先生、おねがい。

あん

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 放課後。今日は金曜日だからバイトがないので、学校の近くのスーパーに夕食の買い出しに来た。

 カゴを持ちながら、ぼーっと食材を見て回るも、なかなか今日のメニューが思いつかない。


 「先生、何食べたいんだろ……」


 先生はなんでも美味しいって言って食べてくれて、どんな料理が好きなのかいまいち把握できていない。

 リクエストを聞いたときは、ちゃんと答えてくれるけど、いつも聞いてばかりじゃ申し訳ないし……。


 (でも、魚よりはお肉の方が好きそう……?)


 先生はスラッとした見た目の割に、結構よく食べる。でも、ガツガツって感じではなくて、箸の持ち方から食べ方まで、全てにおいて綺麗で格好良い。

 そんな先生の食事風景を思い浮かべて、浮かれた気持ちになってしまった。つい唇まで鮮明に想像してしまい、慌ててかぶりを振る。


 (うう……駄目駄目)


 最近の俺はこんなことばかり考えていて、本当に情けないし恥ずかしい。良い加減にしなきゃ、と自分を律して、買い物に集中した。


 (あ、安い……)


 ちょうどお肉のコーナーで良いお肉を見つけたので、手を伸ばすと、ちょうど同じお肉を取ろうとした人と手がぶつかってしまった。


 「あっ、ごめんなさいね」

 「い、いえっ。こちらこそ」


 慌てて手を引っ込めて顔を上げると、俺は息を飲んだ。


 (わぁ……綺麗な人……)


 緑色の着物がよく似合っているこの女性は、四十代後半くらいだろうか。穏やかな瞳と、整った顔立ち。目の横に刻まれた微かな皺さえも、その人の魅力に感じる。まさに大和撫子のような女性だった。

 思わず見惚れてしまった俺に、女性が首を傾げる。


 「あら?貴方、その制服……もしかして、すぐそこの学校の子?」

 「は、はい。そうですけど……」


 そう言うと、女性はパアッと表情を明るくした。


 「あらまぁ!うちの息子、そこの化学教師やってるのよ」

 「え……」


 (化学って……)


 うちの学校の化学教師で、この年代のお母さんがいる人は、一人しか思い浮かばない。

 そんな俺の予想は見事の的中で、女性はその人と同じ、穏やかな優しい瞳でニコリと微笑んだ。


 「高谷広って言うんだけど、知ってるかしら?」
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