先生、おねがい。

あん

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 「んぅ……?」

 ゴソゴソと物音がして目を開くと、クローゼットの前でスーツジャケットを羽織っている先生の姿が。その様子は、寝ぼけ眼には眩しすぎるくらい輝いていて、つい布団を顔に引き寄せて物理的な壁を作ってしまう。

 (カッコいい……)

 朝から忙しなく、心臓がキュンキュンと疼く。直視できないくらいキラキラして眩しいけど、でもやっぱり好きな人のことは見ていたい。
 そんな思いで、視界から布団を退けると、パチリと目が合ってしまった。キョトンと瞬くその瞳で我に返った俺は、一瞬にしてボボッと顔を赤らめた。

 「あ、おはっ、おはようございますっ」
 「おはよ。どうした?かくれんぼ?」
 「あ、えと、そのっ……えとっ」

 (む、むりっ!言えないっ!)

 眩しすぎて見つめることが出来なかった。なんて、恥ずかしくて言えるわけがない。俺はどうにか他の話題を探さなければと、頭に中をグルグルさせながら視線を彷徨わせる。

 「あっ、えっ……スーツ、ですかっ?」

 あまりにもわざとらしい話の逸らし方。でも先生はそれを追求することなく、何故か決まりが悪そうに苦笑を漏らした。

 「ごめん。ちょっと学校から呼び出しくらっちゃって」
 「学校……お仕事ですか?」
 「うん。本当にごめんな。今日は一日一緒にいるって約束したのに」
 「い、いえ!お仕事なら仕方ないです。お休みなのにご苦労様です」

 せっかくのお休みの日に呼び出されちゃうなんて、身体を壊さないかと心配になるけれど、嫌だって気持ちは全然ない。寂しいのは確かだけど、先生の邪魔をするよりは自分が我慢する方が断然良いから。

 「あっ、朝ごはん!お弁当もいりますよねっ。すみませんっ、先生はお仕事なのに俺だけ寝てるなんて──っ!」

 慌ててベッドから出ようとしたら、先生がそれを阻むように、ベッドを軋ませながら抱きしめてきた。

 「せ、せんせ?」
 「はぁ……ほんと、良い嫁さん」
 「よめっ⁉︎」
 「気持ちは嬉しいけどさ、ゆっくりしてて。朝は適当に済ませたし、昼もそうするから」
 「は、はい……」

 俺は胸をドキドキと高鳴らせながら、軽く先生の背中を掴む。スーツがシワにならない程度に、キュッと。

 「身体、大丈夫?痛くない?」

 耳元でささやかれて、ドキッとする。今日はお休みだからって、昨日はたくさんイチャイチャした。そういうことをするのは久し振りだったから、先生はものすごく優しく扱ってくれて、痛いどころか、まだお腹の中に幸せの余韻が残ってる感じがする。

 「は、はい……痛く、ないです……」

 昨日のあれやこれやを思い出した俺は、なんだか恥ずかしくなって、蚊の鳴くような小さな声で大丈夫だという旨を伝えた。

 「はは。照れてる」

 コツンと合わさるおでこ。至近距離で見つめられてますます照れてしまった俺は、そっと目を伏せた。

 「だって……恥ずかしい、から」

 昨日の今日で平静でいられるわけがない。だって、自分の恥ずかしいところの隅から隅までを、大好きな先生に見られてしまっているわけだから。だから、幸せだけど、やっぱり照れちゃうの。

 「可愛い」
 「うぅ……」

 (好きっ)

 優しく微笑まれて胸が堪らなくなった俺は、ぎゅうっと抱きついた。先生も俺の背中にかける力を強めてくれる。良い匂い。大好きな香り。ずっとこうしていたいけど、わがままなんて言いたくない。
 俺たちはどちらともなく唇を寄せ、毎朝恒例のキスを交わした。

 「行ってらっしゃいです」
 「……ん。行ってきます」



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