先生、おねがい。

あん

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番外編 オトモダチ

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 高校生になったばかりの戸塚と、セフレ・律の出会いの話。(律side)






 (もう最悪……!)


 今夜の相手を探してぶらぶら歩いてたら、二、三回寝たことのあるおにーさんに声をかけられた。話を聞けば、三組で見せ合いっこしようとのこと。人のセックスを見るのも自分のを見せるのも初めてだったけど、まあたまには刺激的なのも良いかな~って思ってついてきた。


 (それなのに!)


 「だーかーらぁ!俺一人で五人相手するのは無理だって!」


 俺はホテルのベッドに押し倒されながら、必死に抵抗する。大した眼力のない目で睨み付けると、おにーさんは苛立たしげに俺の腕を握る手に力を込めた。


 「ああ?ビッチのくせに何言ってんだ」

 「話がちーがーうー!」


 まさかの集められた人間は、俺以外全員タチ専。ダルそうに壁に寄りかかってる赤髪の子は初めて見る顔だけど、雰囲気からするにタチっぽい。いや、バリタチだよあれは。超カッコいいし、こんな状況じゃなきゃ絶対抱かれたいもん。


 「チッ。うるせえな。どうせ善がるんだから、喚くんじゃねえよ」

 「そうだよー。俺ら知らない仲じゃないんだし。気持ちよくしてあげっからさぁ」

 「や、やだっ!」


 (してあげるって、上から目線かよ!)


 こんなふしだらな生活をしている俺だけど、セックスならなんでも良いってわけじゃない。痛いのは嫌だし、苦しいのも嫌だ。気持ち良いから、満たされて安心するから、セックスが好きなだけなのに。


 「離して!」

 「……っ。いってえな!」

 「……!」


 なんとか足蹴りを食らわせたものの、逆上したおにーさんに頬を叩かれる。平手じゃないよ。グーだよ。痛いったらありゃしない。目には涙が滲み、でも泣きたくないからキッとおにーさんたちを睨みつける。


 (こんなことなら、むきむきになったら困るーとか言ってないで、鍛えとけば良かった……)


 そしたらこんな常識はずれの奴ら、コテンパンにしてやれたのに。


 「なんだぁ、その生意気な目」

 「まあまあ、こーいうのも良いじゃん?」

 「うえっ、お前そーいう趣味?」


 (キモ……EDになっちゃえ!)


 これ以上暴力振るわれても嫌だし、くだらない呪いをかけつつ、もう諦めようと身体の力を抜きかけたとき。


 「がっ」


 俺の手を押さえてたおにーさんが、顔面からベッドに突っ伏した。おにーさんの頭部を掴んでいるのは、大きくて頼もしい手。


 「え……」


 見上げると、さっきまで壁にもたれかかっていた赤髪君がいた。呆気にとられる俺に向かって意味ありげな視線を送ってきた赤髪君が、おにーさんをベッドから乱暴に落とし、残る三人の方へ振り返る。


 「おい!何してんだぁ!」

 「悪いけど、こういうの趣味じゃねえんだわ」

 「ああ⁉︎てめえタダで済むと思うなよ!」

 「マジムカつく……掘られてから泣いたって遅いからな!」


 そう言った一人が赤髪君に摑みかかる。


 「っ!」


 思わず目を瞑り、部屋に鈍い音が数回響いた。


 (痛そー……)


 恐る恐る目を開けた時の光景は予想に反して、赤髪君がおにーさんの背中を踏んづけていた。


 「弱すぎだろ……あんたらこんなんで強姦しようとしてたわけ?」


 はぁ、とため息を漏らした赤髪君が、スマホをプラプラと見せつけるように揺らす。そこには録音の画面が映っていた。


 「あんまりしつけえと、警察のやっかいになるけど?」

 「ああ⁉︎そんなことしたらお前だって……」

 「俺は別に困らないけど?悪いオトナたちに淫行されたって言えば良いだけだし」

 「……チッ。ガキだからって調子乗りやがって」

 「うるせえな。分ったらさっさと出てけよ。金はこっちで払うから」

 「あたりめえだろうが!二度と面見せんじゃねえぞ!」


 ぽかーんと見ていたら、床で倒れてたおにーさんを支えつつ、四人が部屋から出て行った。部屋に鍵をかけた赤髪君は、無言のまま備え付けの冷凍庫を漁り、取り出した氷を俺の方に投げてきた。


 「わわっ」

 「冷やしとけ」

 「あ、ありがと……」


 (えぇ……ちょー優しいんだけど)


