先生、おねがい。

あん

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 「ただいまー」

 (帰ってきた……!)

 「お帰りなさいっ」

 俺は先生を出迎えるべく、パタパタと玄関へと駆ける。今日は色々あったし、少しでも早く会いたい、そんな気持ちでいっぱいだった。

 「……ん」

 カバンを両手で受けとって、つま先立ちをすれば、甘いキスが降りてくる。

 「んぅ……ん」

 会いたかった。触れたかった。一日中我慢してた欲求を満たすように、俺たちは何度も角度を変えて、存分に唇を重ね合わせた。

 「ふぁ……」

 数分して解放され、俺は息を整える。初めてキスをした日から毎日のようにしている行為なのに、まだまだ照れ臭さは抜けない。嬉しくて、恥ずかしくて、幸せで、やっぱり照れ臭くて。

 「ご飯にしますか?お風呂にしますか?」

 ドキドキする胸をカバンで隠すようにしつつ、上目遣いで尋ねると、先生は「んー」と考えて、ニコッと穏やかな笑顔を咲かせた。

 「着替えてから飯にしようかな」
 「はい、分かりました」

 頷けば、先生は俺の頭を撫でて、着替えをするために寝室へ入っていった。俺はその間に、夕食の準備を開始する。準備って言っても、すでにお皿に盛り付けたものをテーブルに並べるだけだけれど。
 せかせかと二人分のお食事を並べ終えたところで、寝室のドアが開いた。部屋着に着替えて出てきた先生は、テーブルを見るなり、困ったような顔で俺を見る。

 「今日も先食べなかったのか?遅いしお腹空くだろ?」

 時刻は午後九時半。夕食には遅い時間。お昼を食べたのは十二時半だし、もちろんお腹は空いているけれど、でも、先生がお仕事頑張ってるのに、一人で先に食べるなんてことは出来ない。俺の方がバイトで遅い時、先生は待っていてくれた。それに……。

 「一緒に食べたいから……」

 これが本音だった。出来るだけ、先生と一緒にご飯を食べたい。
 でも、こんな子どもっぽい理由は恥ずかしくて、俺は顔を隠すように俯いてしまう。
 
 (呆れられた……?)

 そう心配になったけど、それは杞憂に終わり、次の瞬間にはギュッと抱きしめられていた。

 「せ、せんせ……?」
 「……はー。癒される」

 (弱音……)

 癒されるってことは、癒されたい状態なわけで。普通だったらこれは弱音に入らないのかもしれないけど、滅多にネガティヴなことを言わない先生にとっては、弱音にカウントしてもいいと思う。
 大げさかもしれないけど、なんだか頼られてるみたいで嬉しくて、俺はおずおずと先生の頭に手を伸ばした。サラサラの髪の毛を指で梳いて、いつもしてもらってるみたいにナデナデと手を動かす。

 「心……?」
 「……俺に出来ることあれば、なんでも言ってくださいね」
 「心は居てくれるだけで良い……本当に」

 その言葉のギュッと胸が締め付けられる。
 本当に先生にとってそんな存在になれてるのだとしたら、俺はどんなに幸せ者なのだろうか。

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