先生、おねがい。

あん

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 「も、もちっ、望月っ!?」


 (ど、どうしよ……見られた、よね?)


 さっきとは別の意味で心臓をバクバクさせる俺に、山田君が大きく口を開き──


 「望月、熱あんの!?」


 と、心配そうに駆け寄ってきた。


 「へ……熱?」

 「えっえっ、どうしよ!!やっぱ冷却シート買ってくれば良かった!?」

 「山田、落ち着きなよ。学校の自販機にそんなものはないさ」


 山田君はさっきの行為が熱を測るためのものだと勘違いしたみたいで、山田君のすぐ後に入ってきた松野君も特に気にした様子はない。

 想像してた反応と違って、戸惑いの表情を先生に向けると、先生はバツが悪そうに苦笑いをした。それが二人だけのイケナイ秘密みたいで恥ずかしくなった俺は、先生から目を逸らしてしまう。


 (と、とにかく、誤解とかなきゃ……っ)


 「や、山田君。俺、熱はなかったみたい」

 「ほんとに?」

 「う、うんっ。少し休んだら、もう良くなったよ」


 さっきまでドキドキしすぎて気が付かなかったけど、体調は本当に良くなっていた。

 たぶん水分を取ったのと、外より涼しい校舎内に入ったのが原因だろうけど、それ以上に、先生と同じ気持ちだったって驚きが具合悪いのを吹っ飛ばしてくれたんだと思う。


 (だって……本当にびっくりした……)


 「はぁ、良かったー」


 心から安堵した様子の山田君を横目に、松野君がケラケラと笑う。


 「山田のやつ馬鹿だよ。こんなに飲めるわけないのに、もっちーのために、スポドリ七本も買ってきたんだ」

 「だって、熱中症には水分だろ!?」

 「だからって七本もいらないでしょ」

 「ラッキーセブンだし!」

 「はいはい。あ、これは俺から。塩分のタブレット」

 「あっ!抜け駆け!」


 (いつのまに、俺の周りはこんなに賑やかになったんだろう……)


 ワイワイと言い合う二人に思わず笑みが溢れた。

 以前まではひとりぼっちだった。寂しいって思いに蓋をして、ひとりが楽だって言い訳をして、自分を殺した。それが俺にとって一番楽だった。


 ──でも今は違う。


 (今の方が良い。傷つくのを恐るよりも、誰かと笑いあえる日々の方が、ずっと尊くて、大切で、意味のあるものだから)


 そのことを、皆が教えてくれた。


 「ふっ……ぅ……」


 途端に胸が暖かくなって、ポロリと落ちた涙。

 そんな俺に三人とも驚いた表情をした。それはそうだ。笑ったと思ったら急に泣きはじめたのだから、驚いても仕方ない。


 「ごめ、なさっ……あれ……なんで、だろ……」


 俺自身、皆に心配させたくないから早く泣き止みたいのに、涙は次から次へと流れてほっぺを濡らし続ける。


 「望月!?やっぱ具合悪い!?」

 「ううん……ちが、くて……」


 これは、悲しい涙じゃなくて、嬉し涙。

 こんなに優しい人たちに囲まれていることが、すごく──


 「幸せ、だなって……」


 本当に、幸せ。

 どんなに感謝してもしきれないくらいだけど、それでも、俺に言えるのはそれくらいしかなくて。


 「あり、がと……」


 震えたこの思いが、俺の大切な人たちに、ちゃんと伝わりますように。
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