先生、おねがい。

あん

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184-高谷広side

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 「そんなことが……」

 「ああ」


 テーブルで向かい合い、二人分用意したうちの片方の麦茶を口に運ぶ。


 (栗原……)


 賑やかなグループにいるものの、本人はあまり目立たないタイプ。キツめの性格だが、世話焼きで、友達として好いている生徒が多いイメージ。だけど、まさかそこまで厳しいことを心に言ったとは。


 (まあ、性格が合わないんだろうなぁ)


 心の控えめでどこか頼りない性格と、栗原の何に対してもハッキリしている性格。俺にっとては可愛い心も、栗原からしたらイライラするのかもしれない。


 (あとはまあ……友だちトラブルか)


 ハッキリ言って、原因は山田だろう。もちろん山田が悪いわけじゃないけど。というか、この件に関して、誰が悪いとかはない。


 (いや、もちろん暴力を振るうのは駄目だけど)


 戸塚君はそこのところをぼかしている。つまりそれは、山田のことをかばっているわけでもあって。

 コトッとテーブルにグラスを置いて、戸塚君を見る。


 「ありがとな。心をかばってくれて」

 「……ちげえよ、クソうぜえから我慢きかなかっただけだ」

 「我慢出来てなかったら、やり返してるだろ?」


 さっき手当てした口端に視線を向けると、戸塚君は「チッ」と舌打ちをした。そして、苛立たしげに、スクッと立ち上がる。


 「じゃあ、帰るわ」

 「もう?心が出てきたら、車で送るよ」

 「はあ?送ってきたのに送られるとかダサすぎだろ。それに……」

 「ん?」


 口ごもる戸塚君に首を傾げると、戸塚君は言いたくなさそうに顔をしかめ、けれど渋々といった様子で口を開いた。


 「アイツ……俺といるときは強がってたけど、アンタの顔見た瞬間あれだ。早く甘えたいんだろ」


 その言葉にハッとして、言いたくないことを言わせてしまった罪悪感にかられる。きっと今の俺は、非常にバツが悪い顔をしていることだろう。


 「……そっか。でも心配だから、家ついたら連絡して。心のスマホにで良いから」

 「はぁ、過保護かよ……いっつも遊んでっから、夜道なんか慣れてるっつうの」

 「君ね、俺も一応教師なんだから言動に慎みなさい」

 「……」


 俺の説教をスルーした戸塚君と一緒に玄関を出て、一応階段を降りたとこまで見送りをする。断られるかもと思ったが、戸塚君は何も言わなかった。


 「じゃあ、気をつけて。今日はありがとな」


 そう言うも、戸塚君が足を踏み出す様子はない。不思議に思いながら待っていると、数秒して戸塚君がポツリと小さく呟いた。


 「……なぁ」

 「ん?」

 「悪い……あいつが泣くの、止めちまった」


 (あぁ……そういうことか)


 あまりにも後悔した顔で言うもんだから、俺はつい戸塚君の頭を撫でてしまう。


 「ん、分かった。俺が泣かしとくから、大丈夫」

 「……」


 意外だったのは、戸塚君が手を振り払わなかったこと。この子はこの子で、色々動揺していたのかも。そう思うと、普段は生意気な不良少年も、なんだか年相応に可愛く思えた。

 戸塚君は俺の顔をチラッと見て、また目をそらす。


 「……キモ。淫行教師」

 「……ほんと一言多いな、戸塚君は」


 憎まれ口を叩く戸塚君にそう言いながらも、俺はもう一度赤い髪を撫でた。
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