先生、おねがい。

あん

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 「そんな……」


 山田君の絶望的な顔に、罪悪感が募る。


 「……心?先約って?」


 車を運転してる先生が、前を向きながら声だけをこちらに向けた。いつもは予定があれば必ず先生に伝えるから、こんな形で聞かされたことに戸惑っているような声だった。


 「えっと……蓮君と……」

 「蓮?」

 「はい。ついさっき着替えてる時に、二人で行こうってメッセージが来て……」


 だから、家に帰ってから伝えるつもりだった。


 「なっ……蓮のやつ……」


 唖然とする先生。

 先生はその日は見回りだって言ってたから、大丈夫だろうと思ってたのだけど、もしかして駄目だったのだろうか。そう心配になっていると、今までずっと黙っていた戸塚君が、助手席から口を開いた。


 「おい。蓮って誰だ」

 「えっと……蓮君は先生の弟さんで、俺の従兄弟なんだ」

 「弟?」


 繰り返した戸塚君が横を向いて「兄弟揃ってかよ」って先生にジト目を向けた。先生は苦笑しながら「まぁ……多分だけど」と返す。その意味が分からなくて首を傾げていると、戸塚君の顔がこっちに向いた。


 「それ何曜日?」

 「えっ」

 「何曜に行くんだって聞いてんの」

 「あ、えと……金曜日っ」

 「……ふーん。なら土曜は行けるな」

 「ふぇっ?」


 (行けるって……?)


 キョトンとする俺に、戸塚君が焦れたように眉を寄せた。


 「土曜。バイト五時上がりなんだから行けるだろ」

 「あ、そっか……」


 そうだ。お祭りは二日間ある。何も同じ日に行かなくても良いのだから、最初からこうすれば良かったんだ。

 やっぱり戸塚君は頭が良い。そう感心して頷こうとすると、山田君が俺と戸塚君の視線を遮るように、手を振った。

 
 「ちょっーと、待ったあああ!」

 「あ?」


 戸塚君の声が不機嫌なものに変わる。
 

 「何?何ちゃっかり約束してんの戸塚!?俺が先に望月誘ったんだけど!?」

 「断られただろ、お前」

 「そうだけど!!でもそれは金曜の話だし!!」

 「あー、キャンキャンうるせえな」

 「なんだとー!?」

 「ふっ、二人ともっ……」

 
 二人の言い合いは際限なく続き、俺はどうやって止めようかとオロオロしてばかり。運転中の先生には助けを求められないし、後ろを向くと、尾上さんは二人の様子を楽しげに見つめていた。


 (なんでっ……!?)


 人任せは駄目だ。自分でなんとかしなきゃ。そう思ったところで、助け舟を出してくれたのは、ずっと静かにしていた御坂さんだった。


 「三人で行けばいいんじゃないかな?」

 「へ?」


 山田君が呆けた声を出す。そんな山田君に、御坂さんはニコッと笑って両手を合わせた。


 「だってほら、戸塚くんも健くんも、せっかく仲良くなったんだし。ね、高谷さんもその方が安心ですよね?」


 御坂さんが先生に同意を求める。


 「……そうですね。心、三人で行ったら?」


 俺は先生の言葉にコクコクと頷いた。三人で行けるならそれが一番良い。だって、どちらか一人となんて、そんなこと出来っこないもん。

 でも二人はどう思うだろうか。二人は仲が良いのか悪いのかよく分からない。言い合いはしてるけど、戸塚君は本当に嫌いな人には無視を決め込むと思うし……。でもやっぱり雰囲気は険悪で。


 「ど、どうかな?二人とも……」


 恐る恐る問いかけると、以外にも戸塚君は、渋々といった感じだけれど、それでもしっかりと頷いてくれた。

 それに対して、いつも何でも受け入れてくれる山田君は、クシャッと顔を歪めた。もう半泣き状態。


 「そんなぁ。俺、こく……と思ったのに」

 「は?文句あんなら来なくて良いけど」

 「は!?行くし!!」


 (良かった……)


 とりあえず三人で行くことに決まり、俺はホッと肩をなでおろす。


 (お祭りで、二人がもっと仲良くなれば良いなぁ……)


 そのために、俺も出来る限りのことをしよう。そう意気込む。

 こうして俺は、今まで一回も行ったことのなかったお祭りに、二日連続で行くことになったのだった。



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