先生、おねがい。

あん

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 「えっ、そんなことあるか?」
 「あるよぉ。『てめえ可愛い面してんじゃねえか』って」
 「な、ないよ⁉︎ないからね⁉︎」
 「お?照れてんのかー?」
 「だから、ちがっ」
 「まあまあまあまあ」

 (うぅ……みんな全然聞く耳持ってくれない……)

 自分のためにも戸塚君の名誉のためにも、絶対に誤解をとかなきゃいけないのに。俺の日頃の行いのせいで、たぶん何を言っても照れてるだけだと思われてしまうだろう。
 そんな自分が情けなくてしょんぼりしていると、今まで黙っていた栗原君が「んんー」と唸りながら、ぎゅうっと抱きしめてきた。

 「く、栗原君……?」
 「んー……あいつか……なんか複雑……」
 「ぷっ。栗原マジでもっちーの母ちゃんになりつつあるよな」
 「うるさいな。母ちゃん言うな内山」
 「ままぁ、抱っこぉ」
 「ぶりっ子やめなさい愛知」
 「えぇー、可愛くない?」
 「可愛いよ。あんた顔だけは可愛いからね。中身は悪魔のくせに」
 「うわぁ、栗原、生意気ぃ。ち◯こ握りつぶしてやろうか」

 (ちっ⁉︎)

 愛知君の可愛い顔からそんな言葉が出てくるなんて。顔を真っ赤に染めた俺とは裏腹に、栗原君は冷静な顔でため息を一つ吐く。

 「いやそういうとこだから……てか、そんなことよりも……」

 突然グイッと俺の身体を離した栗原君が、心配そうな目で俺を見た。

 「じゃあ、望月君が俺と仲良くしてるの嫌がってるんじゃないの?その……俺、あんな酷いこと言ったし……」

 気まずそうに口ごもる栗原君。

 「あっ、それは全然!この前もみんなの話したら、笑って頭撫でてくれたのっ」

 安心してもらえるように満面の笑みでそう言うと、栗原君はホッとしたように肩をなでおろした。

 「ちょっとこの子、今何気に惚気たぞ」
 「う、内山君っ⁉︎」

 (惚気てないよっ?)

 第一、本当に戸塚君とはそんな仲ではないのだから。惚気ようがないのだ。俺なんかと噂されちゃうなんて、戸塚君が不憫すぎる。怒ってる姿が目に見えるもん。このアホ望月って。

 「しかも、彼氏に俺たちの話してるんだってよ。なんか嬉しいなー」
 「はぁ……もっちー、可愛いすぎぃ」
 「ほんとね。どう育ったら、こんな天使になるんだか」

 ムニッと俺のほっぺをつまみながら、苦笑を浮かべる栗原君。そして、フッと遠い目をした。

 「てか、彼氏のこと悪く言われたのに、あいつ心広いな……不良のくせに」
 「ほんとにねー。俺だったら、栗原のこと顔の形変わるまで殴らないと気が済まなぁい」
 「愛知が言うとシャレにならないから!」
 「しっかし、あの時の栗原はほんと酷かったよなー」
 「うるさいな!反省してんだからぶり返さないでよ、内山のバカ!」

 栗原君が内山君の頭を叩く。

 (す、すごい音した……バァンって)

 「いってぇ!叩くことないだろー!」
 「うるさい!ばーか!」
 「く、栗原君っ、落ち着いてっ」

 そうこうしているうちに、飲み物を買いに行っていた山田君と松野君が戻ってきて、みんなに勘違いされたまま話が終わってしまったのだった。
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