 俺は頬の氷を当てながら、ソファに腰を下ろした赤髪君を見つめる。


 「君も、俺のこと犯しに来たんじゃないの?」

 「はぁ?んなわけねえだろ」

 「えー、でも、来たってことはそういうことじゃん」

 「ちげえって言ってんだろ。数合わせに連れてこられたんだよ」

 「ふーん。あんな暴れるくせに、素直についてきたんだ?」

 「……チッ」


 不機嫌そうに顔をそらす赤髪君。その行動は肯定を意味していた。


 (えーこれ、つまりあれじゃん。最初から助けるために来たってことじゃん。そしてさっきの意味深な視線は「怪我させて悪い」って感じ?)


 「ふはっ」


 思わず漏らしてしまった笑い声。赤髪君は、そんな俺のことをギロリと睨みつける。


 「なに笑ってんだよ」

 「いやいや~、お人好しすぎっしょ赤髪君。あははっ」

 「あ?今からあいつらに突き返してもいいんだぞ」

 「うげっ。それはマジ勘弁して」


 俺は笑いすぎで目に浮かんだ涙を指でぬぐいながら、赤髪君が座るソファの方へ寄っていく。そして横にポスっと腰を下ろした。


 「君名前は?大学行ってる?」

 「はぁ?大学生に見えんのかよ」

 「え、うーん……俺よりは年上っしょ?」

 「高校生」

 「えっ、マジ?高三?」

 「……はぁ。高一」

 「えー!マジか!超大人っぽいね⁉︎」

 「普通だと思うけど」

 「いやいやいや、つーか高一の割に強すぎっしょ」

 「別に」

 「えー」


 (そっけないなぁ)


 俺はグイグイと身体を寄せながら、何気なく赤髪君の股間に手を伸ばした。


 (おおう、立派なモノをお持ちで)


 通常時でこれだったら、大きくなったら絶対ヤバいやつじゃん。そんな期待をしながらモミモミしていたら、頭のチョップが落ちてきた。さっきおにーさんに乱暴してたときより、何倍も加減してくれるのが分かって、不覚にも胸がドキッとしてしまう。


 「おい、何やってる」

 「え?エッチしないの?」

 「はあ⁉︎この状況ですると思ってんの?」

 「えっへへ。まあまあまあまあ」


 身体を引こうとする赤髪君をすかさず押し倒す。もらった氷を放り、上にまたがって服を脱ぎ始めた俺に、赤髪君の信じられないとでも言いたげな目が向けられた。


 「おいっ!さっきので怖くなったとかねえのかよ!」

 「んー?別にー。だって俺、セックス大好きだもん」


 癪だけど、さっきのおにーさんたちの言う通り、俺はビッチなんだと思う。気持ち良いことが大好きな、よく啼く子猫ちゃん。ネコだけにね。


 「それに、今日のお礼しなきゃだし」


 そんな理由付けをしてるけど、本当はただセックスがしたいだけ。だってイケメンだよ?その上、性格までカッコいいんだよ?


 (こんな上物逃すわけないっしょ)


 ま、これが本心ってわけ。


 「ね?しよ?」

 「……」

 「サービスするからさっ。あっ、俺、痛いのは嫌だけど、苦しいのはまあまあいけるよ!」

 「はぁ、アホか。……サービスとかいいから、普通にしろ」

 「……っ!ふふっ。りょーかい!」


 諦めたように身体の力を抜いた赤髪君。俺は嬉々としながら赤髪君のベルトに手をかけ、再び口を開いた。


 「名前は?」

 「は?」

 「おーなーまーえ。俺、セックスする相手の名前分かんないとか嫌だもん」

 「……勝手にその気になったくせに、どんだけ自分勝手だよお前」

 「いいじゃーん。教えてよ」

 「……戸塚」

 「戸塚?ふうん……じゃあ、とっつーね!」

 「何そのクソだせえあだ名」

 「はは!良いの良いの!あっ、ちなみに俺は律だよ」

 「……名字」

 「名字はありませーん」

 「はあ⁉︎んなわけ……」


 いつのまにかあらわになった、まあ取り出したのは俺なんだけど、とにかく、まだ柔らかいとっつーのモノをパクッと口に咥える。


 「おい!」

 「んぅ……ん、おっきぃ……」


 微笑みながらチラッと顔を見ると、とっつーは悔しそうに押し黙った。たぶん、名字を言わないのが気に入らないんだろう。


 (本当は教えてもいいけど……)


 けど、なんだかこの人には名前で呼んで欲しいなって、そう思った。なんでか分かんないけどさ、そう思っちゃったんだ。

 
 (てか、やっぱおっきい……)


 咥えきれないぶんを手で扱きながら、舌を動かす。わざとジュブジュブと厭らしい音をたてながら、何度も何度も頭を上下させれば、徐々に中のモノが硬くなって、先っぽから我慢汁が垂れてくる。

 
 (はぁ……美味しい……むらむらするし)


 なんか、なんだろ。フェラで気持ち良くなれるなんて、初めてのことだった。それが、不思議でたまらない。


 「……はっ」

 「ん……んっ……」

 「んな、音、たてんじゃねえ……」


 (ん?)


