先生、おねがい。

あん

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 「あっ、待って!噛まないで!」

 「ふぇ……?」

 「噛まないでさ、こう……咥える感じで……」

 「んぅ……こふぅ……?」

 「そうそ──ごふっ!」

 「山田君!?」


 チョコバナナの食べ方指導を受けていたら、山田君が戸塚君に叩かれてしまった。山田君は後頭部を押さえて、フルフルと震えている。


 「てめえ、マジ死にてえのか、アホ面」


 (戸塚君、すごく怒ってる……)


 てっきり、最初はチョコレートから食べるものなのかと思ってたのだけど、どうやらこれは山田君のおふざけだったらしい。

 多分、最初にチョコレートを舐めさせて、後はただのバナナを残して美味しさ半減させるっていうおふざけ。お茶目なところがある山田君らしいイタズラだ。


 「ちょっとした出来心じゃんか!」

 「はあ!?そっちの方がタチ悪いんだっつーの!!」


 (俺は気にしてないんだけどな……)


 むしろ、おふざけを出来るような仲になれたのが嬉しいくらい。そんなことを考えながら、ポーッと二人を見ていると、戸塚君の鋭い視線がこちらを向いた。


 「お前も素直に従ってんじゃねえよ、このアホ望月」

 「ふぇっ?で、でも、そんなに怒ることじゃ……」

 「ああ!?」

 「ひぃっ」


 思わずビクっと震えると、山田君がすかさず間に入ってきた。


 「ちょっ、望月怯えてんだろ!」

 「はぁ?」

 「ち、違うの山田君っ。ちょっとした条件反射……」


 すぐに訂正しようとしたのだけど、山田君は俺の方に振り返って、とっても良い顔でニカッと笑った。


 「大丈夫!俺が守っから!」

 「い、いや、本当に……」


 (戸塚君は怖くないんだけどな……)


 なんて言う間も無く、二人が言い合いを始めてしまう。初めはハラハラドキドキしてた俺だけど、徐々に慣れてきてしまった。だって、バイト終わりに山田君と合流してからずっと、二人はこんな感じだから。

 それに、戸塚君も本当に嫌なら「帰る」って言うと思うし。そう言わないのを見るに、言い合いはするけど嫌いではないのだと思う。

 今日の経験からいくと、しばらく経てば二人とも普通に戻る。だから俺は、それまでチョコバナナを食べるのに努めることにした。食べるのが遅い俺のために、人混みから離れたところで待っててもらっているのだから、これ以上迷惑かけないように頑張らなくちゃ。


 「はむ」


 (美味しい……)


 バナナとチョコの組み合わせってこんなに美味しいんだって、今まで知らなかった。


 (家でも出来るかな……)


 「むぅ……ん?」


 もぐもぐと夢中になっていると、いつの間にか二人が俺の方をじーっと見ていた。


 (お話、終わったのかな……?)


 コテン、と首をかしげると、山田君はへにゃっと笑い、戸塚君はプイッと目を逸らした。


 「……?」




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