先生、おねがい。

あん

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 「飲み物買ってくる」


 恥ずかしい傷の手当てが終わり、人混みに消えた蓮君を待つこと数分。後ろからフッと人影がさした。けれど、それは蓮くんじゃなくて。


 「心」

 「先生っ」


 見回りだから、ポロシャツにチノパンという、いつもよりラフな格好。朝と変わらずキラキラしてる先生が、横に腰を下ろした。

 どうやら少しだけ一緒いてくれるらしい。俺はそれだけで嬉しくて、ついほっぺが緩んでしまった。


 「蓮は?」

 「あ、えと……飲み物を買いに行ってくれてます」

 「え、一人で?心、体調悪いの?」


 心配そうな表情になった先生に、胸がきゅうんと鳴る。俺の胸は先生相手だと素直で、ちょっと気遣われただけでドキドキしてしまう。

 (本当に単純……)


 そんな自分に呆れもするけれど、これはやっぱり仕方ない。だって、それくらい先生が大好きなのだから。

 俺は胸を高鳴らせながら、さっきの問いかけに返答するべく、首をフルフルと振った。


 「ちがくて……足が……」

 「足?……本当だ。痛い?家まで送るか?」

 「い、いえっ。せっかく蓮君とお祭りだから……そんなに痛くないので大丈夫です」


 えへへ、と誤魔化すように笑いかけると、先生は困ったように眉を寄せ、俺の頭をポンポンと撫でた。


 「本当は無理させたくないけど……心がそう言うなら。蓮も随分と楽しみにしてたし」

 「先生……」

 「ただし、無理だと思ったら、すぐ言うこと。蓮、力あるし、心ならおぶって行けるから」

 「は、はい」


 ついさっきヒョイッと抱きかかえられたばかりなので、とっても身に覚えがある。なんだか恥ずかしくて目を逸らすと、向こうから呼ぶ声が聞こえた。


 「あー!高谷先生だ!」

 「うっそ!来て!こっち来て何か奢って!」


 見れば、同級生の女の子二人が、先生に向かって手招きをしている。それぞれ可愛いピンク色と白色の浴衣を纏っていて、顔もお化粧がバッチリしてあった。


 「まったく、あいつらは……」


 呆れ顔の先生が腰を上げたけれど、俺は思わず裾を掴んでしまった。


 「心?」

 「あ……えっと……」


 (俺っ、何してっ)


 慌てて手を離すものの、なんと言っていいのか分からず、口ごもってしまう。でも先生は、そんな意味不明な行動を理解してくれて。俺の後頭部をスルリと撫でて、優しく微笑んでくれた。


 「浴衣……すごく似合ってる。家帰ったら、ゆっくり見せてな」

 「……っ!」


 ボボボッと顔を赤くした俺を見て、おかしそうに笑う先生。もうひと撫ですると、綺麗な手が離れていってしまう。

 それは寂しかったけれど、家に帰れば会えるんだからと自分に言い聞かせ、「じゃあ、また」と言う先生にコクリと素直に頷いた。



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