先生、おねがい。

あん

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 「ん……」


 (……暑い……)


 夏の暑さが肌にまとわりつく。

 けれど、どこか心地良い。

 鼻腔をくすぐるせっけんの香りは、いつも使ってるのとは少し違う。でも、元の香りは俺の好きな匂いで、落ち着いて、癒されて、胸がキュって締め付けられる。

 俺の大好きな──
 

 「せん、せぃ……」


 大好きな先生。

 目を開ければ、先生がそばにいる。優しく、微笑みかけてくれる。


 (夢……?)


 いつも別々で寝ている先生が、ここにいるはずない。
 
 夢ならば、少しくらい甘えても良いんじゃないだろうか。ぼんやりした頭でそう考えて、俺は先生にすり寄った。先生はそんな俺の頭を撫でて、いい子いい子してくれる。


 「おはよ」

 「おはよ……ございま……」


 (ん……?)


 俺のより冷たい体温に優しい穏やかな声。その手の感触と声があまりにもリアルで、俺は徐々に現実に引き戻されていった。


(そうだ、俺……昨日先生と寝て……)


 寝ぼけてた頭はハッキリと覚醒して、俺は今の状況を理解する。

 一組の布団を一緒に使い、朝起きてすぐに猫なで声で名前を呼び、ほっぺをゆるゆるに緩め、甘えるようにすり寄った自分。


 「──っ!」


 一気に羞恥心が襲ってきて、真っ赤になった俺は慌てて飛び起きようとした。けれど、すでに背中には先生の腕が回っていて、俺は俯くことしか出来なかった。


 「しーん?」

 「やっ……」


 先生が顔を覗こうとするので、胸を押して抵抗する。朝からこんなに早くて大丈夫なのか心配になる程、俺の心臓はドキドキバクバク。


 「や、やだっ、見ないでくださいっ」

 「どうして?」

 「だって、恥ずかしっ……」


 今さっきのこともだけど。恥ずかしいのはそれだけじゃなくて。


 (だって、昨日──)


  昨日、俺は先生と。


 「昨日はあんなに積極的だったのに?」

 「っ!先生!」


 思わずカッとなって、つい大きな声を出してしまった。


 (うぅ……恥ずかしい)


 そう。昨日は、初めてのキスをした。初めてなのに、もっとって抱きついて。先生もそれに応えてくれて。寝るまでずっと、唇を重ね続けた。


 (顔……熱い……)


 先生の唇の感触は、一晩経っても消えていない。柔らかくて、優しい感触。


 「うぅ……せんせ、いじわるです……」


 思い出せば思い出すほど恥ずかしくなって、赤い顔を先生の胸にグリグリと押し付けた。顔を見られないために必死で、それがなかなかに恥ずかしい行為であることは気付かなかった。

 そんな俺の背中を、先生は優しくさすってくれる。俺は拗ねながらも、その幸せを噛みしめた。


 「ごめんごめん。なんか、心にはつい意地悪したくなっちゃう」

 「なん、で……?」

 「んー……ほら、好きな子はいじめたくなっちゃうってあるだろ?」

 「好きな子……ですか?」

 「うん。好きですよ?」

 「お、俺も……好き、ですけど……」

 
 (でもやっぱり恥ずかしいっ……)


 好きとか恥ずかしいとか、そういう感情を全部込めて、ギュって抱きつくと、先生が俺の髪をスルリと撫でて、そのままくるくると遊び始めた。


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