先生、おねがい。

あん

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 「はいっ。出来たわよ~」

 「わあ……」
  

 生まれて初めての和服。紺色の縦縞の浴衣に、黒色の帯。鏡に映る新鮮な自分の姿に、目を輝かせる。くるりと回れば、帯がリボンのように可愛らしく結ばれていた。聞けばこれは、片わな結びと言うらしい。
  

 「すごい……ありがとうございますっ」
  

 後片付けをするおばさんにペコっと頭を下げる。すると、おばさんはニコッと微笑んでくれた。


 「良いのよ~。ある意味、本業だもの。それに、もう広も蓮も着なくなってつまらなかったの。だから、私も嬉しいわ」
  

 先生のお下がり。そして、蓮君のお上り。なんだかこの家の子どもになったみたいで嬉しい、なんて図々しいことを思ってしまう。


 (えへへ……によによしちゃうっ)


 「心、終わった?」
 

 ひょこっと襖から顔を覗かせた蓮君が、俺の姿を見て目をキラキラとさせる。そして、トタトタと駆け寄ってきて俺の両手を取り、控えめに笑った。


 「可愛い、心」

 「あ、ありがとう」

 「可愛い……可愛い、心、可愛い」

 「そ、そんなに褒められたら、恥ずかしい、よ……」

 「でも、ほんとに可愛い」


 まっすぐ見つめられて褒められるのが、なんだか照れくさくて、俯いてしまう。


 (蓮君って、先生に似て、言うことが直球なんだな……)


 手を握られながら何度も褒め言葉をもらい、顔を赤くしていると、おばさんが呆れたような声を出した。
  

 「んもー、この前までは無愛想だったくせに、一回懐くとこれなんだから。心くん、煩がらないでやってね」
  
 「そんなっ。煩いわけないですっ」
  

 慌てて訂正する。だって、確かに初めて会ったときとは大分印象が変わったけれど、煩いとかではなくて、可愛いなって思うから。


 (表情筋は硬いみたいだけど、目の色とか、雰囲気とかは、感情豊かなんだよね……)


 今日この家に来たときなんか、尻尾を振ってるんじゃないかと思うほど、快く歓迎してくれたし。そうやって懐いてくれてるのが本当に嬉しい。

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