先生、おねがい。

あん

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32-高谷広side

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 「あとは俺が片しておきますね」
 「そう?じゃあ、よろしくお願いしますねー」
 「はい。お疲れ様でした」

 同じ進路指導の先生が出て行ったのを確認して、グッと背もたれに体重をかける。頭を押さえて思うのは、もちろん心のこと。

 (あー……ほんと悪いことしたなぁ)

 心は今日のことをものすごく楽しみにしてくれていたのに、俺の都合で寂しい思いをさせてしまった。

 「早く終わらせて、帰ろ……」

 昼前に終わったのは不幸中の幸いだ。心は一人だと料理を作らない傾向にあるから、多分昼食は作ってないだろう。お詫びも兼ねて、帰り道で何か美味いものを買って行こう。
 何が良いかと尋ねるために、スマホを開くと、心からのメッセージが受信されていた。

 『友だちと遊園地に行ってきます。夕方までには帰ります。夕飯のリクエストがあったら教えてください』

 それを見て、ホッと肩をなでおろす。友だちと遊べることになったのなら、そこまで寂しい思いはしていないだろう。
 そりゃ、思ったより早く帰れることになった身としては、心と同じ時間を過ごしたいところだけど、今日こうなったのは、元々は自分の都合だったのだから、そこは諦めないと。
 新年度になってからというもの、心には本当に色々な我慢をさせてしまっているし、今日くらい夕飯は俺が作ろう。そして、心にはギリギリまで遊園地を楽しんできてもらって、夜は……まあ、心が疲れてなければ……うん。

 整理を終えて、進路室を出る。職員室に寄って荷物を持って、帰宅するべく階段を降りていくと、昇降口で女子生徒二人が立ち話をしていた。
 
 「えー……ヤバくない……」
 「いや、でもさ、あの子、女子より断然可愛いし、あり得なくはないよね……」
 「オドオドしてるようで、案外遊んでるのかもね……だって、相手──」
 「君たち、学校は携帯禁止だよ」

 会話に夢中になってる二人に後ろから声をかけると、二人は焦ったように振り返った。

 「っ!た、高谷先生!」
 「ご、ごめんなさい。すぐに仕舞うんで、没収は……」
 「うーん、まぁ、日曜だしね。今後は気をつけること」
 
 微笑むと、二人はホッとしたように肩を下げ、スマホをカバンにしまった。

 「先生、日曜も仕事なの?部活?」
 「いや、今日は野暮用だよ。君たちは講習かな?」
 「そうなんですよー……あーあ、講習さえなければ、私たちも遊園地行ってたのにー」
 「遊園地?」

 タイムリーなワードについ反応してしまう。二人は顔を見合わせて頷き合い、少しワクワクした顔で俺を見た。噂話をする女の子特有の顔。俺はこれがあまり好きではない。こういう時は、決まって良い話ではないからだ。

 「今さ、友だちが遊園地行ってて」
 「それで、写真が送られてきたんですけど……」
 「写真?」

 さっき注意したばかりなのに一人がスマホを取り出して、その画面を俺に見せてきた。その瞬間、俺は心臓が止まったかのような感覚に陥った。

 (は……?)

 思考が追いつかない。唖然とする俺に、女子生徒はさらなる追い討ちをかけてきた。

 「ビックリだよね。あの望月君が、人前で赤髪の男の人とキスしてるなんて」

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