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番外編‐戸塚君とアホ望月②
しおりを挟む「今日はセンセイいねえの?」
「あ、うん。先生はお仕事で……」
「ふーん。日曜なのにご苦労なことで」
聞きはしたけど、あまり興味なさそうな顔をする戸塚君。だけどどこか少し嬉しそうなのは、俺の見間違いだろうか。
そこで俺は、この前、戸塚君の家から先生のアパートへ帰るときに、二人が妙にバチバチしていたのを思い出す。つまり、先生と戸塚君は、あまり雰囲気がよろしくない。それは少し寂しいことだけど、二人は会うことも少ないし、俺が口を出すことじゃないっていうのは充分わかってる。
「……」
ちょっと悲しい気持ちになっていると、戸塚君が首を傾げた。
「で?一人で何してたわけ?」
「あ、えっと……」
戸塚君からの問いかけに、素直に答えるか答えまいか迷う。なぜなら、俺が今日ここに来た目的は、戸塚君には少し言いにくいことだったから。というか、出来ることなら言いたくない。だから口ごもる俺に、戸塚君は面倒くさそうに眉を寄せた。
「はっ。どうせ、センセイに何か買おうとしてんだろ」
「えっ、違うよ!」
思わず立ち上がって、全力で否定してしまった。戸塚君も金髪さんもびっくりした顔で俺を見ていて、我に返って恥ずかしくなった俺は、顔を赤くしながらそっとベンチに座りなおす。
「えーなにー、そんなムキになってー。ますます気になっちゃうじゃんー」
変な雰囲気を壊してくれたのは、明るく話しかけてくれる金髪さん。ツンツンと熱いほっぺを突かれながら、頭をぐるぐると悩ます。言いたくなかったのに、俺がおかしな行動をしたせいで、言わざるを得ない状況になってしまった。
(うぅ……もう、この際バラしちゃえっ)
俺はぎゅっと手を握って、立っている戸塚君を見上げた。
「あのっ、あのねっ……今日は、戸塚君にお礼の品を買おうと思って……」
「は?」
「え?」
俺の言葉に、戸塚君は面を食らったような顔をして、対照的に金髪さんは楽しげに口を歪めた。
「お礼ってなになにっ?」
「えと……この前、戸塚君ちに何日かお世話になったので、そのお礼をと……」
「へえー。あ。もしかして、六月末あたり?」
「はい」
「なるほどー。だからとっつー誘っても来なかったんだ。へぇーそっかーそういうことかー。とっつーったら、やるじゃーん」
含み笑いを向けられて、不機嫌そうに眉を寄せる戸塚君。
「あ、あのっ、それで、今日色々見て回ったんだけど良いのが見つからなくて……。だから、戸塚君、今欲しいものないかな?」
開店時から探してるのに未だに決まらない。それなら、この際だし、欲しいものを贈ったほうが良いのではないだろうか。そう思って、言ったのだけど……。
「あ、それなら、ちょーどゴム切れて、今日は中だ──い゛たっ!?」
「ひゃ!?」
戸塚君が、何かを言おうとした金髪さんの頭をたたいた。「ひどぉい」と前のめりになって痛みに耐える金髪さんを、戸塚君が睨みつける。
「てめえが、最後のやつをわざと破ったからだろうが」
(……?)
意味が分からず困惑していると、今度はギロっと俺のほうを見る戸塚君。
「別に礼をされるようなことはしてねえし、んなもんいらねえよ」
「でも、お礼をっ」
「いらねえ」
「でも」
「いらねえ」
「で」
「いらねえ」
「……うぅ……」
……そう。最初渋ったのはこういうこと。戸塚君は、お礼目当てで優しくするような人じゃないって言うのは、よく分かっている。こうして断られると思ったから、出来れば直前まで秘密にしておきたかったのだ。
「でも、もらって欲しい……」
自己満足だって分かってる。だけど、どうしても何か感謝を示したい。だって、言葉だけじゃ足りないくらい、助けてもらった。
けれど、断られてしまってはどうしようもない。為すすべもなく黙っていると、突然パンっと音が鳴った。びっくりして隣を見ると、両手を合わせた金髪さんがニコッと微笑む。そして戸塚君に向かって、わざとらしく眉を寄せた。
「もーとっつー。人の厚意を無下にしないの!」
「はぁ?」
「おどおどちゃんも!そんなおどおどしてたら、とっつーに言い負かされるのがオチだよ!」
「へ?」
二人してきょとんと金髪さんを見つめる。
「そこでおにーさんは提案します!これから、二人でデートしてきなさい!」
金髪さんはとっても楽しそうに、そう言い放った。
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