先生、おねがい。

あん

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 「胸……隠さないで」

 「あっ」


 胸の前にあった手をベッドに押し付けられる。身体の横でしっかりと固定された手首。拘束されている感じが恥ずかしくて、顔を逸らそうとしたけど、その前に唇を甘く奪われた。


 「ん……んぁ、んん」

 「は……心」

 「せん、せ……んむ、んっ」


 この行為はもう何度もしているのに、未だに心臓が壊れそうなる。口腔を動く生温かい舌。先生は、俺が気持ち良くなっちゃうのを知ってて、舌の裏をツーとなぞる。


 (好き……)


 舌を絡めるたびにその想いが膨らんで。けれど、口が塞がっていては何も言えない。でも、それでも良い。言わなくてもきっと伝わってる。だって、こんなに胸がドキドキしてるんだもん。


 「はぁっ……」


 離れた唇。いったん遠くなる顔。蕩けた俺を見つめる先生が、力尽きたように俺の首元に顔を寄せた。けれど、舐められるわけでも吸われるわけでもなく、ただ先生の熱い息がかかるだけ。


 「せんせい……?」

 「心……やばい。もう朝から楽しみで楽しみで仕方なかった」

 「え……?」

 「浴衣……着せて帰してって言ったの、俺」

 「ふぇっ?」


 (そ、そうだったの?)


 驚く俺の首に、先生が顔をグリグリと押し付ける。先生のサラリとした髪が当たってくすぐったかったけど、なんだか子どもみたいで可愛い。


 「もう、思った以上に似合ってるし可愛いし、今すごく興奮してる……こんな変なこと言うくらいにはヤバイ。キモいと思われたくなくて、本当は余裕なふりしようと思ってたのに……もう無理。無理無理。可愛いすぎてしんどい」


 ギュギュウッと痛いくらい抱きしめてくる先生。苦しいのに、なんだか可笑しくなって、俺は「ふふっ」と笑ってしまった。


 「心……?呆れた……?」


 上体を起こした先生が、不安そうな顔で俺を見る。俺は解放された手を緩む口元に当てて、フルフルと首を振った。


 「違うんです……呆れてるんじゃなくて、嬉しくて……」

 「嬉しい……?」


 先生の言葉にコクリと頷く。


 (だって、先生がこんな風に子どもっぽくなるの、きっと俺だけ……だよね……?)


 少なくとも、俺以外の生徒に向けてるのは『大人』の顔で。こんなこと思うのは意地悪かもしれないけど、ちょっと優越感?っていうのを感じる。


 「先生……」


 抱っこ、と言うみたいに両手を広げる。先生は戸惑いながらも引き寄せてくれて、ポスっと胸に収まった。あったかい、大好きな胸の中。


 「せんせ……好き」


 スリ、と顔を寄せる。ドクンドクンと鳴るのは、先生の心臓で合ってるだろうか。俺の鼓動もすごい跳ねているから、よく分からない。


 「心……あんまり可愛すぎると、我慢できない。ただでさえヤバいんだから」

 「……」


 その言葉で、一瞬にして幸せだった気持ちにモヤがかかった。


 (我慢、しなくて良いのに……)


 好きな人同士がするものを、俺たちがしちゃいけないのは何で?もちろん、すごく緊張するし、ちょっぴり怖いのもあるけど。でも先生になら、何をされても良いって思う。

 それなのに、いつも先生が一歩手前で止まってしまうのは……。


 「俺が、生徒だから……だから、駄目なんですか?」


 きっと、この理由しかない。

 俺には『子ども』の顔を見せてくれる先生だけど、どうしたって俺のことは『子ども』としか見てくれてないんだ。

 そう思うと、何もできない自分が歯がゆくて仕方ないの。



 
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