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番外編-戸塚君とアホ望月⑤
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*
「戸塚君っ。お願いだから受け取ってっ」
会計のときにお財布を出すのにワタワタしたせいで、戸塚君がササッと全て払ってしまった。お店の外に出てから、お札を渡そうとするも、戸塚君は決してそれを受け取ってくれない。
「いらねえって言ってんだろ。しつこい」
「だ、駄目だよっ」
俺はあれだけでは飽き足りず、デザートまで堪能したのだ。アイスが乗った揚げパン。それはすっごく美味しくて、ほっぺが落ちちゃうかと思った。
料理も全部俺が食べたいものだったし、戸塚君が自分用に頼んだのは食後のコーヒーのみ。そんな状況で、戸塚君にお金を出させるなんて、そんなこと出来ない。
(それに……)
「お礼なんだから、むしろ俺が全部払わないとっ」
そう。今日の目的はお礼をすること。つまりは、戸塚君へのおもてなし。それなのに俺がもてなされては意味がない。だから、ここで負けるわけにはいかないのだ。
「お願いっ」
「……はぁ」
頑固な俺にあきれ果てた戸塚君がため息を漏らす。そしてなんと、俺の唇に人差し指をふにっと押し付けた。
「んっ……?」
突然のことに驚いて、頭にはてなマークが浮かぶ。俺は今、いったい何をされているのだろう。これが俺の言葉を制す行動だと気づくのには、だいぶ時間がかかった。
「お前が今日することは?」
高校生らしからぬ大人っぽい表情。言葉を紡いだのは、いつもより幾分甘い声。
(ひゃあ……)
テレビでしか見たことないその仕草は、とても様になっている。そんなイケメン俳優並みにカッコいい戸塚君に、不覚にもドキドキしてしまい、解放された口が自然と動いてしまう。
「……い、一日一緒に居ること」
「ん。ならそれだけしてろ。な?」
「う、ん」
俺の頭をポンっと撫でた戸塚君が、「ちょろい」と呟いて、歩いて行ってしまう。その言葉で俺はハッと我に帰り、見事に戸塚君の思惑通りになってしまったのだと気づいた。
(は、反則っ……)
*
その後はなんの目的もなく、ショッピングモールの中を歩いた。会話の話題が無くなってきたところで目に入ったのは、明るく賑やかな場所。
「あそこって……」
「あ?ゲームコーナーだけど……行くか?」
「う、うんっ。行ってみたい」
先を行く戸塚君について行って、そこに足を踏み入れる。これまた初めての場所に、俺はキラキラの眼差しを向けた。
「わぁ……これってどうやってやるの?」
俺が一番に興味を持ったのは、入ってすぐのところにあった太鼓のゲーム。
「あー、やってみた方が早いんじゃねえ?」
チャリンチャリンと小銭を入れた戸塚君が、赤いハチを持った。顎で促され、俺も同じように青いのを持つ。
「曲。知ってんのある?」
慣れた手つきで太鼓を叩いて画面を動かす戸塚君に、フルフルと首を振った。
「え、と……ない、です」
音楽は全く聴かないから、知ってる曲はあんまりない。たまにどこかで流れてたな、って思う程度。
そんな俺に戸塚君は何食わぬ顔で「じゃー一番簡単なの選ぶか」と言った。
普段はアホアホ言うのに、こういう無知さは馬鹿にしない。世間知らずな俺にとって、それはとてもありがたいことで。戸塚君の優しさに、胸がギュッと苦しくなった。
「ほら、始まるぞ。赤いの流れて来たときは真ん中、青いのは縁叩け。あとはまあ、ノリで」
「うん。分かったっ」
曲が始まり、俺は戸塚君の見よう見まねで太鼓を叩いた。最初は緊張していたものの、中盤になると楽しくなってきて、連打のときはめいいっぱい叩いた。
「はぁ、楽しかったぁ……」
結果発表を終えて、満足げにハチを置く。
「ふっ。意外と上手かったじゃん」
「ほんとっ?」
俺の問いかけに頷く戸塚君。俺は褒められたことで嬉しくなって、ゆるゆるにほっぺを緩めた。
(楽しいなぁ……)
友だちと遊ぶのは初めてで。こんなに楽しいものだって、今まで知らなかった。でもきっと、ここまで楽しめるのは、相手が戸塚君だから。信頼してる戸塚君だから、こんなにも楽しめる。
しみじみそう思ってると、戸塚君が俺も頭に手を置いた。見上げると、戸塚君はわずかに微笑んでいた。でも多分、戸塚君はそのことに気付いていない。なんとなくそう思う。
本人さえ知らない俺だけの秘密がなんだか嬉しくて、「えへへ」と笑ってしまう。そんな俺に戸塚君は「変な奴」と悪態をついたけど、表情はやっぱり柔らかい。
「あとは?気になるのねえの?」
「えっと……じゃあ、あれ!」
