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しおりを挟む「生まれてきてくれてありがとう、心」
「……っ」
先生の言葉に涙が溢れる。嬉しくて嬉しくて、言葉では言い表せないほどに、胸がぎゅうって苦しくなった。そんな俺の頭を、先生が優しく撫でる。いつだって俺を落ち着かせてくれる、大きくて綺麗な手。
「泣いちゃうの?」
「だって……初めて、言われたっ……からっ」
今まで邪魔にされたことはあっても、そんなことを言われたことはなかった。
自分はいらない子だって。何度も生まれて来なきゃ良かったって思った。人には決して言えないけれど、死んでしまいたいと思ったこともあった。
それなのに……ずっとひとりだったのに、今は俺がこの世に生を受けたことを、喜んでくれる人がいる。そして、その人が俺の大好きな先生だということがすごく幸せで、涙が溢れて止まらない。
「ふっ、う……うぅ……」
前のような悲しい涙じゃない。これは嬉し涙。こんな幸せな涙を流せるようになったのは、全部ぜんぶ先生のおかげ。
『先生、おねがい。俺をひとりにしないで……』
そんな俺のわがままから始まった、先生との生活。最初は戸惑うこともあったけれど、先生と暮らしてから、俺はたくさんのことを知った。
誰かと囲む食卓は、一人のときより何倍も美味しくなるということ。朝起きるのが楽しみになって、夜寝るのがちょっぴり惜しいという感覚。行ってきます、お帰りなさい、そんなちょっとした挨拶の大切さ。たくさん笑って支え合える、友だちの尊さ。
先生がいなかったら、決して知ることはなかった。先生がいたから、知ることが出来た。
先生はいつだって優しく接してくれて。親からの愛情を知らなかった俺の『家族』になってくれた。家族として、恋人として、愛情をいっぱいいっぱい与えてくれた。
(先生が……広君がいたから、俺は変われたの)
どうか。どうか、離さないで。これからも、ずっとそばに居て。
そんな願いを込めて、大きな背中に手を回す。
「広君……おねがい……」
「ん……?」
「ずっと……ずっと、一緒にいてね……」
「当たり前だろ……愛してるよ、心」
その言葉に、俺はまた涙を流す。
(あぁ……)
誰かと生きる、ってこんなにも素晴らしいことなんだ。
そう噛み締めて、膨らむ想いを声に乗せる。
「……俺も……好き。大好き……」
ずっと、ずっと寄り添っていたい。
そう思うほどに、貴方のことを、心から愛しているの。
《完》
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