先生、おねがい。

あん

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 しばらくして、先生のお父さんも仕事から帰ってきた。

 叔父さんも雰囲気が柔らかくて、背が大きい人だった。先生と蓮君の高身長遺伝子は、叔父さんからきているのだろう。


 「いただきます」


 五人で囲む食卓。

 俺の隣に先生。向かいに蓮君、その横に叔母さん。叔父さんは上座に座っていて、各々がスプーンを持ってカレーに手を伸ばす。


 (美味しい……)


 先生の好きな味。ちゃんと覚えたから、家でも作れる。

 ほくほくとした気分で、何の気なしに前を向くとパチっと蓮君と目が合った。

 
 (え……)


 思わず目を逸らし、恐る恐る視線を戻すと──


 (まっ、まだ見てる……)


 蓮君は決して俺から目を逸らすことなく、器用にカレーを口に運んでいた。その器用さに感心するも、こうも直視されては、なんだか落ち着かない。

 一人でそわそわしてると、不意に叔父さんが俺に声をかけてきた。


「広との生活はどう?上手くやってるかい」

 「あっ、はいっ。あの……高谷先生には、本当にいつもお世話になりっぱなしで……」


 急な質問だったからつい畏まって答えてしまった。そして、それが失敗だった。

 先生以外の三人の目が、俺の方へ。いや、蓮君は元々俺の方ばかり見てたけど……とにかく、驚いたような、そんな視線が俺につき刺さった。


 「あ、あの……?」


 首を傾げると、叔母さんが口元に手を当てる。そして先生に向き直った。


 「やぁだ、広。貴方、全然懐かれてないじゃない」

 「なんでだよ」

 「だって、従兄弟で一緒に住んでるっていうのに、未だ名字って」

 「仕方ないだろ、出会いが教師としてだったんだから」


 そう言いながらスプーンを口に運ぶ先生。その味に、若干顔を綻ばせるのが可愛い。そんな先生を横目に、叔父さんがひらめいた顔をする。


 「心君。この際だから、名前で呼んでみたらどうだい?」

 「そうね!それがいいわ」

 「な、名前ですか……」

 「そうそう。広って」

 「で、でも……呼び捨ては流石に……」


 チラ、と先生を見ると、先生は苦笑を見せる。


 「心?無理しないで良いよ」


 先生はそう言ってくれたけど、本音を言えば、俺は名前で呼んでみたかった。

 希さんは先生のことを名前で呼んでた。それに対抗したいわけではないけど……やっぱり、好きな人の名前は特別だから。

 
 (さん、は少し堅苦しいから……くん付け……?)


 俺は意を決してスプーンを置く。先生を見つめながら膝の上に手を握り、緊張で乾いた喉から懸命に声を出した。


 「ひ……ひろ、くん……」


 恥ずかしくなって、徐々に尻窄みしてしまった。名前もまともに言えないなんて、情けない。

 でも仕方ない。だって、名前を呼ぶだけで、こんなにも胸がドキドキしてしまう。それくらい、先生のことが大好きだから。

 ぷしゅう、と音がしそうなほど顔が熱くなり、俺は俯いた。多分耳まで真っ赤になっていると思われる。


 (恥ずかし……)


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