先生、おねがい。

あん

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 どこかで聞いたことのある声が、山田君の言葉を遮った。声の方を見れば、金髪の男の人が赤髪の男の人の腕を引っ張って、ズンズンと歩いていた。

 「うるせえな。んな焦んなくても良いだろ」
 「駄目なんですー。今日中に全アトラクション制覇するんだから!」
 「はぁ、めんどくせえ……」
 「もー、今日はセックスの気分じゃないって言ったのとっつーでしょ!」
 「だからって、なんでこんな遊園地……、っ!」

 パチっと目が合ってしまった俺と戸塚君。戸塚君の視線を追った律さんも、自然と俺に気がついて、その瞬間パアッと表情を輝かせた。

 「あっれー?オドオドちゃんだー!ウサ耳かっわいー!」

 すぐさま俺の方に駆け寄ってくる律さん。羨ましいなんて言うのもおこがましいくらいに、相変わらず綺麗で美人さんだ。
 俺はまた会えたことが嬉しくて、これから胸に飛び込んでくるだろう律さんを迎えるために、心の準備をしていたのだけど……。

 「ちょっとぉ、どういう事ですかぁ?カ・レ・シ・さーん」

 俺と律さんの間に入る愛知君によって、俺たちの再会は阻まれた。その言葉は律さんの後ろの戸塚君に向けられる。
 一方、俺はというと、栗原君に横からギュッと抱きしめられていて、慰めるように頭を撫でられていた。

 「バイトとか嘘じゃん……望月君落ち込んじゃ駄目だよ。あいつが最低なだけだから」
 「ふぇ?」

 「セックスって、浮気確定じゃね」
 「修羅場……これは美味しい展開だねー」
 「おいおい松野、もっともっちーの心配してやれよ」
 「?え、あ、そうだねー。そうだったー。心配だー」
 「喜んでる顔にしか見えねぇ……」

 後ろでは松野君と内山君が何か会話をしていて、そして、残る山田君はと言うと……。

 「うあああああ!戸塚ぁあああああ!」
 「山田君⁉︎」

 大きな声を出しながら、戸塚君の方へ突進していった。俺はとっさに止めようとしたけど、グッと栗原君に引き寄せられて失敗に終わってしまう。
 あの夏祭りもこんな感じだったのだろうか。ただ一つ、あの時戸塚君に目隠しをされていた俺でも言えるのは、今回は戸塚君が山田君の拳を手で受け止めたと言うこと。頬ではなく手で、だ。それはそれは簡単に。いとも容易く。

 「あ?なんだてめえ」
 「戸塚の馬鹿!ばかばかばかばか!望月というものがありながら!」
 「はぁ?」
 「ばかばかばかばかばか!そんなんだったら望月は俺がもらっちゃうんだからな!」
 「それ以上意味分かんねえこと言ったらぶっ殺すぞアホ面」
 「とっ、戸塚様のおばかおばかおばかおばかおばか!」

 「あっ、山田の野郎ひよりやがった」
 「てか、やっぱりあの時は手加減されてたんだぁ。わざと殴られてくれたんじゃない?山田ダッサ」

 「うわあああ!」
 「マジなんなんだよお前……」

 戸塚君に手を捻られながら必死にもがく山田君と、そんな山田君に対して困惑の表情を浮かべる戸塚君。

 (ど、どうしよっ)

 多分、じゃなくて絶対に、この状況をどうにか出来るのは俺しかいない。でも、具体的にはどうやって?パニックになった俺には良い方法が思い浮かばなくて。必死にグルグルと頭を回していたところで、思わぬ救世主が口を開いた。

 「あー!分かった!」

 突然の理解宣言。その場の人間はみんなキョトンと目を瞬かせて、律さんの方を向いた。律さんはニコッと俺に笑いかけて、両手を胸の前で合わせてみせた。

 「ごっめーん、オドオドちゃん!俺、とっつーに先約いたの知らなくてさぁ、どうしても今日遊園地行きたいって強引に頼み込んじゃって」
 「ふぇ?」
 「んもー、とっつーも彼ピッピと約束あったなら早く言ってよね!」
 「は?」
 「てことで、二人でそこのベンチ座って仲直りしてきて!」

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