191 / 329
183-高谷広side
しおりを挟む
*
「お帰り……って戸塚君?」
鍵を持って出たはずの心がインターホンを鳴らしたから、不思議に思ってドアを開けると、心の後ろに怪我をした戸塚君が立っていた。切れた口端を見て驚いていると、腰にヒシッと巻きつく細い腕。
(戸塚君がいるのに……)
人前で甘えてくるなんて心らしくない。困惑した表情を戸塚君に向けると、戸塚君は何か話しがあるようなそぶりを見せた。
「……」
俺はとりあえず目で返事をして、心を落ち着かせるように優しく頭を撫でた。
「心、おかえり」
「ただ、いま……です」
「うん。一日中動いてて、汗かいたろ?風邪引いたら困るから、シャワー浴びておいで。湯船入りたいなら、準備するけど……」
すると、心は俺に抱きついたまま、ふるふると首を振る。そして腕の力をギュウッと強めた。
(これは……けっこう)
酷いくらい情緒不安定になってしまってる。何が原因かは分からないが、確実に何かがあったのだろう。
「戸塚君、上がってて。心を風呂に入れてくる。適当に座ってて良いから」
「ああ」
「ごめんな。心……おいで」
自分では動きそうにない心を抱き上げる。心は俺の首に抱きついて、甘えるようにギュウッと力を込める。俺は頭を撫でながら、風呂場へ向かった。
洗面所で心を下ろし、しゃがんで顔を覗き込む。今にも泣き出しそうな、悲しい顔。
「自分で洗える?」
「あら、う……あらうけど……」
「……うん」
「もっかい、ぎゅって、して……」
「……うん」
望み通りに抱き締める。心も力を込めて、それはまるで離すまいとしているようだった。
(一緒にいてやりたいけどなぁ……)
戸塚君は心の前では話したくない様子だったし、心がこんなでは何があったか自分から話してくれる気もしない。それに、心の背中には変な汗が滲んでいて、本当に風邪を引くのではないかと心配だった。
「心……ちゃんと、待ってるから。頑張れる?」
「……」
「良い子だから……な?」
「……ん」
寂しそうな顔をしているものの、心は手の力を弱めた。そのまま触れるだけのキスを落として、心を風呂場に送り込む。シャワーの音がしたのを確認して、俺は戸塚君が待つリビングに向かった。
「お帰り……って戸塚君?」
鍵を持って出たはずの心がインターホンを鳴らしたから、不思議に思ってドアを開けると、心の後ろに怪我をした戸塚君が立っていた。切れた口端を見て驚いていると、腰にヒシッと巻きつく細い腕。
(戸塚君がいるのに……)
人前で甘えてくるなんて心らしくない。困惑した表情を戸塚君に向けると、戸塚君は何か話しがあるようなそぶりを見せた。
「……」
俺はとりあえず目で返事をして、心を落ち着かせるように優しく頭を撫でた。
「心、おかえり」
「ただ、いま……です」
「うん。一日中動いてて、汗かいたろ?風邪引いたら困るから、シャワー浴びておいで。湯船入りたいなら、準備するけど……」
すると、心は俺に抱きついたまま、ふるふると首を振る。そして腕の力をギュウッと強めた。
(これは……けっこう)
酷いくらい情緒不安定になってしまってる。何が原因かは分からないが、確実に何かがあったのだろう。
「戸塚君、上がってて。心を風呂に入れてくる。適当に座ってて良いから」
「ああ」
「ごめんな。心……おいで」
自分では動きそうにない心を抱き上げる。心は俺の首に抱きついて、甘えるようにギュウッと力を込める。俺は頭を撫でながら、風呂場へ向かった。
洗面所で心を下ろし、しゃがんで顔を覗き込む。今にも泣き出しそうな、悲しい顔。
「自分で洗える?」
「あら、う……あらうけど……」
「……うん」
「もっかい、ぎゅって、して……」
「……うん」
望み通りに抱き締める。心も力を込めて、それはまるで離すまいとしているようだった。
(一緒にいてやりたいけどなぁ……)
戸塚君は心の前では話したくない様子だったし、心がこんなでは何があったか自分から話してくれる気もしない。それに、心の背中には変な汗が滲んでいて、本当に風邪を引くのではないかと心配だった。
「心……ちゃんと、待ってるから。頑張れる?」
「……」
「良い子だから……な?」
「……ん」
寂しそうな顔をしているものの、心は手の力を弱めた。そのまま触れるだけのキスを落として、心を風呂場に送り込む。シャワーの音がしたのを確認して、俺は戸塚君が待つリビングに向かった。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる