先生、おねがい。

あん

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 ブランコに腰を下ろす戸塚君のほっぺを冷やすために、濡らしたハンカチを押し当てる。


 「痛い……?」

 「……別に」


 あの後、大人たちがやって来る前に、俺たちは近くの公園まで逃げてきた。山田君たちがどうなったかは知らないけれど、あれだけ騒いだから、駆けつけた学校の先生に話を聞かれてるかもしれない。


 「少し押さえてた方が良いかも……」

 「……ん」


 俺はハンカチを戸塚君に預けて、隣のブランコに腰を下ろした。ギィと鳴る金属の音に寂しさを覚えながら、足先を見つめてポツリと呟く。


 「戸塚君、ごめんね」

 「は?」

 「あんな……俺のために、嫌われ役みたいな……」

 「……本心だけど?」


 その言葉に、俺はフルフルと首を振った。


 「違うよ。普段は戸塚君、あんな酷いこと言わないもん」


 多分戸塚君は、自分のためにはあんなに怒らないと思う。こんな俺のために怒ってくれた。優しい戸塚君らしい、とっても優しい理由。


 (それに……)


 「涙……隠してくれてありがとう」

 「……」

 「泣きたくなかったから、本当に助かった」


 だって、泣いたら、それこそ被害者ぶってるみたいで。それだけは絶対に嫌だった。俺は被害者じゃないから、そんなことは絶対にしてはいけない。


 「山田君ね、栗原君の味方だけしたわけじゃないと思う……俺知ってるんだ。山田君の友だちは、皆良い人だって」


 だって、今までなにも言わないで、俺と山田君を一緒にいさせてくれた。


 「だから、栗原君があんなにキツいこと言ったのがビックリで、戸惑ってたんだと思う」

 「……なら、お前が身を引く必要なかったんじゃねえの」

 「ううん」


 (それは駄目……)


 そう伝えるために、ゆっくりとかぶりを振る。


 「……俺ね、中学のときも似たようなことあったんだ」


 毎年クラスに一人は、俺のことを気にかけてくれる人がいるもので。中学二年生の時、俺を仲間に入れてくれた男の子がいた。でも俺は、うまく接することが出来なくて。


 「それで言わせちゃったの。『お前なんか友だちだと思ったことない』って」

 「言わせた?」

 「周りがね、俺のことを嫌だって言ったの。オドオドしてて、はっきりしなくて、自分たちが悪者の気分だって。そうしたら、その子も困っちゃって、つい言っちゃった……って感じで。だから、俺が言わせたようなものなんだ」

 「……」


 あの時のあの子の悲しそうな顔が忘れられない。話しかけてくれるくらい優しい人だったから、相当苦しかったんだと思う。そんな優しいひとに、すごく苦しいことをさせてしまった罪は重い。


 (それでも、俺は……)


 「俺ね、この性格を直そうと思わなかったんだ。もう人と関わらなければ良いやって、努力するのを放棄しちゃったの」


 だから、今日のことはその報い。自分のダメな所を直そうとしなかった罰だから。もっと仲良くしようと努力してたら、なんて、今さら後悔してももう遅い。


 「だから、俺なんかが山田君と仲良くしちゃダメなの」


 もともと別世界にいる人だった。キラキラして眩しくて。俺みたいな暗い人間には、どうやったってつりあわない、高い場所にいる人。

 だから、こんな……悲しいなんて思う資格、俺にはない。
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