先生、おねがい。

あん

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 「ふぇっ?ふ、二人とも……?」


 びっくりしてワタワタしていると、二人はさらにギュウッと腕に力を込めた。


 「あー!望月ほんと可愛い!可愛い可愛い可愛い!こんなんで喜んでくれんなら、毎日でも祝うし!」

 「本当だよぉ。もっちーは天使かなんかなの?今まで独り占めしてた山田が恨めしい。呪ってやろうか」

 「愛知、真顔怖い!」


 そうやってじゃれている二人を微笑ましく思っていると、スッと目の前に何かが差し出された。


 「ん」

 「え……」


 ずっと無言だった栗原君が差し出した、紙の塊を受け取る。よく見るとそれは、俺がよく行くスーパーの割引券だった。


 「これって……」

 「誕生日プレゼントに決まってるでしょ」

 「えっ!いいの!?」

 「良いから渡してんの」

 「そっ、そうだよね……ありがとうっ、栗原君」

 「……ふん」


 目を見てお礼を言うと、そっぽを向いてしまった栗原君だけど、ちょっと顔が赤いから照れてるんだって分かる。栗原君は口調はキツイけど、本当は照れ屋さんなだけ。


 (えへへ……嬉しい)


 実は栗原君も、仕事で帰りが遅いお母さんの代わりに家事をするようで、そういう話をしているうちに徐々に仲良くなれた。

 節約の仕方を教えてくれたり、美味しい野菜の見分け方を教えてくれたり、たくさんお世話になってる。先生は絶対にお金を受け取ってくれないから、こういうところで協力できるのは本当にありがたい。


 「あらやだ。あの子、完全に主婦の顔になってますわよー」

 「可愛いわねぇ。けど、これじゃあ、私たちのプレゼントのハードルが上がりますわよぉ」
 

 ぽわぽわしながらスーパ内の風景を思い描いていると、山内君と愛知君が面白い奥さん風トークをして、俺の前にそれぞれ袋を差し出してくる。


 「えっ、二人からも?」

 「当たり前だろー。俺は無難に菓子」

 「わぁ、ありがとうっ」

 「俺は、リップバームだよ」

 「りっぷばーむ?」


 首を傾げると、愛知君は俺に差し出した袋を自分で開けて中身を取り出した。そして、蓋をパカっと開けて、中身をお姉さん指ですくい取る。


 「はい、口閉じて」

 「う、うん……」


 言われた通りに口を閉めると、相原君の指が唇に触れた。そしてそのまま、ねっとりとしたものが唇に塗り込まれていく。


 「別にカサカサだとは言わないけどさぁ、この後、かれ……恋人と会うんだから、綺麗にしておいた方が良いよぉ」


 (!?)


 愛知君の言葉に、思わず目を見張ってしまう。なぜなら、俺は恋人の有無はおろか、今日この後の予定さえも、愛知君に伝えていなかったから。

 そんな俺に、愛知君はニマッと笑った。


 「分かるよぉ。だってさー、ここんところずっとそわそわしてた割に、俺たちのサプライズにはきょとんとしてたんだから」


 塗り終わった愛知君が、指を取り出したティッシュで拭き取る。そして、鏡を差し出され、自分の唇を見せられた。


 (プルってしてる……)


 「ほら、テンション上がるでしょ?」


 確かに、綺麗になれたかも?なんて、ちょっとだけ自惚れちゃう。


 「……ありがとう、愛知君」


 ほっぺを緩ませる俺の頭をポンポンと撫でた愛知君が、「ふふ」と笑みを漏らした。


 「で、もっちーの恋人事情を考慮して、こうしてどこに遊びに行くわけでもなく、ちゃっちゃっとお祝いしてあげてんだからね?」

 「ふぇっ!?そ、そうだったの……?」

 「そうだぞー。本当はどっか店で盛大にやりたかったのにな!」


 と、笑う内山君。


 「まあ、俺は早く帰らなきゃだし、こっちの方が楽で良いけど」


 と、妹さんの迎えがある栗原君が言う。


 「うぅ……」


 (なんか、恥ずかしぃ……)


 だって、必死に平静を保っていたつもりだったのに、そわそわしてたのがバレてたのだから。俺はこの後……かなり楽しみなことが待っている。それと同時に、かなり恥ずかしいことでもあるけれど。

 ほっぺに手を当てて、熱を冷ましていると、今まで黙っていた松野君が声を上げた。


 「ねー、栗原ー」

 「なに」

 「山田が死んだー」


 その言葉に視線を向ければ、床の上に山田君が仰向けで倒れていた。


 「や、山田君!?」


 目は少し白眼になっていて、ちょっとだけ怖い。


 「知らないよ。ほっとけば」

 「山田なんかどうでもいいから、早くケーキ食べようよぉ」

 「望月に苺全部やろうぜ!」

 「え、それ逆に迷惑じゃない?」

 「そうか?」


 心配してるのは俺だけで、他の皆はしれっとケーキを取り分けてる。


 「望月に、こい、びと……?うあ……うあああああああああ!」


 そうして、教室内は山田君の絶叫に包まれたのだった。
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