234 / 329
6
しおりを挟む
***
「あああ望月ぃいいいい!」
新年度は山田君の泣き顔とともにスタートした。手を差し出してくる山田君を、俺は苦笑いで見つめるしかない。なぜなら、山田君の肩は愛知君と内山君にガッチリとホールドされてしまっているからだ。
「山田うるさい。さっさと教室行くよぉ」
「嫌だああああ!俺は望月と一緒がいい!」
「いい加減黙れチンカス。言うこと聞かねえと捻り潰すぞ」
「ちんっ⁉︎愛知いきなり豹変するのやめて⁉︎望月と離れ離れになった俺をもっと優しく慰めて⁉︎」
「まあまあ内山田として今年も楽しもうぜ~」
「そんなコンビ組んだ記憶ないし⁉︎」
(内山田……たしかに二人とも『山』が入ってる)
新たな発見に感心した俺とは裏腹に、山田君は急に顔を赤らめてモジモジと足をくねらせた。
「それに、コンビ組むなら望月と、めっ、夫婦漫才が良いかなーって」
(ま、漫才……?)
「俺、お笑いはちょっと……」
普通に人と話すのも精一杯なのだから、人前に立って笑いを誘うのは、流石にハードルが高すぎる。
(山田君は向いてると思うけど……)
本当に、山田君はお笑い芸人さんに向いているのではないだろうか。だって、山田君がいるだけでその場が明るくなる。キラキラで眩しくて。きっとそういうのを『才能』っていうんだと思う。
そうやって真剣に考えてたら、隣にいた栗原君に頭をコツンと突かれた。
「いや望月君。ただのアホの戯言だから」
「ざれごと……冗談ってこと?」
「そういうこと」
「まあ山田が芸人になったら、バラエティ共演した女優に惚れて勘違い炸裂してストーカー疑惑も出ちゃったりして、一瞬で芸能界から……いや、社会からも干されるだろうねー」
「松野君っ」
少し遅れて登校してきた松野君が、ひらひらと手を振って近づいてくる。そして「また一年よろしくね」って、いつもの眠たそうな目を細めて見せた。
そう。俺は松野君と栗原君と同じクラス。山田君、愛知君、内山君と離れちゃったのは寂しいけど、一人じゃないのは本当に良かった。
「松野ずるい!」
「はっはっはっ。これが日頃の行いさ」
「くそー!」
「てか山田だけじゃねえかんな?俺らだってもっちーと離れて悲しいっての」
「ほんとそれぇ。誰の差し金だよ」
「差し金⁉︎俺と望月の愛を引き裂く何者かの策略⁉︎」
「はい黙れぇ~」
「いだっ!いだだだだだっ!愛知!耳!引っ張んないで!」
山田君が愛知君と内山君に教室へと引きずられていくのを、寂しい気持ちで眺める。俺の高校生活は山田君あってのものだから、離れ離れになるのは、やっぱりちょっと不安だった。その気持ちが表情に出ていたのだろう。突然、ポンっと頭を撫でられた。
「大丈夫だよ。休み時間になったら、あいつらウザいくらいこっちの教室来ると思うよ」
そう言った栗原君が優しく微笑んでくれる。この数ヶ月で栗原君とは随分仲良くなれた。こうやって普通に話せるのが本当に嬉しい。
「栗原君……うん、そうだね。俺も行くっ」
そう意気込めば、栗原君は「そうだね」って頷いてくれた。
(だけど……)
「山田なんかよりも、高谷先生が担任じゃなくなったことの方が重大だけどねー」
「あああ望月ぃいいいい!」
新年度は山田君の泣き顔とともにスタートした。手を差し出してくる山田君を、俺は苦笑いで見つめるしかない。なぜなら、山田君の肩は愛知君と内山君にガッチリとホールドされてしまっているからだ。
「山田うるさい。さっさと教室行くよぉ」
「嫌だああああ!俺は望月と一緒がいい!」
「いい加減黙れチンカス。言うこと聞かねえと捻り潰すぞ」
「ちんっ⁉︎愛知いきなり豹変するのやめて⁉︎望月と離れ離れになった俺をもっと優しく慰めて⁉︎」
「まあまあ内山田として今年も楽しもうぜ~」
「そんなコンビ組んだ記憶ないし⁉︎」
(内山田……たしかに二人とも『山』が入ってる)
新たな発見に感心した俺とは裏腹に、山田君は急に顔を赤らめてモジモジと足をくねらせた。
「それに、コンビ組むなら望月と、めっ、夫婦漫才が良いかなーって」
(ま、漫才……?)
「俺、お笑いはちょっと……」
普通に人と話すのも精一杯なのだから、人前に立って笑いを誘うのは、流石にハードルが高すぎる。
(山田君は向いてると思うけど……)
本当に、山田君はお笑い芸人さんに向いているのではないだろうか。だって、山田君がいるだけでその場が明るくなる。キラキラで眩しくて。きっとそういうのを『才能』っていうんだと思う。
そうやって真剣に考えてたら、隣にいた栗原君に頭をコツンと突かれた。
「いや望月君。ただのアホの戯言だから」
「ざれごと……冗談ってこと?」
「そういうこと」
「まあ山田が芸人になったら、バラエティ共演した女優に惚れて勘違い炸裂してストーカー疑惑も出ちゃったりして、一瞬で芸能界から……いや、社会からも干されるだろうねー」
「松野君っ」
少し遅れて登校してきた松野君が、ひらひらと手を振って近づいてくる。そして「また一年よろしくね」って、いつもの眠たそうな目を細めて見せた。
そう。俺は松野君と栗原君と同じクラス。山田君、愛知君、内山君と離れちゃったのは寂しいけど、一人じゃないのは本当に良かった。
「松野ずるい!」
「はっはっはっ。これが日頃の行いさ」
「くそー!」
「てか山田だけじゃねえかんな?俺らだってもっちーと離れて悲しいっての」
「ほんとそれぇ。誰の差し金だよ」
「差し金⁉︎俺と望月の愛を引き裂く何者かの策略⁉︎」
「はい黙れぇ~」
「いだっ!いだだだだだっ!愛知!耳!引っ張んないで!」
山田君が愛知君と内山君に教室へと引きずられていくのを、寂しい気持ちで眺める。俺の高校生活は山田君あってのものだから、離れ離れになるのは、やっぱりちょっと不安だった。その気持ちが表情に出ていたのだろう。突然、ポンっと頭を撫でられた。
「大丈夫だよ。休み時間になったら、あいつらウザいくらいこっちの教室来ると思うよ」
そう言った栗原君が優しく微笑んでくれる。この数ヶ月で栗原君とは随分仲良くなれた。こうやって普通に話せるのが本当に嬉しい。
「栗原君……うん、そうだね。俺も行くっ」
そう意気込めば、栗原君は「そうだね」って頷いてくれた。
(だけど……)
「山田なんかよりも、高谷先生が担任じゃなくなったことの方が重大だけどねー」
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる