先生、おねがい。

あん

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 「じゃあ、行こ」

 「うんっ」


 (いつ渡そうかな……)


 人目があるところは嫌だろうし。考えあぐねて足を踏み出すと、足の親指と人差し指の間に、ズキッとした痛みが走った。


 「……っ」

 「心?どうしたの?」


 進まない俺を不思議に思った蓮君が、こっちを振り返る。


 「あ、なんでもないよっ」


 俺はせっかくの楽しい時間を終わらせたくない一心で、首をフルフルと振った。だけど、察してしまった蓮君は俺の足元に視線を落とす。


 「……血、出てる」

 「た、多分、射的でつま先立ちしてたから……普通に歩くのは大丈夫だから──ひゃっ!」


 ググッと人の少ない方に引っ張られたかと思ったら、突然グワッと身体が宙に浮き、俺は蓮君に横抱きにされていた。そしてそのまま屋台の後ろの道を通って、どこかへと運ばれていく。


 「れ、蓮君っ。本当に大丈夫だからっ」

 「けど、血出ててる」

 「でも、恥ずかしぃ、から……」

 「そんなことより、心の足の方が大事」

 「うぅ……」


 (蓮君、過保護過ぎる……)


 こんなちょっとの出血くらい、我慢すればなんともないのに。恥ずかしくて、蓮君の胸に赤くなった顔を寄せる。すると、遠くの方から、コソコソとした話声が聞こえた。


 「ちょっと何あれ?」

 「ちょーイケメンじゃん」

 「抱かれてる子、お姫様みたいだし」

 「え、でもよく見たら、男の子じゃん?」

 「うほっ。ごちそうさまです」


 (ほら……色々言われてるよぉ……)


 蓮君カッコ良いから、ただでさえ目立つのに。こんなことしたら、ますます注目の的になってしまう。背中で感じる視線が恥ずかしくて、心臓はバクバクで。でも蓮君は気にした様子もなく、颯爽と歩く。俺はギュッと目を瞑って耐えていた。


 「降ろすよ」

 「えっ、わっ」


 優しく降ろされたのは、境内のベンチだった。キョトンとしていると、蓮君は俺の足元に跪き、俺は目を疑った。


 「れ、蓮君!?」

 「足見せて。母さんに言われて、絆創膏持ってきてるから」

 「じ、自分でやるよっ。蓮君が汚れちゃう」

 「別に良い」

 「ひゃうっ」


 スルリと足を取られ、マジマジと見つめられる。


 (は、恥ずかしいっ……)


 普通なら人に向けられない足を、手で触れられて見つめられている。


 「ほんとは、消毒した方がいいけど……」

 「い、良いからっ、絆創膏だけお願いしますっ」


 恥ずかしいから早く終わって欲しい。その一心だった。

 普段は頭上にある、先生と似ているようで、それよりキツイ目。そんな綺麗な瞳が俺を見上げ、心配そうに見つめられると、なんだか胸が変な感じになってしまう。


 「じゃあ、家帰ったらすぐ洗う?」

 「あっ、洗うっ」

 「絶対?」

 「ぜっ、絶対っ」

 「……分かった」


 納得してくれた蓮君が、膝に俺のかかとを置いて、絆創膏を取り出す。そして再び、足を持たれ、傷口にそれをあてがわれた。

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