その後、俺は千円分も遊んでしまったけど、後悔は全くなくて、ただただ楽しい時間を過ごした。
「戸塚君っ。お願いだから受け取ってっ」
会計のときにお財布を出すのにワタワタしたせいで、戸塚君がササッと全て払ってしまった。お店の外に出てから、お札を渡そうとするも、戸塚君は決してそれを受け取ってくれない。
「いらねえって言ってんだろ。しつこい」
「だ、駄目だよっ」
俺はあれだけでは飽き足りず、デザートまで堪能したのだ。アイスが乗った揚げパン。それはすっごく美味しくて、ほっぺが落ちちゃうかと思った。
料理も全部俺が食べたいものだったし、戸塚君が自分用に頼んだのは食後のコーヒーのみ。そんな状況で、戸塚君にお金を出させるなんて、そんなこと出来ない。
(それに……)
「お礼なんだから、むしろ俺が全部払わないとっ」
そう。今日の目的はお礼をすること。つまりは、戸塚君へのおもてなし。それなのに俺がもてなされては意味がない。だから、ここで負けるわけにはいかないのだ。
「お願いっ」
「……はぁ」
頑固な俺にあきれ果てた戸塚君がため息を漏らす。そしてなんと、俺の唇に人差し指をふにっと押し付けた。
「んっ……?」
突然のことに驚いて、頭にはてなマークが浮かぶ。俺は今、いったい何をされているのだろう。これが俺の言葉を制す行動だと気づくのには、だいぶ時間がかかった。
「お前が今日することは?」
高校生らしからぬ大人っぽい表情。言葉を紡いだのは、いつもより幾分甘い声。
(ひゃあ……)
テレビでしか見たことないその仕草は、とても様になっている。そんなイケメン俳優並みにカッコいい戸塚君に、不覚にもドキドキしてしまい、解放された口が自然と動いてしまう。
「……い、一日一緒に居ること」
「ん。ならそれだけしてろ。な?」
「う、ん」
俺の頭をポンっと撫でた戸塚君が、「ちょろい」と呟いて、歩いて行ってしまう。その言葉で俺はハッと我に帰り、見事に戸塚君の思惑通りになってしまったのだと気づいた。
(は、反則っ……)
*
その後はなんの目的もなく、ショッピングモールの中を歩いた。会話の話題が無くなってきたところで目に入ったのは、明るく賑やかな場所。
「あそこって……」
「あ?ゲームコーナーだけど……行くか?」
「う、うんっ。行ってみたい」
先を行く戸塚君について行って、そこに足を踏み入れる。これまた初めての場所に、俺はキラキラの眼差しを向けた。
「わぁ……これってどうやってやるの?」
俺が一番に興味を持ったのは、入ってすぐのところにあった太鼓のゲーム。
「あー、やってみた方が早いんじゃねえ?」
チャリンチャリンと小銭を入れた戸塚君が、赤いハチを持った。顎で促され、俺も同じように青いのを持つ。
「曲。知ってんのある?」
慣れた手つきで太鼓を叩いて画面を動かす戸塚君に、フルフルと首を振った。
「え、と……ない、です」
音楽は全く聴かないから、知ってる曲はあんまりない。たまにどこかで流れてたな、って思う程度。
そんな俺に戸塚君は何食わぬ顔で「じゃー一番簡単なの選ぶか」と言った。
普段はアホアホ言うのに、こういう無知さは馬鹿にしない。世間知らずな俺にとって、それはとてもありがたいことで。戸塚君の優しさに、胸がギュッと苦しくなった。
「ほら、始まるぞ。赤いの流れて来たときは真ん中、青いのは縁叩け。あとはまあ、ノリで」
「うん。分かったっ」
曲が始まり、俺は戸塚君の見よう見まねで太鼓を叩いた。最初は緊張していたものの、中盤になると楽しくなってきて、連打のときはめいいっぱい叩いた。
「はぁ、楽しかったぁ……」
結果発表を終えて、満足げにハチを置く。
「ふっ。意外と上手かったじゃん」
「ほんとっ?」
俺の問いかけに頷く戸塚君。俺は褒められたことで嬉しくなって、ゆるゆるにほっぺを緩めた。
(楽しいなぁ……)
友だちと遊ぶのは初めてで。こんなに楽しいものだって、今まで知らなかった。でもきっと、ここまで楽しめるのは、相手が戸塚君だから。信頼してる戸塚君だから、こんなにも楽しめる。
しみじみそう思ってると、戸塚君が俺も頭に手を置いた。見上げると、戸塚君はわずかに微笑んでいた。でも多分、戸塚君はそのことに気付いていない。なんとなくそう思う。
本人さえ知らない俺だけの秘密がなんだか嬉しくて、「えへへ」と笑ってしまう。そんな俺に戸塚君は「変な奴」と悪態をついたけど、表情はやっぱり柔らかい。
「あとは?気になるのねえの?」
「えっと……じゃあ、あれ!」
その後、俺は千円分も遊んでしまったけど、後悔は全くなくて、ただただ楽しい時間を過ごした。
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