先生、おねがい。

あん

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番外編 センセイの本気①

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 「てめえ何ぶつかってんきてんだよ!」
 「よそ見してんじゃねえぞゴラァ!」
 「す、すみませんっ!」
 「謝って済む問題じゃねえだろうが!肩骨折してたらどうすんのー?治療費払ってくれんの?あ?」
 「そ、そんなっ」

 (……)

 ため息が出るような、あまりにもベタなシュチュエーション。
 たまたま近くのドラッグストアに買い物に行った帰り、車道を挟んだ向かい側の歩道でそれを目撃してしまった俺は、迷うことなく、すぐそこの信号へ向かう。
 赤信号でも緊急事態。車が走ってなければ無視もしたが、残念なことに、こんなときに限って交通量は絶えない。

 (ここの信号長いんだよな……)

 その間にも、中学生くらいの男の子は、チャラチャラした男たちに囲まれて怯えきっていた。このままあの子が金を巻き上げられるのは、時間の問題だろう。

 (三人で寄ってたかってとか……一人でいけるか?)

 まあ、いけなくても行かなくてはならない。俺は一応教師であり、子どもを守る立場にある人間。それは、他校の生徒だろうが関係ない。

 (あー、早く変われよ)

 焦りから、手に提げたレジ袋を強く握り締める。やっと信号が青に変わって駆け寄ろうとすると、それよりも早く、思わぬ救世主がそこに現れた。

 「そこ、邪魔なんだけど」

 冷たい風に揺れる赤髪。黒いダウンジャケットのポケットに両手を突っ込んだ不機嫌そうな姿は、つい先日、心をバイト先に迎えに行ったときに見たのと全く同じものだった。

 (戸塚君⁉︎)

 先を越され行き場を失った俺は、その場に立ち尽くす。
 戸塚君に逃げるように顎で促された中学生は、一瞬ためらったものの、ペコッと頭を下げて、俺とは逆の方向へ走り出した。男の一人が慌てて腕を掴もうとするも、戸塚君がすかさず間に入ったことで、それは阻まれる。

 「チッ」
 「あーあ、逃げられた」
 「てめえ、なに勝手なことしてくれちゃってんの?」

 そんなことをすれば、次の標的になるのは当たり前で。しかし、三人に囲まれた戸塚君は顔色一つ変えることなく、首をダルそうに捻って、鋭い目つきで男たちを睨みつけた。

 「なにもクソもねえよ。邪魔だから邪魔っつっただけだろ」
 「俺たちはねー、あいつがぶつかってきたから、責任取ってもらおうと思ってたんだけど?」
 「は?責任?あんなヒョロイのにぶつかられたくれえでグダグダ言うなんて、なっさけねえ奴」
 「ああ⁉︎」

 (……っ)

 戸塚君が胸ぐらを掴まれたところで我に帰った俺は、ジャラジャラと趣味の悪いアクセサリーを付けた腕を掴んで、二人の間に割って入った。

 「はいはい君らそれくらいにして」
 「は……?」

 戸塚君の驚いた声が背後から聞こえる。俺は一旦それを無視して、前の三人にニコリと笑いかけた。

 「ああ?なんだおっさん」

 一人が威圧的に距離を詰めてくる。

 「おっさんってね……」

 (言っても、五歳くらいしか変わんないだろ……)

 「まぁ良いけど……あのね君たち、こんな一人に三人で寄ってたかるなんて情けないことはやめなさい」
 「ああ⁉︎センコーみてえなこと言ってんじゃねえぞおっさん!」

 (おー当たり)

 心の中で男に拍手を送る。
 まあ、色々面倒だからバラすつもりはないけど。

 「おいっ、あんた何で……」

 後ろで戸塚君が服を引っ張ってくるので振り向けば、戸塚君は何か焦ったような顔をしていた。
 まあ大方、戸塚君には俺が負け戦に首を突っ込む無謀な人間に見えているのだろう。それは分かっていたけど、俺はとぼけたように首を傾げてみせた。

 「なに?」
 「何じゃねえよ。あんた関係ねえだろ。これは俺が……」
 「君も関係なかったろ」
 「っ!けど、あんたっ」
 「良いから。絶対に君は手出すなよ」
 「はぁ?って、おい……」

 瞬間、ガシッと肩を拘束された。

 「よそ見してんじゃねえ、よっ!」

 (うわ)

 見上げた先には、固く握った拳。それは俺の頭をめがけ、勢いよく振り下ろされた。

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