 なんか、ちょっと初々しい反応。まあ、割と素直にやらせてくれたのを見るに、セックスの経験はあるんだろうけど……。


 「ん……ぷはっ」


 俺はとある懸念を持って、モノから口を離した。


 「あの、さ」

 「……なに」

 「もしかして、フェラされるの初めて?」

 「っ⁉︎うるせっ……」


 (あ、図星)


 ちょっと顔を赤くして、不機嫌そうに眉を寄せるとっつー。それはしっかりと肯定を意味していた。


 (へぇ、可愛いとこもあんじゃん)


 そんなとこ見せられたら、ますます気になっちゃうじゃんか。


 「まぁ、出せれば良いって子もいるけどさぁ、雰囲気づくりも大事だよー。それにさ、そっちの方がテンションあがんない?」


 俺は胸がウキウキするのを感じながら、竿を舐め上げた。


 「知らね……ん……」

 「そう?」

 「つーか、どうでもいい……ヤレれば、なんでも」

 「れきろーらなぁ(てきとーだなぁ)」

 「うっせ……んなとこで、しゃべんな」


 再び咥えると、とっつーが切なそうに顔を歪める。俺はその顔を上目遣いで見ながら、舌をカリ首に這わせた。すると、ピクンと中のモノが震える。

 夢中で舐めながら、ふとある疑問が頭をよぎった。


 (ヤレればなんでも、なんて……好きな子いないのかな)


 こんなイケメンが相手にされないわけないから、相手はノンケか恋人持ちで、叶わぬ恋をしているとか?


 (それとも家族がらみ……?)


 ついこの間まで中学生だった男の子が、こんな時間にフラフラ出歩いて、会って数十分の男に咥えられてる。自分でしておいてこう言うのも何だが、これは普通なら考えられない状況。もしかしたら、自分を大事にしてくれる人がいない、寂しい子なのかも。

 それらは誰にでもありうることだし、俺たち同性愛者にとって珍しい話じゃないけど、もしその寂しさを、こうやって身体で埋めようとしているのなら。


 それはきっと、酷く虚しいに違いない。



 「──」


 (なんか……何か、してあげたい)


 ガラにもなく、そんなことを思う。


 「──せ」


 この子の為に、何か。何かできたらって。

 少しでも力になれたらって。


 「おい!」

 「⁉︎」


 突然の大声に覚醒した瞬間、口内に青臭い苦味が広がった。


 「んっ、げほっ」

 「アホ!だから、口離せって言っただろ!」


 むせかえって背中を摩られながら、俺はさっきまでの自分に驚愕してた。


 (俺……なんであんなこと……)


 俺はただ、気持ち良くなれればそれで良いのに。他人がどうなろうと知ったこっちゃないし、ぶっちゃけそんなことどうでも良いのに、どうしてあんなこと思ったの。


 (あ……)


 「おい、大丈夫かよ?」


 心配そうな顔が覗き込んでくる。その顔に胸が疼いて、嫌でも理解した。


 (俺……落ちちゃったのか)


 ストン、と腑に落ちて、俺はつい笑みを漏らしてしまう。だって、こんな感情いつぶりだろうか。

 誰にも本気になれない。いつもフラフラしてばっか。そんな俺が、こんなに胸をときめかせてる。


 「ねえ、とっつー」

 「なんだよ。つーか、さっさとうがい……」

 「俺たちさ、オトモダチになろっか」

 「……は?」


 面をくらった表情のとっつーの頬に手を当てて、唇を重ねた。


 「⁉︎」


 (驚いた顔もかーわいー……)


 振り向いてくれなくて良いよ。

 でもさ、君が俺の心を動かしたんだから、責任取ってちょっとくらいお節介させてよ。


 (おにーさんが、心の拠り所になってあげる)


 そうすればきっと、君は寂しくないでしょ?



オトモダチ 《終》
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