先生、おねがい。

あん

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 「夏休みのことだろ!」

 「え、夏休み……?山田君は何か楽しみなことがあるの?」

 「え?」

 「え?」


 ぱちぱちと目を瞬かせる山田君。何か変なことを言ってしまったのだろうか。首を傾げる俺に、山田君はグイッと顔を寄せる。


 「学校休みで、ずっと遊べんだぜ!?夏休みは楽しいことばっかりじゃん!」

 「あ……そっか。ふふ、そうだね」


 そうだ。友達の多い山田君には、予定がいっぱいあるのだろう。


 (先生はいつも通り仕事だろうし……俺には関係ないな)


 むしろ自分が学校に行かないぶん、先生に会える時間が少なくなるのが寂しい。一緒に住んでるくせに、なに贅沢言ってるんだって思われちゃうかもしれないけど。


 「俺さ俺さ、日帰り旅行行くんだ!」


 俺の隣の、まだ登校してきていない子の席に座った山田君が、楽しげに話し出した。俺は話題がうまく変わったことに安堵して、山田君に問いかける。


 「旅行?わぁ、良いね。どこに行くの?」

 「んーと、場所まではまだ分かんないけど……前にさ、近所の兄ちゃんの話したじゃん?」

 「うん」


 家族みたいなお隣のお兄ちゃん。その話のおかげで、俺は先生と暮らす決心がついたから、よく覚えている。


 「その兄ちゃんが働いてる店で、計画してんだって!でも家庭持ってる人は大抵断るから、人数に空きがあるだろうし、一緒に来るか?って」

 「へえ」

 「俺と同い年のバイトも二人いるっていうしさ。今からちょー楽しみ!」

 「同い年?」


 さすが人付き合いが得意な山田君。初対面の人がいるところでも物怖じせずに、楽しみだって思えるのは本当に凄いし、尊敬する。


 「そ。なんか、一人は控えめな子で、もう一人は不良だって」

 「不良……?怖いね……」

 「でも、中身はいい奴だって、兄ちゃんが言ってた!」


 (戸塚君みたいな人かな……?)


 見た目が怖くて、中身は優しい。まさに戸塚君みたいな人。


 「夏休みが終わったら、思い出話、聞かせてね」


 とっても嬉しそうに話す山田君が微笑ましくてそう言うと、山田君は少し照れたように目を伏せた。


 「な、夏休みが終わったらなんて言わないでさっ、望月とも思い出作りたいなーなんて……」


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