先生、おねがい。

あん

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 「──っ」


 先生の柔らかい感触が、唇に触れる。

 夢見た瞬間が今現実になって、俺は息をするのを忘れるほど懸命に先生の温もりを辿った。先生の香りが鼻腔をくすぐり、俺は全身で先生を感じているような錯覚に陥っていた。


 「ふぁっ」


 数秒して唇が離れると、ふにゃふにゃになった俺は先生にもたれかかった。もう支えなしでは、身体を保っていられなかった。


 「心、やっぱ嫌だった……?」

 「……」


 心配そうな問いかけ。俺は、先生の胸に頭を埋めながら顔を左右に振る。


 (なに、これ……)


 嫌なわけがない。

 恥ずかしいのに、すごく気持ち良かった。それこそ腰が抜けるほどに。

 先生と一つになったような、そんな幸福感が駆け巡り、一瞬にして身体中が甘くなった。


 「すご、い……」


 (キスって、こんなに幸せなものなの……?)


 キスって魔法みたい。魔法みたいに、神経を甘く麻痺させる。相手のことしか考えられなくなって、他は何も見えなくなった。

 でも、それはきっと、相手が先生だから。大好きな人とするから、こんなにも気持ち良い。そして、もっともっと好きになる。


 「せんせ……」

 「ん?」


 優しく背中をさすってくれる先生に、俺はぎゅっとしがみついた。


 「大好き……」


 溢れ出す想いを口にすると、先生も抱きしめる力を強めてくれる。それがすごく嬉しくて、泣いちゃいそうになる。


 「……俺もだよ」


 その言葉に胸を躍らせた瞬間、視界が一変して、俺は先生に押し倒された。頭をかばってくれる優しいところに、またキュンと胸が鳴った。


 「せんせ……?」

 「ごめん。一回じゃ足りない」

 「……なんで……謝っちゃ、やだ……」

 「え……?」
 
 「俺も、してほしぃ……したいもん……」


 (もっと、先生とくっつきたい……)


 駄々っ子のような目を向ける俺に、ゴクリと喉を動かした先生が近づいてくる。そんな仕草さえ色っぽいなんて、先生はどこまで俺を魅了するのだろう。


 (ほんと、かっこいい……好き)


 キスで蕩かされた俺は、羞恥心よりも、先生を求める欲求の方が強くなっていて、降りてくる唇を素直に受け入れた。


 「ん……んぅ」

 「心……名前、呼んで」

 「ふぁ……ひろ、く……んっ」

 「心……」

 「ん……っ」


 俺たちは、合間に名前を呼び合いながら、何度もキスをした。初めは触れるだけだったそれは、次第に啄ばむようなものへと変わっていった。

 離れていくたびに寂しくなって、もっと欲しくなって先生にしがみついて。それ以上に求めてもらえるのが嬉しくて。

 キスをしている間にも、頭とか耳を撫でられると、ふにゃふにゃに気持ち良くなってしまう。

 
 「……んっ」


 頭はとろとろに溶けて、もう何も考えられなかった。


 
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