”な話があるのよ」

 (大事な、はなし?)
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